第17話

「御使様、幽世にようこそおいでいただきました。幽世でも特に辺鄙なところゆえに何もお構いできませんがごゆるりとお過ごしください。」


「おばあ様。どうしたの私だよ。あなたの孫のハクだよ。ボケちゃったの?」


「アッ!あそこにイケオジが!」 ストン!


僕を抱っこしているハクが自分の自宅らしい宮殿に着くとすでに誰かが先振れを出したのかわからないが、門の前で何十人と整列して歓迎してくれていたのだ。


僕はそれまで赤ちゃん状態だからか、ハクの柔らかい大きな胸から伝わってくる鼓動と人肌の暖かさで寝てしまっていたようだ。手に握られているリングは何故かひもが付き首から下げられている状態で縛の手の中で軽く振動しているようで僕を自然と起こしてくれた。


ハクが祖母をボケ老人扱いしそうな砕けた会話をしたとたん。示し合わせたかのように誰かがいきなりイケオジなどといいながら指をさしながら叫んだのだ。その直後、ハクから僕を取り上げるためにか、いきなりハクの背後から何者かが現れた。ハクが振り返る間もなく首筋にチョコンと手刀をあて意識を飛ばした。崩れ落ちる瞬間、さも何もなかったように僕をハクから取り上げ優しい笑顔を振りまいたのは、ハクの母だったと後から聞かされた。


何でもハクの母は元聖女である祖母の警護を率先していた追しかけ戦闘メイドであったらしい。なんでも、狐人として生まれた母は時勢が悪く戦争孤児で性奴隷として売られた過去があり、奴隷商から祖母の助力で救ってもらったことでそれでもなんとか強く生きていくこともきめたぐらい幼いながらも強い意志を持った女だった。しかし、時代が悪かったのか戦火にに追われて10歳もならずに死んでしまったそうだ。


そんな祖母は奴隷から解放した狐人の幼い少女がなくなったことを知り、戦争孤児のための孤児院を作るなど、戦争後の復旧にも尽力を傾けた。それは、奴隷狩りが横行した時代、奴隷商に売られた孤児たちを引き取ることも忘れず、スラム街と化した街角にたたずむ死を待つだけの孤児たちのために孤児院を作り、街に出かけては院長として聖女の祖母は何度も同じ境遇の孤児を助けていたそうだ。


そんな元聖女なくなりが賽の河原で石塔をつくるために石積をしている狐人の少女と再会をはたした。


「ワチの本当の父も母も知らないけどワチの母は聖女様なの。聖女様より早くワチが死んだのはワチが無力だからなの。だから、聖女様にも恩返しもできない不束者だから聖女様に返せり物は何もないワチだから石積して塔を作り・・・ただ聖女様のシアワセを願うだけなの・・・でも、今日はうれしいな。聖女様に会えたから・・・」


まだまだ、この戦闘メイド風なハクの母の話はあるのだが娘のハクが祖母をボケ老人扱いしたことに対して教育的指導・・・しつけ作法を施しただけらしい。


まして、元聖女の訃報を聞き恩義を感じていた孤児の中に信仰深く聖職者の聖女の後追いのため殉死した者が門の前で何十人と整列して歓迎していたから迅速にハクの母が処理というなの制裁をしたのかもしれない。はぁ~いつの時代も狂信者達は恐ろしい。


いつの間にかハクはどこかに連れ去られたらしく、僕は二刀を背負ったメイドのパンパンに膨れた胸を覆いかぶせられるよう胸の重さで潰されるように抱えられていた。あまりにも赤子にとって大きい胸の主張のおかげではっきりとハクの母は見れなかった。でもすぐに優しく抱きしめなおしたのはありがたかったが、胸に間に仕込んでいる武器らしい何かが冷たく固く僕を強張らせ体温を下げているのには気づかないだろう。


赤ちゃんながら不思議そうに見つめる眼差しを理解したハクの祖母が手をたたくと若い執事らしき者がベビカーをもってきた。


ハクの母は優しく優雅に豪華な装飾が施されたベビカーというより・・・工芸品としての価値のある乳母車と思えるほどの動かしても振動を感じさせない特殊なベッドに僕を寝かせてくれた。ハクの母の胸から離れていくさみしさより、このベッドに移るフェザータッチからの沈み込みのやさしさに感動を覚える程だった。


一瞬で寝かせしつかせられた僕は、いつの間にどこかの離宮で愛を捧げあうような部屋の明るい風通しもよく、木漏れ日からの日差しが心地よい部屋に入る、そよ風のおかげで目が覚めた。


ろくにできない寝返りしながら寝ぼけ眼から見えたのは、揺り籠のような豪華なベビーベッド横に座るのはどうやらハクの祖母のようだ。その後ろにハクの母が見守るようにやっており。部屋の隅のベッドにはいびきと腹を掻きながらだらしなく寝ているハクがいた。ハクがいびきをかいた瞬間何かでハクのおでこに刺激を与えているハクの母は少し笑顔が引くついているのは少しシュールだった。


それはさておき、僕が目覚めたことが判った、ハクの祖母は僕の顔のほうに顔を近づけ話かけてきた。


「御使様この肌着はどうですか。ご睡眠の妨げになっておりませんか。腐っても聖女の経験がありますのですでにご神託をうけたのでご事情は理解しております。ただ、降臨におけるチュートリアルイベントに当たる修行といっても普通ではないそうです。御使様がそのお姿でここに降り立ち、なぜか選ばれたチュートリアルよばれる修行はイレギュラーコースともいわれる試練を兼ねたトライアルイレギュラーコースです。その代わり人生はもとより、より深くより広く学ぶことができる深淵コースのチュートリアルだそうです。」


話の途中で僕の首にかかったリングをベッドの頭の位置にある台座にハメこむように置くとリングが輝き出した。


「この指輪は神話級アイテムです。インテリジェンスアイテムであり、【リング オブ ザ インテリジェンス】というものだそうです。肌身離さずにせずともこのベッドには隠された使用方法により効力が増幅します。もし、病気がちなものでもこのベッドに回復用のアイテムをセットすれば回復も早くなるなど優れたベッドです。」


僕はこのベッドの説明を受けながらも【リング オブ ザ インテリジェンス】って訳すと知恵の指輪・・・知恵の輪のダジャレかよっと突っ込みを心に入れながらも耳を傾けていた。でもただの知恵の輪なら【puzzle ring】だし知恵の指輪なら【Ring of Wisdom】っていうから・・・・


あれ、もしかして僕、賢くなってない?少し頭の回転が早くよくなったかな?なんて自己暗示をかけるのであった。


そんな不思議そうな顔を覗きながらニコニコと話しを続けるハクの祖母と、僕の口に飴を入れるハクの母は表情がころころ変わる僕を見つめては嬉しそうにしていたのだ。

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