第2話

 チュートリアルを見るに、画面に出ているレシピを見つつ作業場にある薬草を組み合わせ、最後に指を鳴らし魔力を込めるとポーションが出来上がるらしい。


 そんな馬鹿な……とは思いつつそれ以外に頼る物もないので従う他ないだろう。

 レシピ通りに混ぜ合わせた薬草やら液体を一気に小瓶に流し込み、蓋をしてから指を鳴らしてみた。

 またもやポンッと音をたてた小瓶の中身は、先程まで薬草達が無惨にもすり潰されたただの青汁のようか液体だったのに、魔力を込めた途端半透明の綺麗な紫色の液体へと変化したのである。


「すご……」


 キラキラと輝く液体を見つめ自分の才能に驚いてしまった。チュートリアル画面がなかったらそもそも作れなかった話ではあるが、それでも一発で成功させてしまうだなんて中々有能だと思う。


 ポーションの蓋がしっかり閉まっているかを再度確認してから待たせているルークの元へと戻った。


「ポーションができたわ。お代は……銀貨2枚と言ったところからしら」


 先程チュートリアル画面でこの世界の金銭について予習しておいたのだが、銀貨2枚もあれば1ヶ月の食費くらいにはなる値段である。ポーション一つに対してならそれ相応の値段かと思い設定した値段だ。


 だが私の言葉を聞いたルークは豆鉄砲を食らったかのような表情を見せた後、数回瞬きを繰り返すと冗談かな?と値段に対して確認をして来た。


「ご不満かしら?」


あまりに驚いたような表情をするものなので、もしかして値段が高すぎたのかとドギマギしていると、返って来たのは意外な返答だった。


「……いや、この上級ポーションで銀貨2枚だなんて破格な安さに驚いたんだよ」

「そうかしら?」

「普通なら銀貨4枚程の価値はある」


 驚いた。自分の思っていた倍は価値があったらしい。

ルークの言葉に半信半疑で手元にあったポーションを見てみるが、如何せん私には価値があまり分からない。


それほどすごい物を作ったのか私は……。


 銀貨4枚もあれば結構贅沢な食事を1ヶ月も送れる。

 だがしかし、銀貨2枚と言った手前今更4枚もぎ取るのも如何なものかという私の中の善の部分が語りかけてくるので言葉に詰まる。


「わたくしはそれほど金銭に困っている訳ではないので、銀貨2枚でいいですわ。……それに、ここで公爵様との縁を作っておくと考えれば安いものですもの」

「おやおや、ラートリー嬢は中々手強い。これから楽しくなりそうだ」

「ええ、これからもご贔屓にして頂けると光栄ですわ」


 ひとしきり笑ったルークはそのままポーションを受け取り颯爽と帰って行った。

でまかせにちょっとした本音を混ぜ合わせ、適当に値段に関する話を濁してみたが、何とかなったようで一安心である。


 ひと仕事を終え、何か無いかと広さの割に使用人1人居ない屋敷の中をうろ付きつつ散策していると、厨房がある事に気が付いた。

厨房にしては広い空間に人っ子一人いないのを見て思わず足を踏み入れてみる。

 単なる好奇心というのもあったが、お昼時というのもありそろそろお腹が空いてきて居た頃合だったので、何か食べるものは無いか探したかったのもある。


「じゃがいもと人参、それと牛肉か……」


 見たこともない食材達を掻き分け、見覚えのある食材を探して見つかったのはこの三つ。

調味料達を見るに私が作れそうなものと言えば肉じゃがくらいだろうか。

 早速適度な大きさに食材達を切って鍋に放り込む。前世ではあまり料理をした覚えはないが何とかなるだろう。

 焼いて茹でて煮込んで、うろ覚えではあるが何となくの工程を得て肉じゃがを作ってみた。

見た目としてはテレビであればギリギリ自主規制が入りそうなビジュである。

 見た目こそ悪いものの、味はどうにかなっているであろうと思いつつ一口口に運んでは見たがすぐに吐き出した。


「うっげほっ……うえぇぇ不味っ」


 今までに感じた事も無いような形容し難い不味さに、前世でもう少し料理について頭に入れておくべきだったと思い知らされた。

 あれだけ火を強くしたにも関わらず、じゃがいもの表面が焦げるだけで中の方には火が通っていない。

ジャリジャリと嫌な感触のする肉じゃがになりたかったもの達を残すのも勿体ないので、無理やり口に詰め込む。


「……エスティア様、何をなさっているのですか」


 嘔吐きながらも何とか食べ物を粗末にしないよう激マズ肉じゃがを消費していると、不意に背後から声をかけられた。


 屋敷に誰も居ないのだと油断していたのもあり、まさか声をかけられるとは思っていなかったので私の全身はビクリと大きく反応した。


 び、びっくりした……心臓が飛び出るかと思ったわ……。


 パッと振り向いて声の主を視界に捉えるが、思わず数秒固まってしまった。

 シナモンベージュ色の髪をサラサラと靡かせる執事のような服を身にまとった青年が目の前に立っていたのだ。

瞳は茶色で一見地味に見えるが目鼻立ちが整っているのもあり、彼を彼として引き立てるには十分に思えた。


パチリと目が合うとまるでイタズラをしている子供を見つけた親のような目線でこちらを見ているのが良く分かる。


「あなた様が料理をしようとなさるとは……明日は槍が降りそうですね」


呆れたようにさらりと嫌味のようなものを言ってくるのを見て、私は焦りに焦っていた。


まずい。この体の持ち主とどういう関係だったのか分からない。

下手な事を言って中身がエスティア本人ではないとバレたらどうなるのか分からないし、第一名も知らない土地に放り出されたりでもしたら生きていける自信がない。


………いや、そんな事よりも。だ。

先程食べた肉じゃがモドキのせいで視界がぐるぐると回り始めている。

本人だとバレるか以前に自分で作ったもののせいで己の命が危ない。


返事をする事なくフラフラとし始めるこちらの様子を見て首を傾げる青年を見たのを最後に、私はその場に倒れ込んだ。


「エスティア様!?」

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