代打、陽キャ後輩ギャルの痛快な一撃で舞い上がれ!

ちさここはる

同好会:0

 ぉおおぅおあアぁああっっっっ! ぉおお、俺は一体っ。どうしたらいいんだっ!


 ――などと、俺がどうして困惑と動揺をしているのかを1から考えようと思う。


 高校3年生。巻犬百次郎である俺は《昭和玩具同好会》の創設者だ。なんっつっても去年の6月からの活動だ。


 ん? 何故かって。そりゃあ、さぁあ? お判りでしょう? んっへぇええ? お判りにならないだってぇ?? はぁ。はいはい。説明を致しましょうか。説明をね!


 まずは《部》と《同好会》の違いは分かるかい?


《部》は学校指導。部費も出る。顧問もいる。人数だって桁違いでさ、コンクールとか大会だのと、イベント盛り沢山な訳。


 じゃあ、《同好会》は? って、そりゃあなるよな?


 ***


 ※学校指導である――×


 ※部費は出る――△ (場合による)


 ※人数も桁違い――× 少人数。幽霊部員も多い。帰宅部と同様とみなされることがある。


 ※イベント・大会などがある――〇 一位になっても話題にならないことが多い。


 ***


 つまり、《同好会》を作るには人脈も友達なんかもいない陰キャな俺には、頭数もいなくてつくれなかったってこった。

 うじうじとしていたときに救世主でもあり苦手な後輩が高校入学をしてきて一転した。


 纏は俺の一つ下の後輩だ。小学校と中学校も一緒だ。小学校のときに迷子になっていたこいつを助けて以来、懐かれている。

 少しふくよかで俺の妹に似てたから放っておけなくて、ついついと手を差し出してしまったのが運の尽きってやつだったのか。

 何かにつけてくっついて来やがる。


 だが、こいつが陽キャのおかげて《同好会》の頭数もGET! して開くことが叶った。ああ、喜んださ。一年越しの念願だ。

 喜ばない奴はいないだろうさ。


 陽キャ、陽キャと俺が纏を連呼するのは容姿だ。中学と入学するや髪染め(今は上がオレンジで毛先の下が蛍光ピンクだ)にピアス(両耳で6っつもだ)に化粧。さらには周りの人脈。つぅか人間関係。お近づきになりたくなんかない奴らばっかな訳。もう、こいつは俺は知っている《纏香里奈》ちゃんなんかじゃない。ただの纏って雌の女になっちまったってこと。ショックはデカかった。


 まァ。俺も中学から不摂生や運動不足もあって肥満体。小学から中学卒業までの間で、30キロ以上と肥えた。それで、今何キロとかいった奴、表に出て来い。いや、すいません。結構です。


 雌の陰キャ後輩ギャルがよりにもよって俺なんかの《同好会》に協力を持ちかけて来て、あれよ、これよと、仲がいい顔も知らない知り合いを頭数に入れて、顧問も担当教師に頼んで適ったのが《昭和玩具同好会》だ。

 場所は放課後の教室。顧問の担当教師が「いいよ」と許可をくれた。机をくっつけて昭和のゲームをするのが、毎日の日課だ。


 もっぱら、俺と纏だけだ。

 担当教師は月の報告でしか会わない。


 そして、俺が高校生活最後の冬休みを終えて部室の教室に行けば奴がいる。

 しかしである。


 毎回とゲームに何も条件を出さなかった纏が、今回に限って、意味不明なことを言い出した。首を傾げる俺に何の隙も与えないとばかりにゲームも勝手に決められた。


【黒ひげ危機一髪】


「負け犬ぱいせ~~んンん。ほらぁああ、まだっすかぁああ」

「負け犬じゃないっ、巻犬だっ!」

「ほらほぉらぁ~~ざっこざぁあアっこぉお」

「っぐ」

「は・や・っくぅうう~~そ・れ・を♡」纏が言う前に俺は被せて言い放つっ。


「止めようっ! こんなのはっ――セオリーに反するっ!」


 そう。人生にはセオリーってもんがあるんだ。

 人格に性格と、合った同士が出会って付き合うっという――条件なんてものが、確かに存在するっ! と俺は信じているっ!


