第6話 仕掛け

 次の日、俺と加奈は東京の街を歩いて、ある物を集めて回った。


 その翌日だ。俺は再び百貨店に出かけた。そして、先日と同じアナウンスを流してもらって、明瀬を待ったのだ。


 しかし、最初のD百貨店には明瀬は現れなかった。俺は次のE百貨店に行った。


 先日と同じように、俺は3階の婦人服売り場に上がった。今度はランジェリーショップの前に立った。『ラ・キュロット』という店だ。


 少しすると、俺が頼んだアナウンスが女性の声で店内に流れた。


 「お客様のお呼び出しを申し上げます。都内からお越しの明瀬様。明瀬功様。ご友人が3階、婦人服売り場、『ラ・キュロット』の前でお待ちでございます」


 俺は先日と同じ黒のスーツを着ていた。上着の内ポケットには、サイレンサー付きのワルサーPPKが入っている。店が違っているだけで、すべては、先日のC百貨店のときと同じなのだ。いや、違いは一点だけあった。先日の『ブティックK』はフロアの中央にあったが、今日の『ラ・キュロット』は階段のすぐ横だった。俺は万一の避難場所として階段が使えるように、階段の横の店を選んだのだ。


 先日と同じように、俺の前を何人もの女性客が通過して行った。中には、俺を胡散うさんくさそうに見ながら、『ラ・キュロット』の中に入っていく女性客もいた。


 先日、明瀬は女性客に扮して現れた。そのため、今日はおそらく男性の扮装で現れるだろう。いや、それとも逆をついて、先日と同じ女性の姿で現れるかもしれない。先日、俺は、明瀬が男の姿で現れると予想していて、意表を突かれた。男女どちらで現れても、対応できるように準備しておかないといけない・・


 俺の思いは千々ちぢに乱れた。


 そんな中で、緊張の時間が過ぎて行った。


 1時間ほど経過した。俺はここE百貨店をあきらめて、次のF百貨店に行こうかと思った。


 そのときだ。


 非常ベルとともに館内放送が流れた。


 女性の声で「火事です。火事です。3階北側フロアで火災が発生しました。 落ち着いて階段から避難してください」という放送が繰り返されたのだ。


 3階の女性客たちが一斉に階段に向けて走り出した。百貨店の女性店員たちが「走らないでください」、「危険ですから、走らないでください」と連呼したが、女性客たちは止まらない。俺が立っている『ラ・キュロット』は階段の横だ。たちまち、俺の眼の前に女性たちの塊ができた。


 しまった。この中では拳銃は使えない。


 たちまち、俺の身体は女性たちでもみくちゃになった。そのとき、俺の背中に冷たいものが押し付けられた。振り返ると、紺のスーツを着たキャリアウーマンが立っていた。手には拳銃が握られている。先日のあのベレッタだ。明瀬だ。

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