雨宿斬
「手紙の返信が来たよ」
「ありがとうございます」
シーカさんから手紙を受け取る。【
iと一緒に読んでみると「大歓迎。是非とも4人に会いたい」と言った趣旨が書かれていた。それと一緒に行き方が書かれた周辺の地図が同封されていた。
「……ん? 4人? 俺とiの2人の筈だけど」
「あれ? レクは4人パーティじゃなかったっけ?」
「えっと、パーティは解散しました。今はiと臨時パーティを組んでます」
そうだっけ? とシーカさんは首をかしげる。つい最近パーティは解散したがシーカさんは間違えて4人と手紙に書いてしまったようだ。何やってんのよとマリアさんに頭を叩かれている。
「今の雨宿家の当主は結構適当な所あるし、2人は用事で無理でーすとか言えば良いんじゃない? 何なら、一緒に連れていけば? 臨時パーティのもう一人」
「そんな適当って、相手は名家ですよ。失礼に当たりません?」
「カタネ〜、一緒に行けば〜?」
こっちの言う事を無視して大声で別の窓口にいるカタネを呼ぶ。カタネはこの件に無関係なので何のことかわからずにいた。
こっちの話を説明するとカタネは目を輝かせる。
「雨宿家って、あの!? 」
「知ってるんだ」
「知ってるも何も今の当主の雨宿斬は剣士の界隈では憧れの的だよ! 刀一振りで龍を一刀両断した生きる伝説! レクってそんな凄い人に会いに行くの!?」
「う、うん」
「一緒に行けば〜って、もしかして私も一緒に行けるってこと!?」
「まあ、シーカさんが間違えて4人と書いちゃって、今2人しかいないし」
「是非とも行きたい! 行かせてほしい!」
「わ、わかった」
「やったーー!!!」
カタネはその場でガッツポーズをする。俺の手を握るとお礼を言いながらその手をふる。なんか、取り敢えず剣士として凄い人なんだろうな、雨宿斬って言う人。あと適当な人とも言うし。
「えっと、シーカさん、雨宿斬ってどんな人なんですか?」
「んー? 会ってみればわかるよ。あっちに会う意思があるなら訪問時に礼儀正しくしていれば後は大丈夫だよ。相当な失礼を働かなければ。私なんてお見合いの時途中から酒のんで実家の愚痴しか言わなかったし」
「参考にならない」
「それがまかり通るぐらい適当な人って事。刀を振ることしか考えてない人だから。私と同じで名家の当主の器ってタイプじゃない」
「えぇ」
それはシーカさんも名家のだからまかり通ったのでは? と突っ込むも農作業が似合う男と返された。俺の中で雨宿斬という人物像がわからなくなってきた。改めて手紙を読み返すといつ来ても良いよとか時間や時期の指定が全く無いあたり確かに適当と思える。とはいえ名家だ。出発前に身なりを整える。銭湯で数日間の汚れを綺麗さっぱり落としてなんか良さげな服に着替えて(iのドレスはシーカさんの実家に綺麗にしてもらった。なんか顔が引きつってた)なんだかんだ準備をして翌日の朝に馬車に乗る。
「ニホン……日本か」
馬車の中で日本の事を聞く。ここよりも技術が発達している。魔法がない。魔法よりやばいことやってる。電気か。魔力を動力にした魔動車があるが、似たような物が電気で動く。確か電気を動力にする装置はフライハイトAランクNo.1のラインが特許取ってたな。それは置いといて。
アメリカ、フランス、アフリカ
日本は島国だから俺が知らない可能性がある。だけど、地続きの大国を知らないわけがない。前に言っていた事も考えると別の世界の話だ。
そうなると雨宿家も昔に別世界から来たことになる。
「案外、別の世界から来た人が近くにいるかも知れないな」
「今ここに2人いるのぉ」
「………」
「………」
「うおびっくりした!」
長髪を後ろに結んでいる泥だらけの知らない男がいつの間にか隣りにいるんだけど! え、だれ!?
「ハッハッハッ! びっくりしたじゃろ! ワシの忍び歩き!」
「だれ!?」
「馬の休憩時に乗ってきましたね」
「そんな前から……ずっと気づかなかった」
「ずっと無視しているかと思ってました」
「別嬪なお嬢さんは気づいていたのか?」
「生体反応がありましたので」
iは気づいていたのか……生体探知使えるの羨ましい。いやそんなことより本当に誰だ。
そんな思考はすぐに消えた。カタネがぷるぷる震えていた体。恐怖心からでは無い。口を手で塞ぐ仕草で目を輝かせていた。
「斬……様」
「お? その反応、ワシのファンか? いやぁ、嬉しいねぇファンがいるなんて」
「………ええ!!??」
この人が雨宿斬!? 何で当たり前のように民間の馬車に乗ってるの!? 何でそんな農民みたいな格好を……こう言うのって専用の馬車とか、護衛とか、そういうのが周りにあるものじゃ……
「は、はい! 私はカタネって言います! 剣士です!」
「武器種は……刀、ワシとおんなじか。刀は人気無いから、お仲間がいると嬉しくなってしまう」
「あ、ありがとうございます!」
カタネの反応、あれだ。アイドルとか、ファンの前に現れた時のやつだ。って、俺も失礼の無いようにしなくちゃ。
「えっと、レク・ディヴィアントです」
「馬車の中なので失礼します。お初お目にかかります。iと申します。」
俺は姿勢を正して頭を下げる。iも同じく姿勢を正すも背筋を伸ばし、両手を膝に置いて軽く頭を下げる
「ではそちらの別嬪さんが手紙に書いてあった尋ね人か。言葉遣いといい仕草といい、まるで令嬢だね」
「令嬢ではあまりせんが、作法はわかっております」
「そんな堅苦しくなくてよい。そうだ、ここまで長旅だったろう、家についたら風呂に入るとよい。安心せい、屋敷は広いからな、男女別の風呂ぐらいある。だから全員同時に入れる。畑仕事も終わったところだし、丁度使用人が風呂を沸かしておる頃じゃ、多分。沸いてなかったら自分で沸かせばよい!」
ハッハッハッ! と笑いながら当たり前のように風呂に入ることになった。なんか適当な人だな。全く名家って感じがしない。いや簡単に風呂はいるとか言っているのは貴族らしいけど、雰囲気が違う。後気になったことを言っていた気がする。
「あの、一つ質問良いですか?」
「ん? 構わんが?」
「さっき別世界の話でここに2人いるって言ってましたよね。それっていったい」
「それか。なら簡単じゃ。聞いてた話だとiが別世界から来たんじゃろ? ワシも前世は別世界で生を受けておる」
「ぜ、前世って、輪廻とか、生まれ変わる前の記憶があるってことですか?」
「そうじゃ、ワシの前の名前は……」
【佐々木小次郎】 じゃったな。
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