スキル

鎮魂歌レクイエム


 死者の魂を鎮める詩歌。

 

 死者の魂に安息を祈る歌。


 それが俺のスキルの意味。呼び名。初めて知る自身の能力。ずっと発動してきて、何も起きなかった能力。


 そう、発動していた。そこに死者なんていなかったのに、死者の魂があることなんて意識してなかったのに、にその恩恵を俺は受けていた事になる。  


「死者を救って何の意味がある」


 同じく死なないと会えないし会えないのなら救えたのかすらわからない。そもそも冒険者は命をかけて生きる存在。それこそ生者を救ったほうが良い。


「生者の為だと思います」


 図書館の本を棚から順に読み漁っているiはそう言う。何の意味があるんだ?


「死者を救うと言うのは過去を思う事。忘れない事。残す事だと。人の原動力は【心】です。人は自身の為に動きます。ですが、その自身を作るのは他人なのです。だから、救うのに意味を見いだすのでしょう」


 意味を見いだすのは俺自身か。


 思い出す。父が亡くなったときの事を。最後にきいた「ごめんな」。それはまあ、酷く泣いた。大好きだったから。悲しかった。そう思えるぐらい、愛されていたんだろうな。まだ幼かったから、父はきっと俺のことを気にかけている筈。あの時にも【鎮魂歌】が発動していたら、父さんの魂は安息にあの世へ行けたのかな。


「だったら、意味はあるんだろうな。今になって、俺が安心してるんだから」


「そうですか」


「………………………そういう事か」


 父が俺の【鎮魂歌レクイエム】で安息をもたらされたと言うには、その時はまだ安息になっていないという事、そうなるには【心】が原因なんだ。まだ幼い俺を置いていて死ぬと言う経験。


「このスキルは生者の為にあったんだ」


「死者の為の歌が、ですか?」  


「自論なんだけど、『魂を鎮める為にその心は波乱で無くてはならない。安息を得る為にその心は気丈でなくてはならない。それは、全てはどう生きたかで決まる』」


 そう考えれば納得がいく。戦っている時にスキルが発動していた事に。をしているとき、それは俺の心に強く刻まれる。


 思い出して見れば、俺はテラスのパーティに入って最初の頃、どんな敵にも悪戦苦闘していた時、余裕なく命をかけていたあの経験が俺を強くしていた。【鎮魂歌レクイエム】は死者には安楽を、生者には来たるべき眠りの為に強さを与える。


 自身の伸び代に悩んだのあパーティに余裕ができたときだ。安心感がどこかにあったから。ましてや自身の意見などあまり出せず、ただ言うことを聞いていただけの経験に心の強さなどあるものか。


「相対理論、ですか」


「ああ、自分の心よ強くあれ強く思え、そうすればその分強くなる。努力や才能の壁を無くし、際限無く強くなれる。それが俺のスキル【鎮魂歌】だったんだ」


 そりゃ全属性の魔法を使えても一つ一つの威力が低いわけだ。中途半端な気持ちになって、サポートに徹するか、前線に出るか、迷っていたら弱いままできるようになった。


「ありがとう。i」


「一つ恩恵を返せたのなら良かったです」


 もう誰かに言うことを聞くだけの人生はやめだ! 強く生きよう! 強く! 強く! 


「……………………」


 不安の方が、まだでかい。でも、弱気になっちゃだめだ!俺のスキルは心から強くなければ行けないのだから!


「よし!! 頑張るぞ!!」


 思いっきり気合を入れる。自身を奮い立たせるように。


 iが本を読む手を止めてこっちを見ていた。


「ああ、すまん。近くで大声を出して」


「私は大丈夫ですが、ここは図書館です」


「あ」


 そうだった。iが本を読む為に来たんだった。でも良かった、幸い本棚にいるから他の人からは見えてな……………



「………………が、頑張れ〜」


 丁度横にいた本を持った少女が驚いた顔でドン引きしながら、言葉だけでも応援をくれてそそくさと離れていった。


「………………………」


 恥ずかしい。


「i」


「はい」


「俺、外で待つね」


「それをされては私が出れなくなります。私は身分証を持っていないので同伴者がいないと出入りができません」


「〜〜〜〜〜ッ!!!!」


「顔が真っ赤で体温が高いです。羞恥心ですね」


「言うな〜」


 早く読み終わってくれぇ〜!


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