第34話
背中に直撃を当てた。
確かに当てた。
「ふぅー。やるねぇ。これは少し見誤ったよ」
「ルルの雷魔法食らってピンピンしてやがる」
流石にダメージがないってことはないと思うけど、それでもまるで効いてないように見える。
肩や首をコキコキと鳴らしながら立ち上がった。
「意外だったが、想定外ってわけじゃないね。無詠唱で別の魔法を唱えるなんざ、何度も見てきたよ」
「どうやって防いだのかしら?」
「相手に手の内を教えるほど、あっしは甘くないもんでね」
仕切り直しと言っても、向こうは歴戦の猛者。
こちらはまだ二十歳も行かない小僧小娘の三人。
戦闘が継続するほど不利になる。
「さて、じゃあ仕切りなおしに・・・」
アースがふらふらとバランスを崩した。
本人もこれには驚いた様子。
「おっと・・・」
「なんだ、ちゃんと効いてるわね」
「歳は取りたくないもんだねぇ。防いでないことを自ら晒す様な真似をするとは」
効いてる。
効いてはいるけれど、これで大丈夫かしら?
「今だ。いくぞルル!」
「グレン!わかったわ!」
グレンがこの隙を付く形で走り出した。
援護する形でグレンの周りに来るようにホーネットを放った。
「ふーん、正面かい。舐められたもんだ」
「どうだかな。惑わし歪み映せ」
グレンとホーネットが複数現れた。
これはガウリ様の中級幻惑魔法のミラージュ。
名前の通り対象を複数に見せる魔法ね。
「ちっ、厄介なもんを」
「グレン!いけっ!」
「生憎、どの小僧が本物かは見えてる」
「なら、これでどうかしら?」
私は光魔法のフラッシュを使った。
これで一瞬だけど目眩ましになる。
私を中心に光ってるから、背中を向けてるグレンにだけは目眩ましにはならない。
「しまっ!?」
グレンはそのままアースの目の前にたどり着いた。
もう光は止んでるけど、それでも複数に見えるグレンを防ぐ術は彼女にないはず。
グレンの拳はそのまま彼女の腹部へと直撃した。
「わりぃな婆さん」
「焼きが回ったねぇ」
その直後に私の放ったホーネットも続けざまに彼女へと直撃した。
人間の内臓が燃えたら、流石にダメージが入るはず。
でも倒れる気配がない。
「これがその魔装の最大火力かい?」
「な・・・に!?」
「あっしの剣術は”受け流し”だよ」
受け流し!?
剣術に防御寄りのがあるなんて知らなかった。
いや、それよりも彼女は貴族じゃないのに!?
「グレン、離れて!」
「させないよ」
グレンが右腕を掴まれた。
まずいまずいまずい。
このままじゃグレンが危ない!
「その腕、もらうよぉ」
「させないわよ!雷鳴よ!」
ホーネットを放った後に、ハクビシンをかなり省略した詠唱で放った。
受け流しがある以上、無詠唱での魔法じゃ受け流される。
「適当に放ったくらいじゃ、あっしには届かないんだよ」
コントロールして放ったのに、それも全部受け流された。
でもこれでいい。
剣術は使うほど消耗するんだからね。
そのままグレンの腕に彼女の剣が振り下ろされた。
グレンもその剣に拳を振るう。
剣が折れたが、グレンの拳からも大量の血が出血した。
流石に驚いたのか、アースは手を離したのでそのままグレンの服の襟を掴んで離脱する。
「助かったぜルル」
「はぁ・・はぁ・・流石に剣術を使いすぎたねぇ・・・力が抜けちまったよ・・・」
「大丈夫グレン!?」
切断こそ免れたものの、左の拳が割れている。
あと少しで指が切断されてもおかしくなかった。
「流石に消耗しててもちゃんと強いな。治癒魔法を駆けて指を切断されないことだけを意識して、斬れたところを治癒して切断は免れたが、もう魔力がすっからかんだ」
「グレンは下がってて。後はガウリ様と私でやるわ」
勝てるかどうかわからないけど、それでもやるしかない。
遠征前に心配してた、支配されて味方に殺されるとかよりよっぽどマシな死に方よ。
「だったら、こいつを使え」
グレンは私に魔装の指輪を渡してくる。
でも私は魔装を起動することができなかった。
適性が全くないそうだ。
「私はそれに適合しなかったのよ?」
「受け取れルルシア。グレンの指輪はまだ試していないだろう!」
ガウリ様の言うとおり、もう適合者に渡った指輪はまだ起動したことがなかった。
でもそんなに都合良く指輪が起動するとは思えない。
適合者がいる指輪は、本人の魔力と馴染んでるから絶対に他者に起動が出来ないって研究結果が出てるとオリバー様もいってた。
「でも・・・」
グレンが私のことを抱きしめてくる。
手からは血が滴ってくるけど、それと同時に温もりも感じてきた。
「大丈夫だ!俺はルルを信じてる。頼むぞ」
「グレン・・・」
グレンが頭を私の頭に付けてきた。
そうよね。
やる前から諦めるなんてよくないわ。
「わかったわ!」
「ルルシア、グレン、そろそろあいつの体力も回復する。魔装を発動させるなら急げ」
グレンは私の手を握ってくれている。
私は魔装に魔力を注ぎ込んだ。
それと同時にグレンの手から温かい力を感じた。
「なんだこれ?」
「わからないわ。でも何かグレンと強い繋がりを感じた」
私の背後からも何かを感じる。
まるで私を抱きしめるように。
『魅了属性ヲ検知。適合者トノ魔力同期ヲ開始』
「なんだ?」
「指輪から音声!?」
「何を言っている?何か聞こえるのか?」
ガウリ様には何も聞こえないの?
私達にだけ聞こえてるの?
『魅了セシモノ、魅了サレシモノ、双方ニ心アリ。適合完了。
昇華します!?
一体何が起こっているの!?
私とグレンの周りに炎と雷の竜巻が立ち上り始めた。
風が止んだ時、私の中に溢れる魔力が満ちている。
そして頭に帽子が被さっていた。
真実の愛の為に冤罪で婚約破棄をされる公爵令嬢 茶坊ピエロ @chabopiero_1919
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