異世界に闇稼業を持ってきた男がかなりヤバい奴だった…

きぬま

第1話 見えない場所で行われていること

『あー、なんか楽に稼げる仕事ねぇかなぁ…』


そう呟きながら狭い路地を慣れた足取りで歩いているのはカリストという男だ。


『また、灰さんに頼るしかねぇ〜か』


カリストは狭い路地の更に奥へと進んだ。

すると、明らかにこの路地の雰囲気とは調和していない木製のトビラが見えてきた。

そのトビラの横には小さな看板があり、『雑貨屋-Aku-』と白いチョークで書かれていた。


シャラララン


扉につけられた金属棒がカリストの入店を知らせた。


『いらっしゃい…』


『あっ!灰さん!ご無沙汰してます!』


カリストの前には埃取りを使って棚を掃除している1人の男性がいた。


『なんだ…オメェか。』


『「なんだ」ってなんですかぁ?』


『で、何の用だ?雑貨でも欲しくなったか?』


『あぁえっと…「また」仕事もらえます?』


カリストがそういうと掃除をしていた男の手がピタリと止まった。


『…ダメだ。』


『えっ⁈なんでですか⁈』


『オメェみたいな生半可な野郎ができる仕事なんざ扱ってねぇよ。』


『でも前はこの店から近くの酒場まで3往復しただけで20万サルマくらいくれたじゃないですか!』


カリストがそう訴えると男性は手に持っていた埃取りを凄い速さでカリストの喉に突きつけた。


『どう感じた?』


男性は暗い声でカリストに尋ねた。


『こ、怖いです…死ぬかと思いました…』


『そうじゃねぇよ、目に見えたかって聞いてんだよ。』


『そんなの…見える訳ないじゃないですか…』


『コレの1.8倍だ。』


『な、何がですか?』


『そのくらいの速さでお前は掏られたんだよ。』


『え⁈でも俺、サイフとかちゃんとありましたよ!いったい俺から何を…』


男性は大きなため息をついた。


『オメェの鈍感さにはつくづく呆れるわ。

今日はもう帰れ。』


男性の冷たい視線に耐えられずカリストは店を出て行った。そしてちょうどカリストと入れ替わるように1人の女性エルフが入店してきた。


『いらっしゃい。』


『なぁに?今の子?』


『お前には関係ない、要件を言え。』


『「逆さまの長身野郎が0でもう一人が5、ガラス1枚」だってさ。』


女性エルフは摩訶不思議な事を言ったがどうやら男性は彼女の言ったことを理解したようだった。


『じゃあ私はもう行くけど、最近「イヌ」がやたらコッチ側嗅ぎ回ってるらしいからアンタも気を付けなよ。』


『俺のとこに来たところで何もわからねぇよ。俺は黒じゃねぇからな。』


『白でもないわよ。』


女性はそう言って去って行った。


◇◇◇◇◇


時刻は午後11時を過ぎようとしていたがAkuからはまだ灯りが溢れていた。


『もうそろそろか…』


男性はカウンターに腰掛けながら何かを準備し始めた。


透明な袋を3つ用意してそこに乾燥した草のような物をスプーンで何杯か入れ、その袋を真空にする機械にかけた。


シャラララン


ちょうど作業が終わったところで誰かが店に入ってきた。外観は中肉中背の男性だった。


『夜分遅くにすいません。クロヌイシロさんでよろしいでしょうか?』


『今日はもう閉店しましたよ。』


『私は王国警備隊のモノなんですけど今お時間よろしいでしょうか?』


『時計見てくださいよ、よろしい訳ないでしょ。』


『その割には何か忙しそうにしてたんじゃないですか?例えば…そのカウンターの上に散らばっている屑片で何かしていたり。』


『コレは茶葉ですよ。』


『じゃあ、私が手に取ってよく観察しても良いってことですよね?』


『なんでそうなるんですか?』


『「なんで」って、あなたは私たちの界隈では有名人なんですから。注意深くなって越したことなんてないでしょう。』


王国警備隊の男性はカウンターの裏側にズカズカ入り込んでこと細かく調べ始めた。


するとクロヌイが先程作り上げた草の入った袋がいくつか出てきた。


『おや?コレはなんですか?』


『さっきも言ったでしょ、茶葉だよ。』


『茶葉をわざわざ真空の袋に入れる必要ってありますかね?』


『こだわりですよ。』


『正直に言った方が刑が軽くなるかもしれませんよ?』


『刑?何のことだか。』


『まぁいいです。でもコレは預からせてもらいますよ。あなたが言うようにコレが茶葉なら後日しっかりお返ししますので。』


王国警備隊の男性は胸ポケットに「茶葉」の入った袋を入れて店を出て行ったが黒縫は特に何かするわけでもなくただ黙っていた。


◇◇◇◇◇


王国警備隊の男性はその脚でマートに立ち寄って買い物をしていた。パン2個、瓶酒1本を手に取り会計カウンターに向かった。


『合計653サルマです。』


『あと、葉巻を…』


バチン!


王国警備隊の男性が葉巻を購入しようとしたその時、マート内の照明が消えた。


『うわっ!魔素切れか?』


『まったく…しっかりしてよ!オーナー!』


マート内にいた他の客も動揺しているようだった。


『お客様、落ち着いてください!コレは一時的なものだと思うので慌てずその場から動かないでください!』


マート店員が冷静に状況を対処した。


王国警備隊の男性はというと特に焦ることもなくその場でただ会計を待っていた。


15秒ほどして灯りが戻った。


『お!戻ったぞ!』


『今のなんだったのぉ〜?』


客が安堵している姿を見てマート店員も一安心している様子だった。


『あのー、葉巻を一ついいですか?お金はもうここに置いてあるんで。』


王国警備隊の男性は既にカウンターの上に置いてある葉巻代も含めた代金を無愛想に指差した。


『あっ!失礼致しました!コチラになります。』


店員が葉巻を渡すと王国警備隊の男性は無言のままマートを出た。


この時、マート店員はいま会計を済ましたばかりの男が合計金額に達しない額を置いて店を出て行ったことに気付いていた。「それなのに」男を引き止めなかった理由は王国警備隊の男性とマート店員の間で一方的なやり取りが成立していたからである。


時刻は午後11時30分。

クロヌイの仕事は完了した。

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