第2話 見えない場所で行われていたこと

『ねぇ、この間の魔力阻害の一件ってあなたがやったんでしょ?』


酒場でピザを頬張っているクロヌイにそう聞いたのは先日Akuに来ていたあの女性エルフだった。


『なんのことやら。』


『前も同じようなこと注意したけど魔力阻害って王国に感知されやすいのよ?しかも!今回の取り引きで「イヌ」を運び屋に使ったそうじゃない。バカなの?』


『リスクは承知の上だ。』


『何が「承知の上だ。」よ!「イヌ」がマートに立ち寄ってなかったら今頃あなた牢獄行きよ!』


『わかったわかった…次からは別の手口で上手くやるよ。で、報酬は?』


『あるわけないでしょ。むしろ今回の魔力阻害で王国からの目が一段と厳しくなったんだから500万ほど払ってもらえるかしら?』


『前やった時は30秒の阻害で500万だったのになんで半分の時間で同額なんだよ。』


『新しい策を練るのがどんなに大変か分からないからそんな事言えるのよ!』


女性はそう言って自分が頼んだドリンクの料金だけ席に置いて何処かへ行ってしまった。その数分後、酒場に一人の男性が入店してきてクロヌイの前に座った。


『ブツは受けとりました。でもまさか、本物の警備隊に持って来させるとは思いませんでしたよ。』


『さっきも同じこと言われた。』


『マジで掏りしか取り柄がなかった僕でも相手が「イヌ」さんだとそれなりの仕事してるように感ましたよ。』


『楽だったか?』


『んー微妙っすねぇ。胸ポケットに入れてる事はすぐ分かったんですけどちょうどその正面でスマホいじってたんで…』


『結果オーライならまだいいだろ。』


『そうスッね、あとコレ今回の分です。』


男性はクロヌイの前に茶封筒を差し出した。


『…厚いな。』


『ガラスが最近あまり市場に出回ってないせいか価格が高騰してるんですよ。誰か買い占めでもしてるんですかね?』


『さぁな。』


クロヌイはピザをまた貪り始めた。


『そういえば、クロヌイさん。ひとつヤバめな情報が入ったんですよ。ただあんまり信憑性がないってのが欠点なんスけど…』


『ランクは?』


『本当の情報ならA以上かと。』


『ふーん…じゃあ裏語で言ってみろ。』


『僕は裏語使わなくても魔法で伝えれますから。』


男性が卓上に指で魔法陣のようなものを描き小声で呪文詠唱を始めると、男性の声が直接クロヌイの脳内に響き渡ってきた。


(聞こえます?)


(あぁ、聞こえる。)


(じゃあ、言いますね。実は…)


ムグっ!!


男性が話そうとした瞬間、クロヌイが喉にピザを詰まらせて床に倒れた。


『く、クロヌイさん⁈大丈夫ですか⁈』


真っ先にクロヌイを庇った男性は背中を思いっきり叩いて詰まったピザを吐き出させた。


『っハァ…ハァ…スマン。』


『まったく…心配させないで下さいよ…』


『今日はもう帰る、会計は頼んだ…』


クロヌイはふらふらと立ち上がって店を出て行った。


男性は仕方なくクロヌイに変わって会計をしようとしたがどこを探しても金貨袋が見つからない。


(人に金払わせようとしてコレかよ!クロヌイさん…!!)


『大丈夫でしょうか?お客様?』


獣人のスタッフが心配そうにしていた。


『あっ、イヤ…あの〜…銭袋をどこかで落としてしまったみたいで…今日一日ここで雑用するんでソレであの卓の料金帳消しにしてくれませんかね?ハハハ…』


◇◇◇◇◇


時刻は午後5時を回り辺りも薄暗くなってきた。そんな中、街道の端でチンピラが屯っていた。


『おい、カリスト。楽に金が稼げるってこの間デケェ口叩いてた癖に今度はなんだぁ?マトモに職を探した方がいいダァ?舐めた態度とってんじゃねぇよ!!』


『しょうがねぇだろ!前に仕事くれる人に追い返されたんだからよ。』


『じゃあ、ソイツから金巻き上げればいいだけだろうが!』


『出来るもんなら既にやってるわ!』


『なんだよ?そんな大層な理由があんのかよ?』


『あの人はたぶん…普通じゃない!なんて言うか…「生きてても死んでても良い」みたいな…』


『ハァ?何言ってんだお前?』


『オマケに魔法も使えるんだ!』


『魔法?ソレなら俺にだって出来るさ。』


チンピラの1人がカリストの目の前で手から炎を出して見せた。


『俺は一応、3級指定炎熱魔法を扱える。そこらのザコぐらいはすぐ灰になるレベルだ。カリスト…お前もそうなりたくなかったら早くソイツの場所に案内しろや。』


魔法が使えないカリストは抵抗出来ないままチンピラ達をクロヌイのもとへ連れて行った。


『雑貨屋Akuねぇ〜、ココにさっき言ってた奴がいんのか?』


『まぁ…灯りがついてるから居ると思う…』


シャラララン


『いらっしゃい。』


『あのー…灰さん…』


『なんだまたお前か。』


ガッシャン!!


チンピラ達が一斉に入ってきたせいでドアに取り付けていた金属棒が床に落ちた。


『お客じゃねぇなキミたち。』


『おっ!話が早いじゃ…』


ジュウっ!!


『あ゛っ!!!』


チンピラが話終わる前にクロヌイは先頭のチンピラの頭を床に押さえつけながら背中辺りに熱々の焼鏝を押し当てていた。


『コレさぁ、された事あんだけどまだした事なかったんだよね。』


『ずいまぜんでじだぁぁぁ!!!』


押さえつけられているチンピラを見て他のチンピラたちは戦慄していた。


『コレ暫くやると皮膚と服がくっついちゃうんだよなぁ。イヤだよね?くっつくの?』


『イヤですッ!!だからやめて!!』


『やめるかどうかは俺が決めんの。ほらでも、服ずっと着てるから風呂入んなくていいじゃん。』


クロヌイのあまりの冷酷さにカリスト以外のチンピラはとうに逃げてしまった。


『は、灰さん…そ、そこら辺にしといてもらえますか?』


『え?なんで?』


『彼もう気絶してます。』


『うわ、本当じゃん。漢気ないねぇ。』


カリストは自分でもなぜこんな状況なのにそんな冷静でいられるのか分からなかった。


『コイツ俺がもらっていい?そしたらお前がさっきの奴ら引き連れて俺に喧嘩吹っかけてきた事を無かったことにしてやる。』


カリストは考えるまでもなかった。


『はい、いいですよ。』


『じゃあ交渉成立。』


カリストはそのまま何も言わずAkuを後にした。

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