冒険者あるある
「やあ、そこのお嬢さん、この僕とパーティを組まないか?」
「いや、俺と組んでください!」
「あの! 私もEランクの冒険者なんです! その、良かったら一緒にやりませんか!」
「丁度アタッカーを探してたところなんだ! 一緒に組んでくれないか!」
「どうだい? 僕、結構優秀な魔法使いなんだ」
トイレに行った少しの間にiが囲まれている。めだってたこともあってか彼女が魔法を使えない発言は広まっていた。その為剣士、武闘家などの接近ジョブを探している者、単にその美しさから一緒になろうとするもの、女の子同士で組もうとするもの、B〜Eランクの色んな人からパーティに誘われていた。
「すみません、既にあの方とパーティを組む約束をしてますので」
そう言って俺の方を指差してくる。全員の視線が俺に集まる。
残念そう2割。納得いかなさそう2割。睨んでくる3割。ちょっと待ってくれ。恨まないでくれ。ついでにパーティを組む約束してない……そういや知ってる人を探す為に一緒にいるんだった。まあ、そう言ってしまった以上見つかるまでは一緒にいることになるか。
「はいはい皆さん。iさんが困ってますよ。無理に誘うのはやめましょう」
皆不満げ、又は残念そうに退散していく。皆ギルド内で問題は起こしたくないのだ。面倒だからね。そんなやつは馬鹿はいない。
「所で、これからiはどうするんだ? やっぱりクエストをこなすのか?」
「その予定です」
「なら初心者向けのクエストを………………」
クエストボードを見る。薬草納品や大掛かりな工事の手伝い、荷物運び、ちょっとした護衛など、E、Dランクの初心者向けのクエストを探すがなかった。薬草の納品は年がら年中あるのに運が無い。
あったとしても日数がかかりすぎる。シーカさんが雨宿家から手紙が返ってくるのは最低でも一週間はかかるって。ならその前に帰ってこれるクエスト………
「無いなぁ」
となると、C以降か〜、俺の
「無いなら一緒に行かないか?」
後ろを振り返ると短い金髪のイケメンが依頼書を持っていた。
「カタネ」
よく男性と間違えられる女性だ。腰には刀をこさえている。世話好きで腕のたつ剣士。ギルドの強化合宿の時に同じ班になったことがある。
「久しぶり」
軽く手を振りながら笑顔を向けてくれる。
「Bランクなんだけど、私は魔法が使えなくて、行きたいクエストがあるんだけどどうしても魔法使いの力が必要なんだ」
願ってもない話だ。iが刀を使うかは知らないけど同じく魔法無しの戦闘による立ち回りが見れる。
でも少し気になるな。カタネは別のパーティ所属だったはず。
「願ってもない話だけど、自分のパーティは?」
それを聞くと少し困った笑顔を浮かべて人差し指で顔の横をかく。
「あー、実は少し前に解散しちゃったんだよね。リーダーが受験勉強に力を入れるって、辞めちゃって、もう一人が転属で、自然とそのまま皆」
「あらら、今まで声はかからなかったのか? 引く手は結構あるだろ」
「ソロになったから整理とか準備とか色々としてたら今日になった」
「なるほど、絶妙なタイミングだったって事か。されで一緒にクエストとはありがたい話だ。どういった内容なんだ?」
「これだ」
【スケルトンジックの討伐】
報酬、78000G
サブ報酬、語りの羽
「こいつはB級だけど、確かに魔法が無ければきついな。魔法使ってくるし。ソロならCランクでも稼ぎが良い奴ある気がするけど」
「金稼ぎが目的じゃないんだ」
「もしかして、サブ報酬目当てか?」
「まあ、そういった所かな」
iはEランクだけど、まあBランク二人だし、大丈夫か。
「i、どうだ?」
「大変良いお話です。こればかりは経験が必要でしたので」
「本当に?! ありがとう!」
カタネが良い笑顔で礼を言う。俺も礼を言う。今はもう夕暮れ時が近いので臨時パーティ届けを出してクエスト受注だけ出発は明日になった。
待ち合わせの馬車の前に行くとカタネがおーいと手を振ってくれていた。
「すまん、またせた」
「いや、私のワガママを付き合ってもらうんだからむしろまたす方が無礼だ!」
相手を絶対に待たせない意思が伝わってくる。待ち合わせ時間より少し早いが馬車に乗ることにした。
何故かiが動かない。
「どうした?」
「馬車ってどう乗るのでしょうか? 重量規定は? 」
「もしかして初めて?」
先に馬車に乗っていたカタネが顔を出す。
「はい」
「馬車は後ろに行き先が書いてあるからそれを見て荷台に乗って待つんだ。御者が来たらお金を払えば良いから。値段は場所や人によって違うけどだいたい1000Gだよ。重さに関しては大変重い装備を持つ人もいるから大抵は大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
iも馬車に乗り込む。ギルドから交通費は支給される為無一文のiにはありがたいことだと言う。それを知ったカタネは驚く。
「その格好で無一文?」
確かに、iの服は素材が上品そうに見える。が、これ一着しかない。着替えが欲しいところだけど俺自身もあまり金がない。
「最低2着買う予定です」
「確かに2着あれば着回せるし、私も同じような時期があったから良くわかるよ。流石に5日間同じ服は嫌で優先して買ったぐらいだし」
「はい。戦闘の事も考えて多く用意し毎日着替えられるように安定した収入が必要です」
「毎日着替えたいのは最初あるあるだよね」
「それ、冒険者をやってると綺麗好きでもない限り数日間着るのはざらにある。街にいるとかならともかくクエストに出かけると荷物の邪魔になるから」
「そういうものなのでしょうか?」
「冒険者なんて汚れてなんぼなところあるしね。あと武器とか魔法具とか、色々と強くて高価なモノが欲しくなって何とか買おうと必要ないもの削ったり」
「その血生臭さがまた格好良く見えたりね。それでちゃんとすべきところでちゃんとした格好すると別人のように変わる人がいて誰? てなったり」
「いたなぁ。クエスト行くときもその時用にバッチリ決める奴もいたし」
「弱く見られないように格好だけでもって人もいるしね。そうだ、格好と言えば………iさん、ちょっと後ろ向いて?」
「何故ですか?」
「良いから」
「わかりました」
iが後ろを向くとカタネはiの髪を慣れた手つきで結びだす。
「できた」
iは向き直して自身の髪に触れる。後ろが束ねられていた。
「おお! 似合ってる!」
「ゴムが無いから結び方がちょっと変な結び方になっちゃったけど」
「これは、ダブルノットポニーテールですね」
「髪の結び方に名前なんてあったんだ。長い髪は邪魔になることが多いからね。こうして整えないと。戦闘用ファッションも大事だよ。それに」
カタネが両手でiの頬をつり上げる。ちょっと潰れた感じの笑顔が出来上がった。
「これ、忘れるのも冒険者あるあるだから。笑顔は大事だよ!」
手を離すとiの表情はもとに戻ってしまった。だが何か考えているのか数秒間動かずにいると不意に微笑んだ。
「わかりました」
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