第3話 知って損、知らないと損

クロヌイはリュックサックに色々な物を入れて何かの準備をしていた。


キィィ…


『いらっしゃい。』


『あら、ドアにつけてた金属棒の束は飽きちゃったの?』


先日起きたチンピラの一件でドアにつけてた金属棒は床に落ちて壊れてしまったのだ。


『どうだっていいだろ。あとコレ、500万。』


クロヌイは茶封筒5つを女性エルフの前にドンっと置いた。


『相変わらず金の用意だけは早いのね、延滞料付けようと思ってたのに。』


『お前も金貸しの仕事やってる仲間がいるんだったら俺のとこに来させろ。正直、ココの闇金業者は借り手どもから舐められてる。』


『声くらいはかけとくわ。ところで、そんな荷物持ってどこか行く気?』


『新しいビジネスのために一週間程度店空けるんだわ。お前、留守番頼めねぇか。』


『私もワタシの仕事があるの。この間の男の子にでも頼んだら?』


『それはダメだ。』


女性エルフは何故ダメなのか聞こうとしたが思い留まった。


『…分かったわ。こういう時に理由を聞くのは愚行って前に教えてくれたものね。なら、15万で信頼できる人を紹介してあげる。どう?』


『決まりだ。』


クロヌイはリュックサックを担ぎ店を出て行こうとした。


『ちょっと!料金は先払いよ!』


『そこに入ってる、店の鍵はカウンターの引き出しの裏。』


クロヌイは先程渡した茶封筒を指さして店を出て行った。


『まさかね…』


女性エルフは茶封筒の中にある札束を全て取り出して一枚ずつ数え始めた。すると、金額は請求した500万に加えて15万サルマ多めに入っていた。


『未来予知でもできるの?アイツ…』


◇◇◇◇◇


クロヌイは街から少し離れた森の中にやってきた。木々の間から溢れる日光を時々浴びながら歩いていると小さな小屋が見えてきた。


コンコン


『開いてるよ。』


ドアの奥から野太い声が聞こえてきた。


『お久しぶりです、ジヤーカさん。』


『おぉ、クロヌイだったか。』


ジヤーカという男性ドワーフはクロヌイを快くもてなした。


『前に作ってやった焼鏝はもう使ったか?』


『はい、綺麗に焼き入れできました。』


『しかしお主も変わり者だな。魔力耐性がほとんどない純正のモノを毎度注文してくるのだから。』


『そっちの方が扱い慣れてるんですよ。』


『それで?今回はどんなモンを作ればいい?』


クロヌイはジヤーカの前に一枚の設計図を広げた。


『これは「銃」と呼ばれるモノです。詳しいことは省きますが火薬が爆発した勢いで鉄球をこの筒の先から飛ばすという道具です。』


『コレは…アレか、当てたら致命的な負傷を負わせることができる道具か?』


『さぁどうでしょう?』


『意地悪なヤツめ。まぁいい、仮にコレが殺傷能力がある代物でソレでヒトを殺しちまったって言う知らせが入ってもオレは責任とらねぇ。それが条件だ。』


『分かりました。では特許ごと俺が買うんで大体いくらくらいで着手して頂けますか?』


『そうだなぁ…実は最近気になってる鉱山があってヨォ、でもそこは隣国の貴族のモンだって聞いたんだ。まともに採掘もしねぇでただ山の外観だけで酔いしれてやがる!山は中身見てナンボだろうがッ!!』


顔を真っ赤にしながらジヤーカは叫んだ。


『まぁまぁ、分かりました。ではこちらである程度見積もっておくのでそちらの方はよろしくお願いします。では5日後にまた来ます。』


『コレくらいなら3日あれば作れるぞ。』


『急ぎじゃないので可能な限りそれに近いやつをお願いします、では。』


ジヤーカの家を出てクロヌイはまた森の奥へと進んだ。


陽が地平線に差し掛かった頃、クロヌイは隣街に着いた。この街はクロヌイが住んでいる街よりも華やかで人口が多い。また、この国でも数少ない水商売が許された街でもある。


適当な宿に入り軽く夕食を済ませたあと、クロヌイは自分の部屋のベッドの上に横たわった。


『ク〜ロ〜ヌ〜イさん♪』


急に名前を呼ぶ声が聞こえたのでクロヌイは焦って身を起こした。


そこには犬耳の獣人がソワソワしながら立っていた。


『入ってくるならノックぐらいしろ。礼儀だろうが。』


気が抜けたようにクロヌイはまたベッドに横たわった。


『んも〜冷たいなぁ!そんなクロヌイさんにはこのルサちゃんからのハグをプレゼントしてあげよう!』


ルサと名乗る獣人はクロヌイ目掛けてベッドにダイブした。しかし、クロヌイはゴロンと寝返りをしてそれを躱わした。


『グフッ!!』


ルサはベッドに叩きつけられた。


『ねぇ〜なんでそんなに冷たいのぉ?』


『疲れてるからだよ。』


『じゃあいつできるの?』


『何が。』


『子作り。』


『はぁ?水商売やってる奴がなに積極的に子供作ろうとしてんだよ。』


『私だってこんな急ぎたくないよ!でも私みたいな獣人は一回妊娠したらもう子供産めないだよ?クロヌイさんと今のうちに作っちゃえば私も安心して今のお仕事続けれるし♪』


『そんな事にならない為に避妊魔法ってのがあるんじゃないのか?』


『ソレについて相談したい事があるから来たの!』


『じゃあ最初からそう言えよ。』


◇◇◇◇◇


次の日、クロヌイは朝食を食べながら昨晩ルサから受けた相談のことを振り返っていた。


最近、ルサの働く獣人専門風俗店で雇われていた避妊魔法を使用できた魔法使いがその職を離れたとのことだった。今は飲み薬を服用しながら仕事に勤めているようだが接客する種族によって飲む薬を変えないといけないらしい。薬の副作用の影響で倒れてしまった従業員もいるとのことだ。


『ヨォ兄ちゃん。隣座ってもいいか?』


見知らぬ男性が突然クロヌイに声をかけてきた。


『どうぞ。』


『ワリィな!兄ちゃんはどっから来たんだ?』


『スマウです。』


『スマウ⁈あのめちゃくちゃ治安悪いどこか⁈』


『住んでみると案外悪くありませんよ。』


『兄ちゃん肝が座ってるね!それで、何を目的にここへ?あっ!やっぱりエロいことか⁈』


『さぁどうでしょう。』


『ムッツリだねェ〜!でも、気をつけろよ!最近、変な魔法使いが色んな店の女に変な魔法かけて事件起こしてるみたいだからな。』


『変な魔法?』


『俺も詳しい事は知らないんだけどヨォ、魔法かけられた女は自分が魔法かけられた事に気付かないんだとよ。そんで、魔法にかかった女とヤッた男はアソコが…』


『あの、もういいです。飯食ってるんで。』


『あぁそうか…すまん。』


『いいんです。聞いたのは俺なんで。』


『まぁ、兄ちゃんも巻き込まれないようにな!』


そう言って男は去っていった。

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