ユニークスキル「かわいいは正義」

 宿のベッドにうずくまりながら、わたしは泣いた。


 わたしには強くなる才能・・がない。スキルというのは磨き上げた技術であり、力であり、誇りだ。でも、例外もある。


 その一例がユニークスキルだ。

 生まれもってある「スキル」。魔眼で他人を動けなくするとか、強力なスキルだったり、そうじゃなかったり。


 わたしが持っているスキルは、そのユニークスキル「のみ」だった。スキル鑑定士によって名付けられたそのスキル名は、恥ずかしすぎて誰にも教えたことがない。


「かわいいは正義」。


 かわいいければかわいいほど強くなり、あらゆるバフや恩恵を受けることができる。ただし、他のスキルを発現させることが困難となる。


 かわいいほど強くなるって何!?


 わたしは丸っこくて大きい自分の目が嫌いだし、子どもの頃に散々「ブス」だのなんだの言われてきたのに、「かわいくなれ」ってこと!?


 無理!


 しかもデメリットが洒落にならない。冒険者どころかあらゆる専門職になれないレベル。

 もう故郷に帰って家の仕事を継いだ方が良いのかもしれない。


 瞳を閉じる。


 殺されそうになったわたしを、魔法で助けてくれたあの人のことを思い出す。大きくて頼もしい背中。


 いつかわたしもそんな風に誰かを助けたい。そう思ったのに、こんなの、あんまりだよ!


 そう思いながら泣き続ける。


 いつしか、わたしは眠ってしまっていた。




  ○●○●




 奏が目を覚ますと見たこともない光景が広がっていた。ホテルの一人部屋のような空間で、横になっている。


「うぅ」


 自分のものとは思えない幼げで高い声に驚く。掛け布団をめくって自分の体を見ると、購入した覚えのない白いネグリジェを着ていた。


「ナイチチが、アルチチになってる」


 自分の胸を掴みながら、奏はつぶやく。


『だ、誰ですか!』


 すると頭の中で声が響いてきた。


「いやアンタこそ誰です?」

『わ、わたしはアイ・フレーミです! 冒険者をしてます……じゃなくて!』


 冒険者……?

 奏は頭を抱えつつ、記憶を振り返る。

 確か、窓開けたら光が全身を包んで……その先が思い出せない。少なくとも奏の住んでいた日本では冒険者という職業はない。


 もしや。


 奏は漫画アプリを読み漁った知識から、ひとつの可能性を見出す。


 異世界転生。


 死んだ主人公が異世界で生き返り、そのまま人生を謳歌するといった、現実逃避マシマシのアレだ。


 しかも現地人に憑依するタイプだ、これ。


 超速で状況を理解しつつ、奏は口を開く。


「あー、おれさ。カナデっていいます。よろしく……その、とりあえず敬語をお互いにやめませんか?」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る