女子高生と出会う、何ら変哲のない帰り道

烏の人

第1話 何ら変哲のない帰り道

 会社でミスをした。割りと重大な会議に遅れた。俺の責任だ。文句はない。

 見上げると月だけが光っている。星どもは街明かりにかき消され、あるはずの静寂も夜の雑多にかき消され、世界は主観的に広がっている。もう夜もいい時間だろうに、世の中と言うのは煩いものだ。

 視界を真下に移し、歩き慣れた道を行く。体全体に衝撃を感じたのはその直後の出来事であった。誰かにぶつかったのだ。存在を確認するより先に「あ、すみません。」その言葉が出る。自然と頭が下がる。


「いや、こっちもごめんなさい。」


 その言葉を聞き入れて、顔を上げた。視界に入った姿をみて少し顔をしかめる。制服姿の女性。おそらく、高校生。もう22時は回っている。


「どうかしたんですか?」


 少し反応があからさまだったのかそんなことを聞かれる。


「あぁ、いや、何でも。」


 それだけ言って立ち去ろうとした。


「って、なんだお兄ちゃんじゃん。ちょうど迎えに行こうと思ってたんだよ。ほら帰ろう?」


「は?」


 荒唐無稽なことを言い出す少女。早くと言わんばかりに手を引かれる。疲れきった体に抵抗する体力もなく、されるがままに引っ張られる。そんな状況が数分続いた。

 気がつけば、家から近い公園に来ていた。昼間はランニングする人やら犬の散歩をする人やらで溢れているのだがこの時間帯はさすがに人気がない。


「だから、さっきから何なんだよ?」


「はぁ、全くお兄ちゃんは………いや、いいや。誰もいないし。」


 と、ようやく茶番から解放される。続けて少女は言った。


「今日、1日泊めていただけないでしょうか!?」


 深々と頭を下げられる。


「前科持ちにはなりたくないんですが。」


「おい、うちはJKやぞ。」


「JKだからだよ。帰るべき所があるだろ。」


「はぁ…わかってないなぁ、お兄さん。察しなよ。モテないよ?」


「初対面にボロクソ言われる筋合いはないんだが…家出か。」


 おもむろに携帯を取り出す。


「あぁ、待って!警察とか児相はやめて!!」


「何でだ。」


「もう二度とお世話になりたくない。」


「不良か。」


「不良って言うな。不良って。」


「事実そうなんだから仕方ないだろ。」


「それを言われたら…まあ、そうだけど。話だけでも聞いて!お願い!!」


「…話だけな。」


「あれは今から―――――。」


「その話長くなるか?」


「…そこそこ。」


「座ろう。」


 散々な日だ。怒られた今度はJKの面倒臭そうな愚痴。正直もう帰って寝たい。そんなことを考えながら、場所を移して池のほとりのベンチに腰かける。


「あれは今から3時間前の出来事であった。」


「大層な話にしなくていい。要は親との喧嘩だろ?」


「おもんな。」


「当たりか。原因は?」


「…うちが学校に行かないから。」


「不登校か?」


「うん。」


「なんでだよ。そのなりは完全に陽キャだろ。」


 小綺麗な彼女を見るに、学生時代の自分とは相容れない存在であったことは意図も簡単にみてとれる。


「そう言う決めつけ良くないと思うな。」


「まあ、悪かった。にしたってなんで制服着てるんだよ。」


「昼間は学校行くふりしてるから。そんで、帰ったら学校から連絡来てたみたいでめちゃくちゃ怒られた…。」


「そんで嫌になって家出して今に至ると?」


「そう言うこと。で、たまたまお兄さんと出会ったから声かけてみたんだけど………。」


「だめやぞ。」


「ですよね………。」


「とりあえず、話は聞いてやった。これで満足か?俺はもう帰って寝たいんだが。」


 そう言って立ち上がる。


「あぁ、待って。連絡先だけ交換したい。」


「犯罪臭がする。」


「連絡先だけだし大丈夫だって。」


「………はぁ、解った。」


 そうして、JKの連絡先を手に入れた。一歩間違えば前科が付きそうな文言だ。なにもしなければ問題はない。が、随分と不安な話だ。

 別れた直後。携帯に通知が一件。nanaと言う人物からであった。見てみると、流行りのマスコットキャラクターのスタンプ。端的に『よろ』とだけ返した。

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