 それを照らし合わせても、どう考えても、俺は――


「陽キャは陽キャ! 陰キャは陰キャがベストな関係だとは思わないかっ!」


「っはぁああぁアァぃいい~~??」


 変顔やめろ。無駄に顔だってアイドル並みに可愛いんだからなっ! 台無しだろぉうがっ! 台っっ無しっっっっ。


 どういう感情なんだよっ。

 分からないんだよっ。


「だからだなっ! だからァ~~アァああっ」

「御託はいいんっでぇええ~~ざっこ、ざっこぉおお~~は・や・くぅうう~~」


「っじょ、条件が嫌なんだよっ! っな、なんだって、ァああァああァああァああんンんんンなっっっっ」


 黒ひげ危機一髪とは名前の通り。

 

 海賊の頭である黒ひげ(所説あり)が掴まり、彼を樽から逃がすべく(所説あり)、ナイフを刺して飛ばす(所説ある)のだ。


 樽の穴にナイフを差し込む。


 だけだが。


(っく!)

「マジで、あんな条件をっ」


 纏が俺の顔を視てドヤ顔だ。

 いや。普通に可愛いよ。可愛い。可愛いんだよ、この陽キャな後輩ギャルは。中学から垢ぬけて大人気だった。なのに、俺に懐いて一緒だったから、本当に嫌がらせが半端なく、よく耐えたよ。俺、頑張ったよ。ストレスからめっちゃ食っちゃったけど。めっちゃくちゃ、太っちまったけど。俺の弱さが招いたことだ。仕方がない。うん、恨む相手なんかいない。あってたまるか。


「負け犬ぱいせー~~ん? ハ・メ・て♡」


「めちゃくちゃいい声で言っていい言葉じゃねぇええっ!」


 声だっていいんだよ。VTubaになればどんだけの投げ銭を貰えるだろうか。それだけで食いぐっぱれないんじゃない気がする。顔が見えても、視えなくても、声だけでも、こいつは特別なアイドルにもなれる。そんな陽キャ後輩ギャル。


 ◆◇


『パイセンのこと好きなんで。黒ひげが飛んだら付き合ってもらえます?』


 ◇◆


 頬を真っ赤に大きな目を潤ませて、豊満な(噂ではDカップらしいが)バストと身体を小刻みにゲーム開始と同時に、後出しのように、じゃんけん後に言い放った。


 困惑。


 動揺。


 興奮。


 興ざめ。


(彼女になりたいって? つまりは。そういう意味、なのか? この陽キャ後輩ギャルの纏がか。……冗談でも笑えんわっ)

「何の罰ゲームだ。そりゃあ」


「ぇ」


 俺は持っていたナイフの玩具をバン! と机の上に叩き置いた。


「百貫デブにだってなぁ! 相手は選ぶんだよっ!」

「巻犬、……百次郎ちゃん」

「もういい! 気分がわりぃ。教室の施錠はきちんとしてってくれ! じゃあ!」


 カバンを持って出ようとする俺の背中に纏が語りかけた。


「ナイフ、百次郎ちゃんの番の刺すね」

「勝手にしろよっ!」

「飛んだら、……どぴゅってイッちゃったら、面白いね」


 もう反応も馬鹿らしくて俺は振り向くのも声を掛けるのも止めて行こうとした。一歩と足を踏み出したときだ。


 カン!


「!?」


 何かが上がる音が鳴った。

 さらには上から落下の音が地面に鳴り響いて、俺の上靴のかかとに当たるのが分かる。何かだなんて。視なくたって分かるさ。


 教室から俺は小走りに纏を残して出た。


 閉まる瞬間。

 纏の泣きじゃぐる嗚咽が聞こえたが無視をした。


 ああ、本当にどうして俺なんだ。


 とりあえず。危機一髪。

 後は野となれ山となれ、だ。


 卒業まで幽霊部員と決め込もう。



 

 


 


 

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