第3話
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学校からの帰り道、たまたま通りかかった店先に展示されていたゲームに目が止まった。
俗に言う乙女ゲームと言われるそれは、他に並べられている物よりも目を引く存在感があり思わず店に入り手に取ってみる。
「グロウリアの魔法?聞いた事ないゲームだなぁ……あ、でもイラスト綺麗だし買っちゃお」
ゲーム内の雰囲気が気に入ったのもあり、即購入を決意。いざ家に帰りプレイしてみたが面白すぎて続ける手が止まらなかった。
ストーリーのざっくりとした内容としては、平民であったはずのヒロイン、シアナ・ルミナスがある日突然光属性という稀有な能力に目覚め、戦場で戦う数々のイケメン達を治療しながら、次第に恋に落ちて行くと言う割と王道寄りなストーリーだ。
このゲームの中の【グロウリア】という国では人それぞれが魔法を使いつつ暮らしており、中でも属性を持ち戦場で手柄を挙げた者のみが爵位を受け取ることができるのである。
属性としては皇族のみが使えるという雷属性の他、風、火、水、木、土という属性がある。
そんな中ヒロインが覚醒した属性は上記にない【光】だ。治癒の魔法や魔族を退ける力を使える彼女は一躍戦場の天使のようなものとなり、男爵ではあったが爵位を授かる。
それを快く思わなかった存在である悪役、もう一つの稀有な属性【闇】を持つエスティア・ラートリーが何度も邪魔をして来たり、魔物を仕向けて来たりする苦難を乗り越えながら、攻略対象キャラの愛を勝ち取るゲームこそがこの【グロウリアの魔法】である。
「はー!?またエスティア!?何回邪魔してくるのよ!もー!!どうせどのルートでも断罪されるんだから大人しくしててよ!」
どの攻略ルートを選んでも必ずと言っても良いほど邪魔をしてくる悪役の存在に、私はいつも悶々としていた。ぽっと出のヒロインにあっさり爵位が与えられた挙句、聖女だ何だと持て囃されるヒロインがどうしても気に入らないらしい彼女は散々ヒロインと攻略対象達との仲を邪魔した挙句、最後には魔力を暴走させてしまい、必ず攻略キャラに討ち取られる。
どんなにヒロインを邪魔しようと最後に待ち受けているのは断罪なのだから、大人しくしておけば良いのにと思ってしまうのは無理もないと思う。
「よし!ルークの攻略も完了ー!!はー!やっぱりイケメンって健康に良いー!」
もう何周目かも分からない周回攻略を終え、ゲーム端末を枕元に放る。毎日学校から帰ってきては攻略、帰っては攻略を繰り返し行っていた為にストーリーはもう十分すぎるくらいに頭に入ってしまった。
段々と眠くなる意識にまで【グロウリアの魔法】の事が頭にこびりついて来るくらいにはこのゲームの虜になっている。
「明日も周回プレイしなきゃ__」
そう呟きつつ寝落ちしてしまい、次に目を覚ました時には何故か知らない部屋に居た。
ガバッとベッドから起き上がり辺りを見渡すが、中世風な建物だという事くらいしか認識ができず、混乱してしまう。
「え、え?何これ夢……?」
夢である事を祈って頬を思いっきり抓って見るが、希望虚しく痛みを感じてしまい、はわわわと頭に手を当て暫し蹲る。その時ハラりと視界に映りこんだのは綺麗なサラサラとしたピンク色の髪の毛だ。
そうまるで【グロウリアの魔法】のシアナのような髪色だ。もしやと思いつつ慌てて鏡を見つけ、顔を近付ける。するとそこにはシアナそのものの容姿を持った美少女が写りこんでいた。
ピンク色のふわふわとした肩までの髪にクリっとしたピンク色の瞳。思わず守りたくなってしまうような可愛らしさと可憐さを持ち合わせた美貌は、いつもゲーム端末から見ていたシアナの特徴によく当てはまる。
「うそっ!私グロウリアの魔法の世界に転生したのかな!!」
もしそうなのであれば嬉しすぎる!何回も何回もプレイしていた大好きなゲームの世界に来れるだなんてオタク冥利に尽きるし、一番嬉しいのはヒロインになり代われた事だ!
数々のイケメンとあれやこれや関われるだなんて最高に決まっている。
「こうしちゃ居られない!ゲームのストーリーまとめなきゃ!」
急いで紙とペンを見つけ出し、ドカッと椅子に座り込んでからストーリーをまとめる。
まず、自分についてだ。シエナ・ルミナスはこの世界では珍しい魔法が使えない人間だったものの、光属性にだけは目覚めた。
使える魔法は光属性の物に限るが、治癒や浄化がある分強みはあると言える。
そして一番の敵であるエスティア・ラートリー。彼女は全ての属性を平等に扱う事ができる上に闇属性も持ち合わせている。闇属性の特徴としては魔物の懐柔や魔法の解除、催眠などができる。
そして一番厄介なのは彼女が魔女である事だ。たとえ魔力が尽きたとしても彼女はポーションと言われる物を作り出す事が出来る為に負けを知らない存在と言える。
「まあ原作ストーリーでは無理しすぎて魔力が暴走したんだけどね……」
そう彼女は嫉妬に狂い魔力を暴走させた後にプレイヤーが攻略したキャラに討ち取られる。そう決まっているのだ。
最終的にはヒロインが勝つのだからあまり気にしなくても良いような気はするが、私がこの世界に転生して来たのと同様、何があるのか分からないのが常だ。
「よし、原作ストーリーはだいたい書き出せた。現状把握だけでもしとこうかな」
今自分のいる豪華な部屋的には私の一族はもう男爵に就いたのだろう。そして近場に置いてあった新聞紙を見るに半月後には大規模な魔物の討伐が行われる。これはエスティアが招いた魔物という訳ではなく、自然発生する魔物を定期的に討伐する行事だ。
ここでヒロインであるシアナは攻略対象達との初遭遇イベをこなす事になるのだ。
現状ではまだ攻略キャラを定めていなくても十分楽しむ事が出来る時間軸なので【グロウリアの魔法】ファンとしてはゆっくりキャラ達を拝む事のできる絶好のチャンスという訳だ。
「討伐では私の存在をしっかりアピールしなきゃ」
もしかしたらゲームとは違い、ハーレム展開に持ち込めるかもしれない。全部で五人もいるイケメン達から愛されるだなんて展開が来たら私はもう悔いは無いと思う。
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