やべぇやつ
夜風が怒りを静める。理想を抱きすぎた。俺は数年間彼らを本気で仲間だと思っていたんだ。ちょっと考えれば、すぐにわかることなのに、何故言われるまで、今まで考えないようにしていたんだろう。
静まった街中を歩く。月明かりで十分見える。夜通し騒ぐつもりだった深夜。宿の受付も終わっている時間。野宿確定か。広場で寝るかな。金はどうしよう、ギルド、パーティじゃなくなったし俺個人のランクいくつだっけ?
「寒」
朝を迎えに眠ろう。その後で考えよう。
街の中心部から外れるように歩く。少し離れれば広場がある。野宿先にうってつけだ。
「…………………………?」
どうやらお仲間さんがいたらしい。広場の真ん中で突っ立っている。空を見上げて動かない。後ろ姿しか見えないが髪が長い。女性だろうか? いくら治安の比較的良い王都とはいえ夜中に一人は危ないな。
「あの、この時間で一人でいたら危ないですよ…………?!」
振り向いた。この人、綺麗だ。特に目が、なんだろう。人の目じゃないような、中心に奥があるような、少し虹色の光がかかってる? あれ? 瞳孔が動いた? 大きく、小さくなった。元に戻った。
この人の髪、水色だけどよく見たら毛先にかけて半透明になってる。珍しい髪の人もいたものだ。
「一人……………ここには貴方一人しかいません」
「へ? いや、ここには俺と君の二人だけど」
「私は人ではありません」
「え?」
人じゃない? いや、どっからどう見ても人にしかみえない。尻尾や獣耳がないから獣人じゃないし、ヴァンパイアの特徴である黒髪でもない。
「もしかして、精霊?」
「精霊、そのようなものは存在しません」
「いや、え? 何を言っているんだ?」
もしかしてヤバイやつ? 精霊がいないなんて、そんな筈ないのに。精霊使いがいたらぶん殴られそうだな。離れようかな、でも女性を一人にしておくわけにもいかないし。
「と、とりあえず焚き火するから」
「ここは焚き火をしても良い場所なのですか?」
「そうだね、ここは焚き火は自由だよ」
そこら編の気の枝を集める。
「こんぐらいあればまあ大丈夫かな。《ファイア》」
燃えすぎないように指先から魔力を少し出す。木の枝の量的に心細ないが幸い冒険者として体は頑丈だ。
「いま、どうやって火を出したのですか」
「どうやってって、普通に魔法で」
「魔法………………私達の国には無い技術です」
「ええ?!」
魔法が無い国なんて聞いたことがない?! というか、反応的にこの人初めての魔法を見た感じだよ?! この王都で?! どこを見ても魔法が一つは見える街で?!
「君は、どこから来たの?」
「私は、日本から来ました」
つい気になって聞いてしまった。魔法の無い国、【にほん】? 聞いたことない国だな。小さな国なのかな?
「ここはどこでしょうか? 」
「ここは王都エクスバータ」
「データに該当する情報がありません。星の位置もどの国とも該当しない事からここは地球ではない可能性が高い。ここを王都エクスバータと仮登録します」
でーた? ちきゅう? さっきから何を言っているんだ? やべぇこの人本格的にヤバイやつだよ。避けよう。うん。
「そ、そうですか。あ、ちょっと用事思い出したので、焚き火は自由にどうぞ」
その場から離れる。広場の端っこに行ってそこで野宿しよう。それにしても綺麗な人だったなぁ。見るからに上質な生地のドレスを着ていたからどこかのお嬢様なのだろうか?
「そこの姉ちゃん、こんな時間に一人で何してるの? 俺も一人でさぁ、寂しいんだよ。一緒に寝ない?」
「私には睡眠は必要ありません」
「連れないなぁ、良いだろう? こんな時間に女一人って誘っているようなもんじゃねえか」
柄の悪い男が近づいて女性の肩を掴む。それを女性は払った。
「この! いいから来い!」
男が腕を掴み無理矢理引っ張る。
何やってるのあの人! この時間じゃあ助けを呼んでも巡回してる警備隊でもいない限りすぐに来ないぞ! ああ! もう!
「いで!」
「へ?」
女性は掴まれた腕と胸元を掴んで左足で男の足を引っ掛けて前に投げ飛ばした。地面に背中を強打した柄の悪い男はその場で悶絶する。右腕を後ろにうつ伏せで押さえつける。
「いでででで! ギブギブギブ!」
左腕で、地面をバンバンと叩く。男は観念したようで女性が離す。その瞬間に腰にある男のナイフを取り上げた。
すごい手際。感心してしまった。あの体術。いや、武道? て言うんだっけ? 護身術?
「この女! いい気に………あれ」
腰にあるはずのものがない。慌てて体のあちこちを探すが無いものは無い。ハッと女性の方を見るとナイフを持っていてやっと常況を理解する。
「クソ! こうなったら!」
男は手を前に出す。魔法を使うきだ! 魔法を知らない女性には対処がわからない!
俺は走って焚き火を男に向かって蹴る。この程度じゃよっぽど燃えやすい服でも無い限り燃え移ることはない。
「うわあちち!」
男がとっさに手で払うと俺は女性の手を掴んでその場から逃げる。
「《ウォーター》《フリーズ》」
「おいこらまて!」
手から地面に水をバラ撒いたあと凍らす。男は足を滑らせて転ぶ。その間に俺たちは裏路地に逃げる。王都に数年間暮らしてたことだけあって暴漢のいない安全な場所は把握している。
この人こんな状況なのに表情一つ変わらない。
「もう大丈夫です」
「先程、用事があると言っていましたが」
「あ、あれは、ちょっとやばい人だなぁと思って」
「私をやばい人だと判断されていたと、それで関わらないように離れようとしたと言う事ですか。わかりました」
「はいすみません」
「私も貴方を厨二病と判断していました。お互い様です」
ひでぇ………………
「ですが、そうではありませんでした。謝罪します」
女性が頭を下げる
「いいえ、お互いさまでしたし、頭下げないでください」
「わかりました」
頭を上げる
「えっと、とりあえず状況からして君は迷子と言うことで良いのかな?」
「そういうことになります。可能であればこの地の事を教えてくれないでしょうか」
「わ、わかった。でも今日は遅いし、日が昇ってからにしよう」
どうしよう、頼みを引き受けてしまった。でも、放っておけないし。
「そうだ、君の名前は? 俺はレク・ディヴィアント」
「私は、
「アイ?……家名?」
「家名ではありません。生まれた際名付けられていたのかもしれませんが、記録データの損傷、及び削除の可能性あり、使命もありません。なので今は初期データにあるデフォルトの名前を名乗ることにしました」
「わ、わかった。俺は暇だし、君を知っている人を一緒に探そう」
「ありがとうございます」
何もわかってない。と言うか知らない単語だらけだ。この人は何者だんだろうか。とりあえず、明日………日付は変わってるから日が昇ったらだな。
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