アイ対ローンウルフ
腰のナイフに手を当てながら、わたしはゆっくり林の中を進む。村近くの、林で、最近家畜がここの狼に襲われているということだった。
群れではなく大型の一匹だったらしく、依頼内容は「ローンウルフの討伐」となっていた。
パーティーでは戦ったことがあるけどソロではない。
でも依頼というのは達成段階というのがあって、手傷を追わせて、村に近づかせないようにするだけでも達成になる。
……もちろん、報酬は減るんだけど。
カナデさんはさっきから黙っていた。カナデさん元々冒険者じゃないっぽいし、知識の偏り方が何かの専門職みたいだった。だから語ることがないんだと思う。
それにこれは命のやり取りだから、慣れていないと緊張でうまく話せないのかもしれない。
「……あ」
木々の揺れる音、そして呼吸音。それを感知したころにはローンウルフが大口を開けてわたしに飛びかかっていた。
通常の狼よりも二まわりほど大型だ。群れを追放されてから長い間生き残ってきたのだろう。スキルツリーは人間だけの特権ではない。だから目の前のローンウルフも通常の狼よりスキルツリーが成長しているのだ。
わたしは左にステップを踏んで噛みつきを避ける。そして逆手で引き抜いたナイフを振るった。
……あれ?
ナイフはローンウルフが交代したことで空振りで終わった。けれどわたしは抜いたナイフを見る。
「ふぇ?」
今のは慌てて避けて、姿を確認できる程度の動きだったはずだ。
なのにわたしはじっくりローンウルフを確認してから、避けて、反撃した。
『ちょっ、来るよ!』
頭の中でカエデさんの声が響いて、我に返る。ローンウルフがこちらに走り寄って来るところだった。
わたしはナイフを順手に持ちかえると、ローンウルフの腹の下に潜り込んだ。すれ違いざま、ローンウルフの喉にナイフをしっかり根本まで突き刺して地面を転がる。片膝をついて座した状態で留まり、後ろを振り返る。
ローンウルフの口からだらりと血が流れ出る。
数秒睨み合っていると、ローンウルフは力なく地に倒れた。
それからピクリとも動かなくなる。
「……勝った?」
『勝ったでしょ』
わたしの疑問に、カエデさんが答えてくれる。
…………もしかして。
わたし
○●○●
感覚で言えばバーチャルリアリティゲームだった。
ローンウルフの死体から素材を剥ぎとるさまを見ながら、カナデは安堵した。
生物の死、かつ殺すということ。
人間はより温もりを感じるものの死に恐怖する。
ゆえに動物を殺すという行為に、カナデは忌避感があった。憑依という形でなければ討伐なんて一生関わらなかったかもしれない。
しかし、いざ体験してみるとそもそも殺すのは自分じゃないし、人々を支える立派な仕事なのだ。
特に不快感はなかった。これがアイの体であるというのも関係しているのかもしれない。
撃退を目的にする、とアイは言っていた。しかし今あっさりと討伐してみせた。ということはアイに把握できない力……つまりスキルの効果が発動された、ということである。
異世界で美醜の価値観があまりにもかけ離れすぎているとカナデの理論は全く役に立たない可能性もあった。しかし、スキルが発動したということはこの世界でも通用する、ということである。
鼻歌交じりのアイの様子に、カナデは達成感を得た。
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