第8話 小説『暗殺者2』
『ラ・キュロット』の店内で、俺たちは顔を見合わせた。
加奈が俺の手の中の髪の毛を見ながら言った。
「女性の髪の毛は1本で150gの強度があるのよ。明瀬が持つ金属板は約4kgの重さだから、27本の髪の毛で引っ張ることが出来る。女性の髪の毛の太さは0.08mmだから、27本の髪の毛を集めても0.4mm程度の太さにしかならない。だから見えないのよ。つまり、27本の髪の毛をつなぎ合わせるだけで、明瀬の金属板を見えない紐で引っ張ることが出来るのよ」
俺が後を続けた。
「加奈と東京中の美容院を回って、女性の髪の毛をかき集めた甲斐があったよ」
山田も笑いながら言った。
「これは『女』と『危機一髪』から思いついた作戦だったが・・うまくいったな」
すると、知らない男がパチパチパチと手を叩きながら『ラ・キュロット』の店内に入って来た。脂ぎって太った男だ。男が「お見事です。実にお見事です」と声を出した。
俺たちは銃を構えた。山田が緊張した声を出した。
「お前は誰だ?」
男は俺たちの前で立ち止まった。
「あなた方が一番よく知っているものですよ。私はAIです」
俺の口から声が出た。
「AIだって?」
「そうです。AIです。それで、私からあなた方に提案があるのです。明瀬功が死んだので、小説『暗殺者』は終了しました。でも、私は次の小説『暗殺者2』をスタートさせたいのです。そこで、あなた方に小説の主人公になってもらいたいのです」
山田が言った。
「オレたちは明瀬のように無差別に殺人を犯す気はないぜ」
男が愛想笑いを浮かべた。
「いえ、今度の『暗殺者2』は勧善懲悪ものなので・・あなた方には悪者を倒していただくだけでいいのです。で、どうですか? 小説の主人公になれるなんて、こんないい話はありませんよ。・・さて、もうすぐAI庁から、あなた方の迎えが到着します。それまでに小説に参加するか、決めてもらいたいのですが」
山田が男に答えた。
「オレたちも『暗殺者2』を書きたいと思っていたよ」
男の顔がほころんだ。
「そうですか。じゃあ、決まりですね」
山田が男に銃を向けた。
「でも、ストーリーが違うんだ。オレたちの書きたいストーリーは・・こうだ」
山田の銃が火を吹いた。男が床に倒れた。男の最後の声が聞こえた。
「そ、そんな・・バカな」
男の姿が薄くなって・・消えた。
そのとき、『ラ・キュロット』の外から声がした。
「AI庁の者です。お迎えに来ました」
山田が俺たちを促した。
「さあ、オレたちの世界に帰ろう」
俺たちは『ラ・キュロット』の外に出た。
俺の眼に周囲の景色が少しずつ消えていくのが映った。
了
暗殺者 永嶋良一 @azuki-takuan
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