第2話 隣人レイチェル・リンド婦人

 レイチェル・リンド婦人は、マシュウとマリラ兄妹の家のご近所に暮らしている。情報の運び屋または、情報収集に特化した村の貴婦人だった。スパイの様な感じだが、この場合はオープン的で嫌味のない地域に情報を流通してる明るい叔母さん的なスパイなのだ。

 

 常に日頃から鍛えた情報処理能力に右に出る者はいるまい。例えば先に情報を手に入れたけど、すでにリンド婦人によって処理されているので街中が認める街公認の情報屋なのだ。ほんとかどうかはわからないけれど、それだけ特化してると言うわけである。


 でもその情報を扱うに、必要な情報と不必要な情報が入り混じり時として鬱陶しいがられることの方が断然多いのかも知れない。リンド婦人はそれが生き甲斐みたいなものだからあえて村の人たちも帳尻を合わせてあげてる。初対面の人は驚くだろうて。しかしそんな事はどうでもよくて…


 そして、その時が訪れた格好の標的が…リンド婦人は目撃したのだ情報とやらを、現代風に言い換えれば彼女のコンピュータのキーボードが素早くブライドタッチされた。キーボードがコツコツと音を弾く…さらに近づくコツコツと音もした…それは現実に聴こえてくる地に蹄鉄が当たる音だった。


 コツコツ…コツコツと舗装されない道をマシュウの手綱で馬が馬車を牽引している。ゆっくりゆっくりと目的地にその馬車は進んでいった。


 あのマシュウが珍しく紳士服で馬車に乗ってる姿を自宅の窓際より見かけて。これは何かあるぞと急いでレイチェル・リンド婦人はマリラの所へ駆け出した。そりゃあ…もう大急ぎで…情報屋としては、今起きてる事の真相を突き止めなければなるまいて。


 若干緩やかな坂道をかけて上がって来たので息があがる。大切な事は、急いで息があがるまで確認することでもない。たいそうな年齢である。何か発作でも起きたらそれこそリンド婦人が村中の情報として流れてしまいかねない。

 

 あんぐりと口が開きしばらくの間…開いていたのだ。そして息も少し荒くしてた。マリラはもう開けた口を閉じてもいいですよ、少し休まれたらと思ったに違いない。


「何ですって、孤児院から男の子を」と驚きを隠せないのはマリラの家に駆け込んだレイチェル婦人である。


「えぇ そうなのレイチェル」と至って冷静沈着である。


 腰掛けにかけ両手で編み物を施してる最中だった。


「でもマリラは何故そんな気になったのかね。私には何にも相談がなかったじゃないか」とレイチェルもマリラの隣の椅子に腰掛けた。

 

 マリラは手を止めレイチェルに顔を向き。


「レイチェル、これには今までずっと考えてきてたんだよ。」と続けて、一旦編み物の手が休止したが…次の考えを廻らした。


「去年の暮れにスペンサー婦人と会った時に春先にホークタウンにある孤児院から女の子を貰うつもりだと聞いてね」

 

 スペンサー婦人はマリラの知人である。マリラからは信頼を得ている人物でグリーンゲイブルズから約10〜20キロ離れたホワイトサンドに住んでいる。自身で孤児の世話をしているのもあり、そしてさらに孤児を引き受ける方も常日頃から孤児の幸せを願い引き取り手に繋ぐ役割を担ってる。裕福な貴婦人である。


 マリラは編み物を再開した。それを見るやリンド婦人は言った。


「でもあんた達まで、その歳になって」レイチェルは両手を広げて、鳥が羽根を拡げる様に信じられないわと言わんばかりであった。


「それなんだよ。レイチェル…兄さんも歳だから前みたいに元気がくなちまっただろう」編み物をしながらレイチェルに振り向く。


「ふ〜ん」とレイチェルは少し納得してない様子だ。まぁこの歳を迎えると寂しくなるのも無理はないその点はガッテンくるのだった。


「だから十か十一の男の子を貰い受けて、ちゃんとした家庭と教育を与えてやればきっと良い働き手になってくれるんじゃないかと考えたんだよ」マリラは諭すように話す。

 

 マリラにしてみれば子育てというものを今の歳まで経験した試しがない。マシュウを餌に子育てをしてみようとの想いを少なからず女子として生まれたのであれば経験したいと抱いたのかも知れない。


 その頃アンは徐々にグリーンゲイブルズへと景色が変わる中これから会う人達はどんな人達だろうと想いを馳せていた。その瞳を潤いそして、現実と理想を巡る妄想が彼女の周りを色とりどりに変えていく。

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