第28話
ガムを噛んでいた青年はオリバー様に噛みついた。
「俺達は何年もこの隊でやってきました!それをどこぞの若造に立場を取られれば面白くはない!」
「ふーん、言いたいことはそれだけ?」
「あ、これはあかんな」
グレンがそう言うと、ガムを食べてた彼を蹴り飛ばすオリバー様。
私は意外に見えたけど、グレンはそうじゃなかったんだ。
「オリバーは、基本的に優秀な人間が居たとしても年功序列で出世させるんだよ」
「まぁなんだかんだ言いながらも、臣下や民に甘い人だものね」
「だが、足を引っ張る奴は例え優秀でも嫌いなんだ。今のように」
扱いが酷くなるってことね。
魔道士だから肉体的なダメージに対応出来ず、顔が傷だらけになってる。
流石に治癒魔法は使えるだろうから、すぐに治療するとは思うけど。
「秩序を乱すそう言うとこが、君達を出世させたくない理由だよ」
「いっ・・・ひっ!?」
オリバー様は私も見たことないような冷たい目をしている。
そっか、オリバー様も王族だものね。
取捨選択する場面だって生まれる。
そういう教育はされてはいるわよね。
「どうした?今なら不敬にはしない。許す、思ってることを口にしろ」
「あ、いえ、あの・・・」
「うーんそうだなぁ。”許す 口にせよ 汝の考えを”」
これは魔法?
いや、オリバー様から魔法を使ったときの魔力反応がない。
逆にガムを食べていた男の方に魔力反応が起きてる。
「これ、なに?」
「これは呪法だな。王族は呪法を喰らわないために、呪法を覚えるんだ」
「初めて見た・・・」
魔法の一つとして存在するのは知識として知っていた。
でも実際に使ってるのは見たことない。
「呪法には色々あるが、そのほとんどが人道的じゃない。今オリバーが使った呪法は自白の呪法だ。隠し事をしていても無意識に話してしまうんだ」
「自白剤とどう違うの?」
「自白剤は嘘を吐くための集中力を削ぐ成分が入ってる。だから薬物を討たれても集中出来る奴には効果が薄い場合もあるし、嘘を吐けなくなるだけだ。見てろ、今呪法の恐ろしさを知る事になる」
グレンが指を差した。
オリバー様はガムを食べていた男の胸ぐらを掴む。
「許可する。お前が私に対して後ろめたいと思うこと、隠したいと思って居ることを全て吐け」
「は、はい。俺はブルーノが1番年上であるため出世すると思って居ました。しかし選ばれたのは貴族の若造、しかも聞けば今年まで学生の身の人間と言うではありませんか」
ペラペラと喋り始めた。
でも男は必死で口を押せようと手をばたつかせるが、口を遮る行為を行うギリギリのところで手が止まっている。
そもそもオリバー殿下が指定した部分全てを話すことになるなら隠し事なんて出来ない。
「そんな青い顔するなよ。呪術って言うのはそんなに簡単じゃない」
「どういうこと?」
「呪法を行使するのは時間がかかるんだ。あいつはまるで今やったように見せたが、本来は自白の呪法は10時間かけて魔力を操作できるように身体に馴染ませる必要があるんだ」
そんなに使い勝手が悪いんだ。
確かにそれだけ時間をかけるなら、滅多に使われないわね。
10時間なんて、それこそ捕虜相手にしかできないでしょうし。
「その分強力な魔法が多いけどな。それこそ人格や記憶を変えてしまう呪法だって存在してるんだ」
「うっ、それは恐ろしいわね」
「恐ろしいのはそれだけじゃないな。これは相手に魔力さえあれば自分の魔力はいらないし、万が一呪法にかかれば解除する際に、廃人になる可能性だってあるんだ」
「魔力が無くても使える!?」
もしそれが本当なら、かなりの大がかりになるじゃない。
魔力を馴染ませる行為は、ほぼゼロ距離で行う必要があるからそれさえ気を付けてればかからないとは言え、貴族に対して世話係が手を触れればそれだけで呪法を成立することも出来るって事でしょ。
私は恐ろしくて腕をさすって閉まった。
「まぁ、今回はあの男にスパイ容疑がかかってたからな。さっき髪を整えていた男居ただろ?あれはガウリの魔法を使ったオリバーの変装だ」
「え、全然気づかなかった」
ガウリ様の幻惑魔法もかなり強力ね。
それこそ諜報活動においてかなり重宝される魔法じゃない。
幻惑魔法はかなり難しくて、専属で師匠を付けないと修得は難しいって言うけど。
グレンとそう話してる間に、オリバー様は彼から全てを聞き出したみたいだ。
「なるほど。要するに貴様は、ガキが師団長になるのが気にくわないからと、ガソ商国に師団の時に知った情報を売ったと」
「はい。ふへへ、あんたらが悪いんだ!これで王国も終わりだぁあああ」
「売国奴か。これだから頭の悪い奴は困る」
そう言うと無造作にガムの男を放り投げた。
ガソ商国について余り詳しくないけど、貿易のほとんどがガソ商国からの輸入で賄っていると言う国だ。
もしガソ商国に王国軍の情報が流れたとしたら、かなり最悪の状況になっていただろう。
でもそれは大丈夫なんじゃないかしら?
「お前みたいなゴミが居ても困るからな。機密情報を渡すときは契約魔法で口外しないようにしてるんだ」
「へ?」
「だから、お前程度の情報じゃ王国は崩れん。しかし売国した事実はある。処罰は負って伝える。連れて行け」
そういうと宮殿から甲冑を纏った兵士達がゾロゾロと出てきてガムの彼を連れていってしまった。
流石に下っ端に渡る情報くらいじゃ王国は傾いたりはしないよね。
「悪いな稲妻、グレン。そこの一部の第三師団のメンバーは連れて行かないから安心してくれ」
「よかった」
「これのためのデモンストレーションか。敵を騙すならまず味方からってとこか?」
「そういうことだ。さぁ、こっちだ。ヒスイ達は準備出来てるはずだから」
そう言われて、今度こそ遠征の準備をしている詰所に案内された。
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