第31話

 ヒカラム共和国連邦は、近隣諸国の中で国力が最も高い国だった。

 軍事力は魔導国家のゴッドサウス王国に劣るものの、経済力は群を抜いて群を抜いて高かった。


「国王テマエニオ。わざわざ遠路はるばるご足労なって申し訳ないが、王国と同盟を結ぶのは帝国やイハママを刺激しかねない」


「余もわかっている。しかしだな。帝国がこのまま手を拱いてるはずがないだろう」


 共和国の国家党首であるカルロスは、ゴッドサウス王国のテマエニオ国王は旧知の中であり、カイマクという小さな国の元王子だった。

 マクホンという小国と合併して民主国家になったが、研鑽を重ねて国家の代表にまで登りつめた。


「我が国は魔法や剣術の差別のない国作りをしているんだ。魔導国家のゴッドサウスと組んだら、国の均衡が崩れかねない」


「そんなことは重々承知だ!ゴッドサウスは魔法が使えないからと差別する人間は多くはない!だが帝国は違うぞ」


 ゲカイガ帝国は剣術こそが至高であり、魔法を使える女性は魔女と呼ばれる。

 男が魔法を使えても何も言われないのは、皇帝と皇子2人が魔法を使える為。

 しかし言われないからと言ってそう見られないわけではなく、3人も例外なく蔑まれていた。

 その為、帝国が共和国に侵攻してきた場合、軍事的国力は帝国にも劣る共和国の自衛軍は瞬く間に蹂躙されてしまう。

 それをなるべくなら避けるために、王国と同盟を結び簡単に手を出させないようにとテマエニオは考えた。


「わかってる。だが我が国の理念に反するのだ。それが無駄なことはわかってる!しかし人間はそんな簡単なものではないだろう?」


「ならせめて軍事力をあげろ。この国は金があり軍事力は大してない。鴨がネギ背負ってるようなものだ」


「そんな東の国のことわざを持ち出して。これ以上の軍事力を整備すれば争いの種になる。それに後ろめたい気持ちもあるんだ」


「戦争は守るより攻める方が楽なんだ。余は、俺はお前を失いたくない!わかってくれ」


 これはテマエニオの私情を挟む部分も多かった。

 何故なら、この同盟に関していうと王国にはほとんどメリットがない。

 自給自足も可能な王国が、経済力以外劣る国とは本来なら同盟ではなく属国の交渉をする。

 しかしテマエニオとカルロスの関係から、対等な同盟を提案している。

 これだけ国王の勝手が許されるのも人望あってのことだった。

 王妃や王女の我儘が処罰されないのも同じ理由である。


「悔しいがお前のいう通りだ」


「だろう?なら!」


「我が国は王国に返せるものがない。それにこの国には冒険者という独立組織もある。すぐに押しつぶされることはないだろうさ」


 冒険者とは文字通り冒険を生業とする人達のことを指す。

 ギルドで依頼を貰い、近隣諸国やもっと遥か遠くまでを旅する組織。

 冒険者ギルドは世界各地に点在しており、国はギルドの土地を提供する代わりに有事の際には国を守る。

 色々なタイプが存在しており、所属は100万人を超えるとも言われていた。


「奴等は戦力にはなるが、信用できるのか?」


「魔術師や剣士と言った、様々な猛者がいる。帝国が攻めてきても問題はないはず」


「党首様、ゴッドサウス王様!会談中に失礼します!」


 扉を勢いよく開け、近衛の騎士が部屋へと入ってくる。

 この会談は2人しかいないため、咎める理由もなくそのまま近衛は言葉を続けた。


「ゲカイガ帝国の聖騎士部隊100名並びに老兵アース、聖女ゴールドマリーが我が領地へと無断で足を踏み入れて来ました!」


「不法入国だと!?」


「言わんこっちゃない」


 聖騎士部隊やアースは王国と帝国の戦争中もテマエニオも苦い思いをしたのを記憶している。

 当時はまだ王太子だったが、兄弟3人で出征し2人の弟を失った。

 2人の命を紡いだのはアースと聖騎士マリク。

 

「我が弟オラジンの仇アース!オヴィッドの仇のマリクは討ち取られたが、当代の聖騎士は息子のユーリか」


「まさか仇討ちをする気かテマエニオ!?」


「オラジンは婚約者は頭だけで見つかった。逃げきれた者からの情報からしても、アースが殺したのは間違いない。余が、いや我が国があいつを討たねばオラジンも眠れない!」


 国王は自分の立場を理解しているため出陣するのは抑え席についた。

 今にでも飛び出したいが、数的にも無謀だとわかっていた。


「すぐにでも出陣するかと思ったぞ」


「オリバーがこのことを把握してないはずはない。まず間違いなく援軍は来る」


「随分と信頼を寄せているものだ」


「我が息子は余とは違い天才だ。今にでも王の座を譲れるほどには」


 テマエニオは家族に甘いが、それでも王妃に実験を渡すような事はしない。

 客観的に人を見る目に長けていた。


「オリバーくん、久々に会いたいものだ」


「会わせてやるさ。それよりもだ。同盟の話は置いておこう。共同戦線と行こうじゃないか」


 テマエニオはカルロスに手を伸ばす。

 カルロスはその幼馴染の手を笑いながら握った。


「全く、俺はお前のそういうところが苦手なんだ」


「いつも明るいところか?」


「能天気なところだ。君、冒険者ギルドに連絡しろ。敵は帝国だ。王国の人間と共にこの窮地を潜り抜けるぞ」


 二人の国のトップが立ち上がる。

 かつて共に学び、そして一度は袂を分かった男達。

 それが再び手を取り合い共通の敵を穿つ。

 そして帝国と王国との戦果の狼煙が再び幕を挙げようとしていた。

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