第5話 偶然の再会

あれからクロヌイはなんとかルサと一緒に何軒かの店の調査を終え宿に帰った。


『…疲れた。』


初めはあれだけ暴れていたルサも流石に疲労困憊しているようだった。


『おい、今日の仕事はまだ終わってないぞ。』


『今日はヤダ!もう疲れた!寝る!』


『ダメだ。』


『いやぁぁぁだァァァァ!!寝るのぉぉ!!』


まるで子供が駄々をこねるようにルサは床に転がりながら暴れ回った。


『っチ…扱いづれぇ野郎だ。』


クロヌイもこれ以上面倒ごとを起こされては困るので渋々ルサを寝させた。


クロヌイは部屋にあった椅子に腰掛けて腕を組んで頭を悩ませた。というのも今回の水商売店の女性を標的とした事件を探るということ自体がイレギュラーだったからだ。元々、クロヌイはこの街に別件で訪れる予定だったのだ。また、従業員の粘液サンプルも集めたはいいもののそこから何をすればいいのかクロヌイには分からなかった。


『酒…』


考える事に少し嫌気が刺したクロヌイは宿を出て酒場に向かった。


『いらっしゃいませ!お好きな席へどうぞ!』


『オレンジ酒と特製ピザください。』


『かしこまりました!少々お待ちください!』


注文を終えて店の内装をボーっと観察しているとクロヌイの肩を誰かがポンポンと叩いた。


『やっぱり、衛生局の方でしたか!』


そこにはガタイの良いオーナーゴブリンがニコニコ笑って立っていた。


『これは奇遇ですね。』


『お隣よろしいですか?』


『どうぞ。』


『もう1人の方は?』


『「疲れた」との事で先に宿に帰って寝てしまいました。』


『そうですか、大変なんですね。』


『まぁ、今回のような新種の病を調査するなんて事はほとんどありませんからね。』


『予防する方法は見つかりそうですか?』


『今のところはなんとも…』


この時、クロヌイに天啓が降りてきた。


『この時期は衛生管理局の大多数の魔法使いが長期休暇をとってしまうのでその病に対する対抗魔法の開発も遅れてしまうんですよ。』


『なるほど、まさに最悪のタイミングですね…』


『わたくし共も最善を尽くしますが、このままでは被害を最小限に抑えれる可能性がほとんどないんです。一体どうすれば…』


クロヌイはジョッキに入っている酒をグイッと飲んでわざと頭を抱えるジェスチャーをして見せた。


『あっ!そういえば!私の親友にフリーランスですがかなりの腕の魔法使いがいるんですよ!私が紹介してあげますのでその人に協力してもらうのはいかがでしょうか?』


『でもしかし、衛生管理局内部の情報も扱うので…』


『大丈夫ですよ!その魔法使いは金さえ払えば言うことは聞いてくれますし、他言もしませんよ!私が保証します!』


『なぜそこまで積極的に協力して頂けるのでしょうか?』


『実は本日検査を行っていただいたもう1人の管理局の方をウチの子達が気に入ったそうなんですよ。それで今度はお客として来てくれとの事なんで…』


『な…るほど。』


『次回来店してもらえたらお安くしますのでどうぞよろしくお願いします!』


「それ俺じゃなくてアイツに言った方がいいんじゃ…」とクロヌイは思った。


◇◇◇◇◇


『おい仕事だ。起きろ。』


クロヌイは寝ているルサの顔をパチパチと軽くビンタした。


『まだネムイ…あと小一時間…』


『今度はマジで叩くぞ。』


クロヌイは左手を大きく振りかざすような動作をして見せた。


『オキル!起きるからマジビンタは勘弁!』


クロヌイとルサは朝食を済ませて宿を出た。


『今日は何するの?』


『魔法使いを訪ねる。』


『この街の人ならもしかしたら知ってるかも。なんて名前?』


『ゼルスタインって奴だ。』


『ゼルスタイン⁈いまゼルスタインって言った⁉︎』


『いちいちリアクションが鬱陶しいヤツだな…静かに出来ねぇのかお前は。』


『だってソイツ、この前まで私の働いてるとこで雇ってもらってた魔法使いだよ⁈』


『だから何だってんだ。』


『カァ〜っ!分かってないねぇ〜クロヌイさんはっ!いい?一度職場を離れた人とプライベートで会うってめちゃくちゃ気まずいんだよ⁈しかも、大して仲良くもなかったし!!』


『そうか、じゃあ仲良くなれ。』


『出来たらとうになっとるワイ!!』


ルサが一人で色々と声を荒げているうちにゼルスタインの住処と思われるボロボロの家の前に到着した。


『お前が呼んでこい、その方が話が早いだろ。』


『ダ・カ・ラ!気まずいって言ってるじゃん!』


クロヌイは大きなため息を吐いた。


『分かった、じゃあゼルスタインをうまく説得してくれたらお前が欲しい宝石買ってやる。』


そう言われるとルサは耳をピンっと立たせてあからさまに嬉しいそうな顔をして見せた。


『約束だからね!ゼッタイだよ!』


ドンドンっ!


ルサはノックする力とは思えないパワーでドアを叩いた。


『や、やめろぉ!ドアが壊れる!』


家の中から情け無い声が聞こえてきた。しばらくして出てきたのは痩せ細った男性だった。


『この間やっと建て付け良くしたのにまた修理しないといけなくなるじゃないか!』


『ヤホー(^。^)ゼル♪』


『ゲッ!!ルサ…!』


ゼルスタインはルサの顔を見るなりしばらく動かなかった。


『な、何の用ですか⁈僕はもうあの職は辞めたんです!!』


『わかってるわかってる、別件だよ。』


『別件?』


『クロヌイさん!ホラ出番だよ!』


ゼルスタインの家の前にあった岩に腰掛けていたクロヌイは「よっこらせ」と言ってゼルスタインに近づいた。


『初めまして、クロヌイと申します。』


『ぜ、ゼルスタイン…です。』


『本日、ゼルスタインさんをお訪ねしたのは他でもありません。ビジネスの話です。』


ゼルスタインの目の色が変わった。


『ビジネスですか?』


『はい、ただあまり人に聞かれてはいけない内容ですので場所を移したいのですがよろしいでしょうか?』


『な、なら!僕の家の中でよかったら、どうぞそこで!』


『お気遣い頂きありがとうございます。』


『こんなボロ家なら外でも中でも変わらないんじゃない?』


『ルサは外で待ってろ!』


ルサはゼルスタインに追い出された。

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