第33話

 アース・モディウスは帝国では最強の騎士であるフォッカーを育て上げた。

 帝国最強とは、貴族が色々な流派がある中での最強。

 年齢で実力が衰えているとはいえ、実力者であるリリノアールの唯一の護衛でもあった。


「貴女が相手なんてね・・・」


「あっしは嬉しいよ。ちゃんと逃げられたんだねぇ」


「ルルシア・・・知り合いか?」


 ガウリ様は額の汗をぬぐいながら聞いてくる。

 グレンは何度も彼女と会ってるけど、ガウリ様は初対面だしね。


「リリノアール皇帝陛下の専属護衛です。気を付けて下さい」


「強いのか?」


 私は黙ってうなずく。

 そうかと一言だけいうと、ガウリ様は彼女に視線を戻した。


「元だよルルシア。今リリノアールは幽閉されてるからねぇ、アハトが実権を握ってるよ」


「シュナイダーじゃないのね」


「あのバカ皇子か!?ハハハ!さすがにありえんだろ」


「でも私は彼の所為で追放になったのだけれど?」


「魅了魔法を使う魔女だっけ?あんたも災難だったねぇ」


「そう思うなら引いてくれないかしら?」


「撤退させるのが任務なんだろう?あんたの後ろ盾の為にこの任務に参加してるんだろう?」


「ここでの話以上のことを知ってるわね。どこか仕入れたのかしら?」


「どこからでも。情報ってのはそこら中に転がってるのさ。人の口に戸を閉めることはできないんだよ?」


「それも支配の力なのかしら?」


 少なくとも陛下かアハト様は支配ができていないはず。

 だとすればあのクーデターの意味がない。


「どうだろうねぇ」


「なら直接聞くまで!」


 後ろにいた師団員の一人が飛び出して魔法を唱えようとする。

 しかしすぐに跪いて口を閉じてしまった。

 そして体中をガタガタと震わせている。

 よく見れば他の立ってる師団員も同じだ。


「なるほど、支配とは恐怖。つまり貴女の宝具の能力は恐怖ってわけね」


「おっと、早いね解けるのが。そこの幻惑の小僧とグレンには聞いてないようだが」


「ふん、伊達に貴族はやっていない」


「俺の親父のがよっぽど怖いからな」


 私も恐怖を感じるけど、どちらかというと威圧感になってる。

 でも屈するほどの威圧感じゃない。

 多分屈したときにこの威圧感は恐怖に感じるのでしょうね。


「ガキ共が耐えれる恐怖を情けない大人達だねぇ」


「師団員はほぼ全滅ね。聖騎士部隊と聖女は別のところにいるの?それに本物の陛下はどこ?」


「それを答える義務があたしにあるのかい?」


「ないわね」


 私は雷魔法ドラゴンフライを前方に放つが、仕込み杖の剣で簡単に弾かれた。


「ふーん、雷魔法とは手癖が悪いね」


「誉め言葉かしら?」


 ドラゴンフライを簡単に充てられるとは思っていない。

 わかってればよけれてしまう魔法なのだから。


「纏え!舞闘の鎧アトラスアーモ


「魔装発動。幻影凶刃ナイトメアブレード


 グレンが炎を纏い、ガウリ様が薄っすらとしか視認できない剣を構えた。


「ほぅ。面白いね。それは王国の宝具かい?」


「知る必要はない。貴様はここで死ぬ」


 ガウリ様の魔装の能力は聞いてないけど、見た感じのままの戦い方なのかしら?

 ガウリ様とアースの剣が交差するがガウリ様の剣がすり抜けた。

 だが斬り付けられる瞬間、体をひねることで攻撃をかわした。


「なるほど、実態を自在に幻覚に変える剣かい」


「どうだかな!」


 ガウリ様の剣が次はすり抜けなくなった。

 アースは一回立ち会うだけで能力を看破して、それに対応できるのね。

 流石に経験が違うわ。


「こっちも忘れるなよ!」


「忘れてないよ!」


 グレンの蹴りは、アースがしゃがむことで空中を蹴る。

 だけどすかさずグレンは足をそのまま振り落とした。


「対応力はいい。だが、対人戦はまだまだだねぇ」


「そりゃあまだわかんねぇぞ!」


「グレン合わせろ!」


 グレンが殴り掛かり、ガウリ様が剣を薙ぎ払う。

 アースはグレンの拳を受け止めるが、手が発火し始めた。


「へぇ、それはそういう能力かい」


「気づいてもおせぇよ!」


「どうかね?」


 グレンはそのまま蹴りの動作に入るが、その足をガウリ様の剣に当てて爆発を起こした。

 だけどこの爆発はチャンス。


「なるほど、ホーネットとハクビシンで隙をつける状況だね」


「え!?」


「あんたの攻撃はワンパターンだよ。覚えておきな」


 私が攻撃を仕掛ける前に、目の前に迫られて顎を蹴り上げられた。

 もし剣ならこれで終わってた。


「魔装を看破され、その対応も完璧かよ。俺はともかくガウリのはそんなすぐに看破できるようなのじゃねぇだろ」


「これは経験測だね。あっしはあんたらより70年以上長く戦場にいるからねぇ!」


「ふん。所詮ただの老兵だ。惑わせ、世界の根幹よ」


「幻惑魔法じゃあっしは止められないよ!」


 大丈夫、これは幻惑魔法ミラージュ。

 相手の動きを鈍らせる魔法。

 しかし、アースの動きが鈍る様子はない。


「全部避けたのか!?」


「魔導国家と言っても呪法使いがいないんじゃ、あっしの敵じゃないよ!まずは一人だ」


「猛る雷よ駆け巡り踊れ!」


 ハクビシンの魔法を詠唱。

 ラフィール様の言う通りだわ。

 詠唱をすることで魔力の操作は容易になる。

 流石に知ってる軌道じゃないから、アースも攻撃をやめて回避した。


「へぇ、無詠唱魔法は判断さえ出来れば容易だったのに、ちょっとは成長してるってわけだ」


「そうよ?そして、猛る雷よ駆け巡り踊れ」


 ハクビシンの魔法詠唱を口ずさみ、ホーネットを放った。

 右手で字を書きながら、左手で計算式を解くようなものだけど、出来ないことはない。

 ホーネットはなるべく両手で放っていることを見られないために手を後ろにして放った。


「流石に今度は問題ないよ、驚いただけだからね」


「舐めないで!」


 ハクビシンを綺麗に避けたアースだったが、ホーネットは追尾機能付き。

 アースの背中をホーネットが襲い掛かった。


「がっ!?」


 魔力操作がほぼ必要ないこの魔法だからこれが出来るのよ!

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