剣技
「どうじゃ? 先代の手記じゃが、読めるか?」
「はい。この世界の文字に翻訳します」
iはそう言うと机に向かい正座し、羽ペンをインクに浸けて紙に書き出す。
その文字は正確で綺麗で、常に一定の隙間、字の大きさ、形を保っている。まるでコピーをしているかのように同じ文字が一寸違わず書かれていく。
「これは随分と達筆な」
だがいちばんの驚きはその速さだ。俺じゃ早くても1分間40文字かけるかどうかなのにiは70〜80と尋常じゃない速さで白紙が黒のインクに染まっていく。早すぎる。
「このペースだと、3週間で終わりそうじゃの」
「10日以内で終わらせます」
「休みは!?」
「皆さんと寝る時間は共にしますがそれ以外は翻訳に費やすことができます」
「前に食事は必要無いって言ってたっけ」
「別嬪さん、お主人間か?」
「アンドロイドです」
「あんどろいどか。聞いたこと無い種族じゃ」
iは手がかり関係なしに手渡された全ての手記を翻訳する気でいるらしい。手がかりなのは確かだがそれが役に立つ情報かどうかは話は別。
それはそれとして俺達は暇だ。
「何かあったら使用人を呼ぶとよい。イマノを付かせる」
「ありがとうございます」
小次郎さんはイマノと言う使用人をiの近くに付かせる。するとやることが無くなったのか考え事をしだす。少し考えてカタネに興味を出す。
「嬢さんの刀、見せてもらってもよいか?」
「はい! 武器屋で買った安物ですが!」
カタネは緊張しながら刀を渡す。小次郎はそれを引き抜くと刀を視る。
「随分と長く使っているの。手入れをちゃんとしている証拠じゃな。だが刀身が痩せてきてる。これ、何本目か?」
「2本目です」
「ふむ………向こうに道場がある。藁を用意させるから技を見せてくれ」
「わかりました!」
「俺も見てみたい」
道場へ行くと使用人が藁と刀を数本用意してくれた。
カタネは自身の刀を引き抜くと憧れの人の前でしていてた明るい表情が一瞬にして消え去る。眼の前の藁を見据えで斜めに切る。縦に切る。横に切る。2回切る。どれも藁は乗ったまま一寸のズレも無い。それを見て小次郎さんは感心していた。
俺は剣は使ってるが習ったわけじゃない素人。それでも凄いことがひと目で分かる。
「ほお、それほどできるとはなぁ、流派はどこだ?」
「流翼です」
「ギルドの自由な型か……」
あまりよくなさそうな目でカタネを見ている。技をいくつか見せてくれと言うとカタネは前に見せた流来の他に技を振るう。
「
左から右へ振り、即座に刃を反転させて右から左へ振る。すると刃が届いてない筈の藁が切れる。一度目で空気を切り二回目で切った何も無い空間に刃をぶつけて擬似的に大きな鎌鼬を作り出す技。
「
刀を後ろに構えて思いっきり踏み込んで一気に間合いを詰めて横を通ると同時に渾身の一撃で藁を7本同時に切る。
技を視る小次郎さんは最後の先帝だけは称賛した。
「どの技も非常に高い技量が要求される。だが残念にも技量と技の威力が釣り合っておらん。嬢さんに流翼は合ってない」
カタネは酷く驚く。
「流翼は自由な型の技が多く千差万別の使い手がいる。それこそ基礎から外れたモノや刃文乗みたいに刀の先入観を欺いた技もある。魔法使いなら魔法と組み合わせた特殊なモノまで。相当な技術が要求される。魔力をう使う特殊型意外ならできるようになるじゃろう」
使えるようになる程の技術力があるのならむしろあっているのではないかと思ってしまう。だが小次郎さんは否定的だ。
「さっきも行ったがお主は技量と技が合っていない。ワシの眼の前に立っておれ」
カタネは言われるままに小次郎さんの前に立つ。その瞬間、小次郎さんは既に腰にこさえていた刀を右手で振り切っていた。
抜刀も、振る動作も、何もみえなかった。認識した時には全て終わっていた。
数秒の静寂の後、カタネは自身に刃を通された事を自覚し咄嗟に体のあちこちを触る。
「切られて……ない?」
刃を通ったはずの体は傷一つ無かった。
「後ろを見ろ」
小次郎さんがそう言うとカタネの後ろにあった藁は切れていた。
「これがワシの技量じゃ」
刃に触れているものを切らず、刃に触れていないモノを切る。刀と言う概念そのものが崩壊していくような技にただただ言葉が出なかった。
「届かない場所を意図的に切る技術より、届かない場所まで切れる技量を磨け。今のお主の技量なら近いうちにできるようになる。今みたいに刃を通して切らない技量はまだまだ先の話じゃがな」
そう言うと小次郎さんはカタネの肩をポンポンと叩いて言う。
「刀を1振り貸す。ここにいる間はワシが見よう」
まずは刀の試し切りじゃな! 倉庫から刀を持ってくるよう使用人に伝える。カタネはまだ放心状態であった。
あれこれ俺の立ち位置どこ?
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