パーティー脱退

 ディンギーギルド。魔物討伐や採集依頼など、危険地帯に赴く「冒険」を仕事とする冒険者の拠点だ。その大きなロビーには依頼受付や掲示板、換金場などのち場になる席がいくつも用意されている。

 その中のひとつ、円形のテーブルで、わたしは身を縮めながら座っていた。目が隠れるほどの前髪をいじりながら、目の前に並ぶパーティーメンバーを見る。


「パーティー、抜けてくれないか」


 真正面にいる戦士、リーダーであるジョブルさんが言ってきた。困り顔で、なるべくこちらを傷つけないように苦心して言葉を発したのが伺えた。


 わたしは唇を震わせて、膝あたりの布を握りしめる。


「あ、そうですよね。わ、わたしなんかじゃ、足手まといですよね」

「そんなことないわ」


 赤髪の魔法使い、リージョさんが真剣な眼差しで否定してくれた。


「雑務をこなしてくれたし、マッピングも丁寧で、助かってた」

「で、でも誰でも、できます。わたしがいなくても」


 冒険者には段階がある。

 駆け出しのグラファイト。一般的なレベルのパール。ベテランのトパーズ。化け物退治を鼻歌交じりにできるルビー。英雄級のサファイア。伝説に出てくるトリスティン


 わたしはグラファイト一番下


 ジョブルさんとリージョさんはトパーズだ。グラファイトの仕事なんて、いくらでもできる。


「最近トパーズパーティー『スティーディ』との合併の話が出てるんだ」


 よく仕事が一緒になるパーティーだった。あちらも三人組で、全員トパーズだ。


「グラファイトのアイさんじゃ、肩身狭いだろうし、その、たぶん俺らと一緒だとアイさんのやりたいことできないと思うんだ」

「ほら強い冒険者になりたいって話だったでしょ。うちらのところで雑務ばっかやってたらスキルツリーも伸びないし」


 スキルツリーというのは目に見えない血管のようなものだった。生物には魔力というエネルギーが流れていて、その通り道がスキルツリーになっている。


 今まで鍛え上げてきた技術が「スキル」となり、魔力が流れることでスキルが発動するといった感じ。例えば剣が扱える人は「剣技」のスキルを覚えて、剣を扱う際によりその人にあった剣技を使えるようになる。磨いた技術が、疎かにならないようにスキルが支えてくれるのだ。


 わたしのスキルツリーは非常に残念なことになっている。


 わたしは故郷を盗賊から救ってくれたソロ冒険者みたいな、誰かを助けられる強い冒険者になりたいと思ってこの業界に入った。


 でもわたしには冒険者の才能がなかった。いろいろどうにかしようと勉強したり努力してみたんだけど、ダメだった。


 二人がわたしを気遣ってくれているのは嬉しい。けど、わたしは……。


「……今までありがとうございました」


 わたしは二人にお礼を言って、逃げ出すようにその場を去るしかなかった。



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