第2話 2024年東京

 俺たちは2024年の東京駅の前に立った。眼の前を多くの人が歩いていて、多くの車が行きかっている。『個人用飛行ビークル』がない時代だ。俺は『飛行ビークル』がないと、道がこんなに混雑することを初めて知った。


 年輩の男が言った。


 「まずは作戦会議といこうじゃないか」


 俺たちは駅ビルの中の喫茶店に入って、『コーヒー』という飲み物を頼んだ。この時代の人々がよく口にする飲み物らしい。コーヒーが運ばれてくると、年輩の男が口を開いた。


 「まずは自己紹介だ。と言っても、本名を名乗る必要はないよな。オレは山田和夫としておこう。殺しの手口は仲間でも話せないぜ」


 女が言った。


 「じゃあ、私は鈴木加奈よ。加奈って呼んでもらっていいわ」


 俺も言った。


 「俺は・・そうだな。佐藤進とするか。進と呼んでくれ」


 山田が俺と加奈を見た。


 「進と加奈か。しかし、この仕事は厄介だぜ。催眠学習によると、標的ターゲットの明瀬功は変装の名人で、男にも女にも化けるって言うじゃないか」


 加奈が口を出した。


 「そもそも明瀬功って、男なのか女なのかも分からないし、年齢も不明なんでしょう。長官室で見たイラストは変装の一つだったし・・。顔も性別も年齢も分からない標的ターゲットをどうやって探せばいいのかしら?」


 山田が膝を乗り出した。どうも山田が俺たちのリーダー格という存在になったようだ。


 「相談なんだが・・AIが明瀬を使って、オレたちを殺しに来ることは間違いない。そこでだ。誰かが囮になるってのはどうだい?」

 

 俺と加奈が同時に叫んだ。


 「囮!」


 山田が続ける。


 「そうだ。誰かが明瀬のことを街中に聞いて回るんだ。そうしたら、明瀬が必ずそいつを狙う」


 加奈が首を傾げた。


 「でも、私たちのこの会話もAIに聞かれているんでしょう。囮と分かっていて、AIが乗ってくるのかしら?」


 山田が笑った。


 「大丈夫だ。明瀬は小説の中で生きている。これは小説なんだ。オレたちももう小説の登場人物になっていて、オレたちの会話で、今も時々刻々と小説が書き換えられているわけだ。だから、AIは必ず小説のストーリーの一部として、明瀬にオレたちを殺させるはずだ」


 「なるほど」


 加奈はそれで納得したようだ。山田が俺と加奈を交互に見た。


 「で、誰が囮になる?」


 山田と加奈が俺の顔を見た。俺は苦笑した。


 「分かったよ。俺が囮になるよ。明瀬に襲われたら助けてくれよ」


 山田がコーヒーを飲み干しながら笑った。


 「若いの、そう来なくっちゃあ。この時代のことわざで『若い時の苦労は買ってでもやれ』っていうのがあるそうじゃねえか。安心しな。おめえの骨は拾ってやるぜ」

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