スキル:「かわいいは正義」でどう戦えっていうんですか!?

月待 紫雲

尾陽 奏の最期

 奏は家でドル活をしていた。

 それは「推しをつくる」活動のひとつ。尾陽びよう かなでにとって、そう表現するのが一番近しいものだった。


 こだわり抜いたパーツ、服、装飾、小道具。そうして理想の人形ドールをつくる。


 趣味に上も下もない。ただ、この活動は奏にとっては最大級の精神活動だった。昔から「可愛い」が好きだった。相手が女性であっても男性であっても関係ない。


 恋愛対象とか、そういうのではないのだ。愛でたい。


 ただひたすらに鑑賞して、ただひたすらにその可愛さを享受していたい。

 いまだに彼氏ができたこともなく、実家に帰るたびに急かされるが、愛はあっても恋はない。

 奏から見れば、どんなに可愛らしい相手も愛でるという選択肢以外ありえないのだ。告白を何度かされたことがあるが、すべて断ってきた。


 わかっていない。


 好きも愛もすべて向けられることが喜びではないのだ。勝手に輝く姿を、眺めていることが幸せなのだ。


 ドル活はいい。他人の感情を気にしなくていい。設定も好きに盛り込めるし、妄想もはかどる。ほかにも、最近は美少女プラモデルにも手を出しているし、ゲームもキャラクリエイトだけで一日をつぶす。


 ただ、どれも感情が表現しきれないことが欠点なのだが。


 いい感じのドールアイをつけられたことにホッと一息ついていると、窓から差し込む光がやけに明るいことに気付いた。夜なので街灯か月の薄い光しかないはずだ。


 疑問を抱きながらカーテンを開き、夜空を……夜空が、なかった。


 あるのは光り輝く世界。


「え」


 断末魔をあげる暇すらなく、奏の体は光を呑み込まれた。


 ――翌日、奏の家に隕石が落ちたことで大穴が空き、彼女が行方不明なったと報道がなされたが、本人は一生知ることはなかった。

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