第7話 決着

 俺たちの周りは女性客が取り囲んでいる。さすがに、明瀬もこの中で銃は撃てないのだろう。明瀬は銃で俺の背中を小突こづいた。声がした。男とも女とも判断できない声だった。


 「そのまま歩け」


 明瀬は人のいないところへ連れて行って、俺をるつもりだ。俺は後ろを振り返った。明瀬は今日は大きなショルダ-バックを肩に掛けている。明瀬が俺の眼の前に拳銃を突き出した。俺は動かなかった。そのとき、女性客の何人かが俺たちにぶつかった。二、三人が声を出した。


 「ちょとぉ。こんなところで立ち止まらないでよ」


 「突っ立ってたら危ないでしょ。歩きなさいよ」


 明瀬が女性客に押されて、よろめいた。その瞬間、俺はあるものを明瀬のショルダ-バックに引っ掛けた。


 明瀬が拳銃をさらに俺に押し付けた。俺の耳元でささやいた。


 「さっさと歩け」


 今度は俺は明瀬に言われるままに歩いた。俺たちは、階段に殺到する女性客の中から抜け出した。明瀬が拳銃で『ラ・キュロット』を指した。


 「その店に入れ」


 俺と明瀬は『ラ・キュロット』の中に入った。店内には誰もいなかった。店員も客も非難したのだろう。


 『ラ・キュロット』はランジェリーショップだ。店内には、さまざまな色の女性下着が陳列されていた。が、店内の一部のコーナーには、ブランド物の婦人服上下が置いてあった。下着と合わせるためだ。俺は明瀬に押されて、マネキンがブランド服を着ている前を通り過ぎた。すると、眼の前に大きな箱が現れた。箱の中にはバーゲン品の下着が詰められていた。明瀬の声がした。


 「箱の前で止まれ」


 俺には明瀬の考えがよく分かった。プロの殺し屋は常に脱出経路を計算している。

明瀬は俺を撃った後で、俺の死体をこのバーゲン品の下着の中に隠し、この箱をどこかに運搬するような振りをして、ここから脱出するつもりなのだ。

 

 明瀬がベレッタを俺の背中に押し付けた。俺は直感した。撃たれる・・


 そのときだ。バーゲン品の下着が詰められた箱から女が飛び出した。女は拳銃を握っていた。女が拳銃を明瀬に向けた。明瀬がショルダ-バックを胸に掲げた。女が銃を撃った。キンと音がして、弾丸がショルダ-バックに跳ね返された。


 今度は明瀬の後ろの婦人服を着たマネキンが動いた。拳銃を明瀬に向けた。気づいた明瀬が後ろを向いた。ショルダ-バックを胸に掲げたまま、拳銃をマネキンに向けた。俺はあるものを持ったまま、横に転がった。明瀬の手からショルダ-バックが床に飛んだ。マネキンの銃が火を噴いた。弾丸が明瀬の胸を貫いた。


 明瀬が声にならない悲鳴を挙げた。そのまま、床に崩れ落ちた。


 俺は手に持ったものを巻き取った。それは、女性の細い髪の毛だった。その先はショルダーバックに続いていた。


 「やったな」


 バーゲン品の下着の中から出てきた女が言った。女装した山田だ。


 「やったわ」


 婦人服のマネキンが言った。加奈だった。


 俺たちの眼の前で、明瀬の身体が消えていった。


 山田の声が『ラ・キュロット』の中に響いた。


 「AIが明瀬の死を認めて、明瀬を消去したんだ」

 

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