雨宿家

「ここがワシの家じゃ! 広いじゃろ?」


「ひ、広い。凄い御屋敷」


眼の前には和風の建築物。雑誌の絵でしか見たことがなかったけれど、沢山の木が使われていることはわかる。ログハウスとは理由が違う。普通の屋敷は3階、4階建てが多いがここの屋敷は1、2階建てのようだが、何より広すぎる。建物だけでなく広大な庭。岩や波模様のある砂が静けさを感じる。


木造建築はエルフという種族が伝統を重んじた森に建てるツリーハウスを作るが、こっちは広大な平地に奥深く建てるって感じがする。こう言うのを和と習った。


「なんというか、ただ立って見るだけなら落ち着く……」


「そうじゃろ。王宮とか見てるだけで眼がつかれて気が休まん」


王宮、確かに豪華な飾り、天井とか絵が沢山あって落ち着くどころか汗が出る。高い壺がそこら中にあっていつ割ってしまわないか不安だった。


玄関を開けて入ると真っ先に壺が目に入る。


………ここにもあるじゃんか。


和服の使用人らしき人がお辞儀をして迎えてくれた。


「おかえりなさい。斬様」


「ううむ。やはり斬に様はあわんのう。やっぱり小次郎にしてくれんか?」


「駄目です」

 

「兄様ならどうじゃ?」


「駄目です」


「斬は名前っぽく」

「当主なんですからちゃんとしてください」

 

「…………わかった」  


斬様はショボンとする。斬も名前っぽくないのはわかる。ササキコジロウって、日本人だから ササキ が家名で名前が コジロウ になるのか。 


「それはそうと風呂じゃ。湧いておるか?」


「既にご用意してあります」



――――――――――――




「露天風呂は贅沢だった」


「とっても良い湯だったね」


「浴衣を初めて来たよ」


「これは旅館浴衣といって、部屋着の比較的緩い浴衣です」


風呂から出た俺達。浴衣を貸してもらい客間でくつろぎながら団扇を仰ぐ。


「レク、入る前は緊張してたのに凄くくつろいでるね」


「いやー、小次郎さんと話してたら盛り上がっちゃって、燕が凄かった。前世で人生かけて切ろうとしたんだって」


「燕!? ってあの燕? 鳥の?」


「鳥の」


「燕返しの事ですね」


「そうそうって、知ってるの?」


「私の世界では歴史に名を刻んだ偉人です」


「マジ!?」

 

つまり偉人から偉人の家の人に転生したってこと?! 一体どんな徳を積めばそんなことになるんだ?


「はい。18歳、または78歳で亡くなったとされています」


「どんな差だよ!?」


「約600年前の人物なので記録が定かではないのです。なので本人から直接聴けるのは素晴らしい機会です。特に剣術に関しては是非とも見てみたいですね」


佐々木小次郎の歴史上の記録について話していると小次郎さんと小次郎を小さくして可愛くしたような人が古そうな書物を持って部家に入ってきた。


「どうも、雨宿斬の弟の雨宿霧と申しま………す」


朗らかな笑顔で頭を下げようとしたが、いきなりぼーっとしてしまった。その視線の先には浴衣を着たiがいており、彼女のことを見つめる。持っている事を忘れてしまったかのように手から抜けるように書物が落ちる。


「おっと」


小次郎さんがとっさに自分が持っている方を右手に持って左手で霧が落としたやつを受け止める。


「あっ!」


自分が落としたことに気がついた様子で驚いて兄に謝る霧。


「霧〜、別嬪さんに一目惚れしちゃったか〜?」


「い、いえ! そんなことは!」

 

顔を赤くして否定する霧。しかし小次郎さんが書物を机においてすぐに無理やり霧の顔をiに向けると更に赤くなり顔を手で隠す。


「確かに、こうやって見るとiって凄く美人だよね」


カタネがiをまじまじと見る。


風呂上がりなこどもあってか水色の髪が濡れている。しっかり拭かれているらしく水滴が滴ることは無い。部屋の明かりが髪を照らして艶を引き立たしている。それすら霞むような美しい顔立ちに目を奪われる。そこに旅館浴衣の素朴さや部屋着と言う事実が無防備感をだして………浴衣は下着着ないって着替える時小次郎さんから教えてもらったからあの膨らんだ胸の下って……


霧の脳に衝撃を与えるのは必然だった。


俺も目をそらす。最初にしたヤバイ奴認定が今までフィルターの役割をしていたが今になってそれが吹き飛んでしまった。


「霧、手記の解読をしてくれる客人をそんなんじゃ失礼じゃ」


小次郎さんは明らかに遊んでいる。俺も自身の感情を誤魔化すようにイタズラをすることにした。iの近くに行き耳打ちする。


霧は客人に失礼だと思い手を顔から離す。そのタイミングでiは優しい笑みを浮かべる。


霧は顔を真っ赤に逸らす。少しの間小次郎さんがいじっていると恥ずかしさに耐えきれなくなったのか体が霧になってその場から消えた。  




「おろ、霧が霧隠れしおった」





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