第30話

 馬車を走らせて魔物を倒しながら共和国へと足を運ぶ。

 それにしても魔物が多いわねこの道。


「俺達には魔法があるから馬車の速度は落ちないがこれは多くねぇか?」


「帝国にもこれだけの魔物が出てくる地域を通ることはなかったわ」


「それはそうだろうな。ここは魔の森だ。王国と帝国と共和国の領地を覆う不可侵領域だからな」


 馬車には戦闘にミハイル様と師団長三人とグレンと私の六人で編成を組んでいて、魔力量の多く雷魔法使いの私とラフィール様で魔物の処理を行っている。


「ボクつかれたー」


「ラフィール様は休んでて良いですよ。このレベルなら私だけでも大丈夫です」


「ほんと!?やったー」


「ルルシアの負担を増やすなバカモノ」


 ミハイル様にげんこつを受けるラフィール様はまるで親子のようね。

 ラフィール様の魔力操作はすごかったわ。

 私と同じハクビシンをとっても、私が魔物を5体倒す中でラフィール様は20体を倒している。

 魔力の出力は私のが多いのに。


「ルルシアの魔法は独学?」


「皇帝陛下に幼少期に基礎だけ学んで後は独学です」


「そーなんだ。ルルシアの魔法は出力は高いけど、まだまだ原石だね」


「原石?」


 確かに私はラフィール様に比べるとまだまだ弱い。

 ラフィール様のハクビシンは本当にハクビシンが空中を駆け回るような魔法だった。

 私もそんな操作をしてみたい。

 せっかくラフィール様という、私よりも格上の魔法使いが居るのだから、教えを請いたい。


「魔法の出力を抑えることで操作を容易くする方法を教えてくれませんか?」


「君にはそう見えるー?魔力量を見たらそう見えるよねー。でもそうだなー、雷鳴よ」


 ハクビシンの魔法を横から出てきたコボルトに放った。

 これはさっきより魔法の出力が高い。

 しかもさっきは短略してなかったのに、今は短略してる

 でも、コボルトを貫いたらそのまままっすぐに色々な木をなぎ倒していってしまった。


「それでこれが、猛る雷よ駆け巡り踊れ」


 さっきと同じ魔法詠唱。

 今度は遠くに居る魔物にまたハクビシンを放った。

 すごい。

 さっきと同じ様にまるでホーネットみたく追尾するかのように魔物を何体も巻き込んで進んでいく。


「魔法の詠唱を長くすると、それだけ魔力操作は簡単になるんだよ」


「知りませんでした。無詠唱であれば相手に魔法を察知させない手だと思ってましたが」


「それは対人の魔法の基本だよー。ボクも対人戦では無詠唱だからね」


 確かに知性のある魔物でもなければ、無詠唱である必要はないんだ。


「まぁボクは君ほどの魔力内包量が多くないから、無詠唱を連発できないってのもあるんだけどね」


「え、でも雷魔法の使い手は魔力が多い人がなるんですよね?」


「雷魔法はコスパが悪いからね。いくら魔力量が多くても精々普通に使用する無詠唱魔法は10発が限度じゃないかな?」


 私の魔力量が多いのは自覚があるけど、それほどとは思っていなかった。

 数値化出来ればどれだけ多いかわかるのだけど。


「雷魔法を防ぐこと自体中々起きないからね。それでも問題ないんだよねー。それに魔力操作を極めれば・・・」


 今度は無詠唱でハクビシンを放った。

 さっきより見た目は小さい雷で、出力もかなり抑えられてる。

 つまり魔力量が減ったんだ。

 にも関わらず、寧ろさっきより鋭くなって魔物達の肉体を貫通していった。


「すごい」


「魔力出力を抑えても魔法の威力を落とさずに魔法を使えるんだよ」


 でもこれは高度すぎる技ね。

 魔力の出力を抑えながら威力を保つ練習をしても、その領域にたどり着けるとは思えない。

 それこそ、ラフィール様の年齢でその域に達することが出来る人間が居るかどうかもわからない。

 なるほど、だから若人なのね。

 まるで仙人の様な魔法技量を持ちながら、この幼い見た目をしているのは。

 

「ラフィールさん、俺にも魔力操作教えてくれよ」


「グレンは爆炎魔法使いなんでしょー?ミハイルに教えて貰いなよ」


「元帥って爆炎魔法使いだったんですか?母さんの弟子だって聞いてたから風魔法使いかと思ってました」


「私は風魔法の扱いが余り上手くありませんでしたからね。それよりも驚きました。グレン殿は師匠と同じ風魔法使いだと思ってました」


 ヒスイさんの風魔法はすごかった。

 空を駆ける魔法使いと言って遜色ないほどの風魔法の操作能力。

 でも風魔法は本来扱いが難しくて、支援をするのがメインになるケースのが多かったわ。


「あー、爆炎魔法ってのは本来応用が効きにくいのに、あんたら爆炎魔法の使い方が適格すぎたから教えちまったんだ」


「あ?俺はそんなに特殊な魔法使えねぇぞ」


「確かにあんたは粗削りだが、対処するときの魔法の選択センスは優秀なんだよ。ミハイルも同じさ。ミハイル、アトミックプロミネンス見せてやりな」


「超級魔法!?」


 超級魔法アトミックプロミネンスは、全てを光で包み込むグノーシスプラトンとは違い全てを焼き尽くす。

 余りにも広範囲過ぎて太陽の一撃とまで呼ばれていたわね。

 ミハイル様も超級魔法を使えたのね。

 元帥だもの、それくらい当然よね。


「アトミックプロミネンスは森が焼けてしまいますし、帝国に見られたらどうするんですか」


「そこはあんた、調整するんだよ」


「はぁ、じゃあ威力を落としたプロトンで魔力操作を実演しますよ」


 ヒスイさんもかなり無茶言うわね。

 爆炎魔法の魔力操作ってかなり難しかったと思うのに。

 しかもプロトンも上級魔法だった気がするわ。


「天空から見下ろす焔よ、下界に顕現せよ」


 そういうと前方の道が焼け野原になった。

 平らな道になって歩きやすくもなった。

 それにこれはすごいわ。


「すげぇ!木に一切引火してない、どうなってんだ!?」


「魔力を操作した素振りは見えなかったわ。これが爆炎魔法の魔力操作?」


「魔力操作と言うより、魔力の属性に少しだけ水属性を混ぜたんだ。そうすることで引火を防ぐことができる」


「そんなことできるの!?あ、ごめんなさい」


 私は思わず声に出してしまい、失礼な言葉を放ってしまった。

 でも本当にすごい。

 火と水は相殺し合う魔力属性だし、そもそも爆炎魔法に別の魔力属性を混ぜるなんて聞いたことがなかった。


「ここは身内しかいないようなものだ、気にするな。魔法とは工夫でどんな形にも変わる。魔力操作を極めれば他にも色々なことが出来るぞ」


「ミハイルはこうしたことができちまう。だからあたしの魔法をわざわざ教えなくてもそのうち覚えそうだし、風魔法は大して教えてないのさ」


「その代わり、師匠には何度も殺されかけました・・・」


「いいだろ、死んでないんだから」


 ヒスイさんの無茶な修行はグレンも遠い目をして話してたから、なんとなく想像が付くわね。

 今はグレンがミハイル様に同情的な目を向けていた。

 それから共和国に着くまで私とグレンは、ラフィール様とミハイル様に魔法の教えを請う。


「俺だけ空気過ぎないか・・・?」


 ガウリ様の声に誰も気づくことなく、馬車は目的地の共和国へとたどり着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る