第32話
ゴッドサウスの国王は闘う王様と言われてる。
陛下も闘う女帝と呼ばれてたし、だからこそ王国と帝国は戦争をしてたのよね。
「久しぶりだなルルシア。と言っても会話するのは初めてか!ハッハッハッ!余はゴッドサウス王国の国王であるテマエニオ・フォン・ゴッドサウスだ!」
テマエニオ陛下はがっしりと私の手を掴む。
ゴツゴツとした手で、魔法以外の熟練度も感じられる分厚い皮膚の手。
留学してた時は、最初の謁見以降はほとんどオリバー様経由でやり取りをしてたから、話をした回数はほとんどない。
それでも少しは話したと思ったけど忘れてるのかしら?
でも色々な人と会ってるし国王だものね。
「お久しぶりでございますテマエニオ陛下。改めまして、ルルシア・・・です」
ランダール家から出た私は、ランダールを名乗るのもどうなのだろうか?
それに貴族でもないからフォンをつけるのもおかしな話ね。
「ん?どうしたのだ?」
「陛下に会って緊張してるのですよ」
私が少し戸惑ったことでテマエニオ陛下を困惑させてしまった。
グレンフォローありがと。
後でお礼を言おう。
「おぉ、グレンくんか!少し見ない間に男らしくなったではないか!」
そっか、グレンはオリバー様の幼馴染。
当然オリバー様の父君のテマエリオ陛下に気を使わせてしまった。
「陛下こそ、年齢に違わず覇気が凄まじいです」
「そうか?余も若い者に言われると自信が出るな」
大きく頷くテマエニオ陛下。
確かに威圧感はリリノアール陛下以上かもしれない。
それだけの経験を積んできたのね。
「おいルル」
「え、なに?」
テマエニオ陛下との挨拶を終えて一歩下がると、グレンが私に声をかけてきた。
やっぱさっきの対応はまずかったわよね。
「いやなんとなく予想だが、ランダールの苗字を名乗りたくないのかと思って」
「え?」
どう名乗るか困惑してしまっただけなのだけど、ランダール家に対して私はなんの関心も持ってないし。
「今度からルルシア・イガラシって名乗れ」
「え、でも」
それだと私がイガラシ家の人間だと思われてしまうじゃない。
マシバ様にも申し訳ないわ。
「親父はあー言ったが、ルルにやってもらう為の仕事は用意してあるんだ」
「そうなの?」
「あぁ、だからルルはイガラシ家の一員と言ってもいい。それに俺もルルと同じ姓を名乗れるのは嬉しいしな」
そっか!グレンは私を家族のように思ってくれてたんだ。
家族と言うものを肌で実感したことのない私は、それだけでもとても嬉しい。
「ありがとうグレン!これからはイガラシの名前借りるわね」
「お、おう!」
「グレンと家族かー、だったら私はお姉ちゃんかしら?それとも妹?」
「あ、え?」
グレンの方がしっかりしてるところもあるのよね。
だから私が姉でも妹でも違和感はないわね。
「あー、うん。そうだよな」
「なんでグレン落ち込んでるの?」
「夫婦漫才はその辺にしろ。陛下が今回の遠征部隊全員に挨拶を交わした。帝国はもう共和国内の領地に足を踏み入れているんだぞ」
ガウリ様の言葉で私達は気を引き締める。
そうだ、私達がこの共和国に入国するよりも早く帝国の聖騎士部隊と剣婦、そしてゴールドマリーさんは不法入国を果たしてる。
共和国の国家党首様は、迎え撃つ為の人員を集めてくれているそう。
「皆には先に伝えているが、陛下もいるから改めて今回の作戦を言うぞ」
ミハイル様が作戦の指揮を任されている。
私達遠征メンバーにはあらかじめ作戦が通達されているけど、資料を渡されたわけじゃないわ。
支配の能力で、敵に寝返った時の対策ね。
「第三師団長が幻惑魔法で正面に師団長の幻惑体を展開する。その間に我々は横から帝国がいると思われる地域に突撃する」
ガウリ様は囮の役割ね。
これは聖騎士部隊を誘き出し、一番強力な剣婦と師団長の3人が対峙しやすくする為。
「遠征隊の全員は聖騎士部隊と戦闘をしてもらう。指揮権はガウリに渡す。そしてこちらには陛下も残す。くれぐれも陛下の手を煩わせないように」
こちらは約2万人に対して、向こうの戦力はたったの100人。
一人に対して二百人の過剰戦力と言っても良い。
だけど相手はテリー家の聖騎士部隊。
全員が聖騎士の力を使えると見て良いわ。
しかも相手はこちらを支配、洗脳などを使ってくる可能性もある。
「よし、話してる時間があるとも思えない。我々は先に移動を開始する。ガウリの判断であとは任せるぞ。それでは全員生きてまた会おう」
「じゃーみんながんばってねー」
「ガウリ様、ルルシアちゃん、グレンを頼んだよ」
そういうとミハイル様とラフィール様とヒスイさんはそれぞれの方向へと姿を眩ました。
「いよいよね」
「あぁ。ガウリ、頼んだぜ!」
「言われなくてもわかっている。全てを惑わす虚空の女神。我に姿を貸し出せ」
超級魔法:
気配も再現されていて、多少は戦闘もできる超幻覚を召喚する魔法だってガウリ様は言ってた。
そして幻覚で出来たミハイル様、ラフィール様、ヒスイさんの三名を先頭に、帝国を迎え撃つ準備をしていた。
その矢先だった。
「ぐっ・・・なんだこの威圧感」
「後ろから・・・だわ!」
「俺の魔法が全部消えた・・・」
師団員たちほぼ全員泡を吹いて倒れてる。
第一師団、第二師団、第三師団の師団員は、7000人ずついたのよ!?
嘘でしょ・・・
「ん-、立っていたのは15人か。流石だねぇ」
「テマエニオ・・・陛下?」
「ほぅ、幻惑のガウリは大したもんだが、流石はルルシアとグレンと言ったところだねぇ」
この感じはテマエニオ陛下じゃない。
一体誰?
まさか!?
「あっしだよ」
国王陛下の顔が、見覚えのある顔に変わる。
彼女は、陛下の護衛の老婆。
「リリノアールの専属護衛、アース・モディウス!」
「覚えてくれてて嬉しいねぇ!」
作戦開始早々の近衛のの乱入。
そして圧倒的数の優位も数えるほどにまで減少した。
帝国ではアースなんて平民の女性には普通に付けられる一般的な名前だ。
あの時アースの名前を聞いてもしかしたらと思ったけど・・・剣婦なんて陛下も言ってなかったから違うと判断してた。
聞いておくんだった!
帝国最強騎士である騎士団長のフォッカーさんの師が相手なんて!
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