第27話
ここは宮殿だ。
宮殿のはずだ。
しかしこの光景がそれを否定している。
「グレン、これは思った以上よ。聞いてたより酷いわ」
「あぁ・・・正直俺も驚いてるよ」
ガムをくちゃくちゃと噛んでる兵士だったり、鏡を見ながら髪を整えてたり爪をヤスリで削っていたりしてる兵士がいた。
全員第三師団の団員だそうだ。
流石に酷い。
こんなの、師団じゃなくても許されないでしょ。
公の場でするような行動じゃ無いわよ。
「おいお前ら、俺はそんなコトして良い許可はしてないぞ」
「でもダメとも言われてませーん!」
金髪だったが、つむじ付近が茶髪になっている女性がそう言った。
唯一の女性だけど、すんごい太ってるし肌も汚い。
爪を整えてたのか知らないけど、ほとんど形が正方形に近い丸になってるわよ。
爪もネイルじゃ無くてマニキュアで、ちょっと素の爪が所々に見えてる。
それに髪を染めるのはいいけど、せめてちゃんとしなさいよ。
プリンみたいだわ。
「てめぇら・・・」
「あぁ?やる気か大将。てめぇは攻撃魔法が使えねぇのに、俺らをどうにか出来ると思ってんのかぁ!あぁ!?」
ガラ悪!
何処のチンピラよ。
みんな着崩してるからか、なんか危なそうな雰囲気出てるわ。
というか、グレンがガウリ様の手伝いをしている時点で気づくべきだった。
ガウリ様以外まともな団員がいないって事に。
「バカはこれだから困る。宮殿での魔法の使用は有事を除けば禁止だ。そんなこともわからず入隊したのか?」
「あんだと!?年下の分際で舐めやがって!空気中に眠っている焔よ、我の声に応じたまえ、示したまえ、我は人間なり、力を貸したまえ」
この詠唱はガンマ?
嘘でしょ?
無詠唱が出来ないのはともかく、詠唱短縮も出来ないの?
「やっちまぇブルーノ!」
「流石、ブルーノ!私達の中で最強の魔法を喰らえバカ貴族ぅ!」
どうやら、ブルーノと呼ばれた男が1番優秀なのは間違いないようね。
つまり、第三師団は詠唱の短縮が出来ない連中の集まり。
鬱憤が溜まって喧嘩になったエピソードを聞いたけど、こいつらが悪い可能性も出てきたわね。
「はぁ・・・」
ガウリ様はため息を吐きながら、指を鳴らして魔法を打ち消す。
こんなの防ぐまでも無いわ。
詠唱の指を鳴らすだけでも介入させできれば魔法を放つことはできない。
「な!?馬鹿な!?俺様のガンマがぁ!?」
「あぁブルーノ!」
「まずいぞ!」
「お前、これで何回目だ俺に詠唱の邪魔されるの。バカなの?」
え、防がれるとわかってるのに驚いてたの?
てっきり今までやって来なかったけど、遂に手を出したのかと思った。
「若造が舐めるなよ!」
そう言うとブルーノは拳を振り下ろした。
ガウリ様にそれは悪手でしょ。
「はぁ・・・流石に今日のは感化出来ない。俺も反撃をするから覚悟しろ?」
「ほざくなぁ!ぐふぉぉおお」
そりゃ、マリアの攻撃を受け続けてるガウリ様が、あんなへなちょこパンチを見きれないわけない。
ガウリ様はブルーノを蹴飛ばして、自由落下の末転がり続けて門でその勢いが止まった。
第三師団のメンバーは全員顔を青くしていた。
「え、嘘?団長ってそんなに強かったの?」
「あのブルーノの巨体を吹き飛ばすなんて」
ガウリ様一度も反撃してなかったんだ。
身体強化はかなりの精度で使えるし、ほとんどの魔法は優秀よ。
中等部までの情報しか私にはないけど、私、オリバー様、グレンに続いて四番目の成績で卒業したんだから。
そう言えばマリアは中等部で見かけなかったけど、何してたのかしら?
「マリアの蹴りのがキレがあったな。さて、次に折檻したいのは誰だ?どうせだから全員これを機に指導してやろうと思うがどうする?」
全員が大きく首を横に振った。
流石にこの質は学生時代までにして欲しいわね。
「ブルーノは今回の同行は遠慮してもらおう」
「なんでよ!?あ、いやな・・・なんでですか?」
あら、唯一の女性のあの子、プリンちゃんって名付けよう。
プリンちゃんが食いつくって事はブルーノの恋人か何かかしら?
まぁだとしてもこれは覆らないだろうけど。
「年下だろうが年上だろうが、実力があろうがなかろうが、上の者をたてれない人間は組織と言う枠組においては害悪でしかない。今こいつが他の奴をたてれるとは思えない。ミハイル様やラフィール様よりも年上だしな」
まぁ見た目的にそんな気がした。
と言うか全員、ミハイル様達と同世代のように見えるわね。
「アハハ、派手にやったねー」
「オリバー様、団員が見苦しいところを」
オリバー様がそう言いながら笑ってこちらに近づいて来た。
流石に団員達もオリバー様には頭を下げるのね。
「いいよ。僕が同行を許可したんだ。グレンや稲妻も介入してもよかったのに」
「ガウリに手を出すなって言われてたかんなぁ」
「どうにかなる様には見えませんでしたので」
これは紛れも無く本心だった。
ガウリ様が一人で対処出来ないレベルなら介入したかもしれないけど、流石にこの程度ならガウリ様をどうこう出来るようには見えなかった。
それと同時に同行者になって欲しくはないとも思ったけど。
「はっきり言うねぇ稲妻。まぁ第三師団は前任が余りにも酷かったからね。去年まで、平民の採用もガバガバの世代の奴らが入ってるだけだから幻惑をどうにか出来る訳無いよね」
「俺は栄光ある師団長に選ばれたと思って嬉しかったんですよ。それなのにこれはあんまりですね」
「いやー、同世代で気の抜けない仲だからさぁ。グレンと稲妻が帝国に行ったときも、君とほとんど行動をともにしていただろ?」
そうなんだ。
ガウリ様が実質側近みたいな行動をしていた。
だから師団長という立場をもらったのかな?
まぁ貧乏くじなのは間違いないけど。
「それで?今回は評価最悪な君達に最期のチャンスを与えようと思ってきたんだけど、流石にこの態度は目に余るなぁ。取りあえずブルーノくんはクビだから」
ブルーノはピクリとも動かない。
気を失ってるんだろう。
これがもし戦場なら命取りだ。
「そんな!?」
「そこの君、今は僕が話してるんだ。口を開いて良いとは言っていない。君もクビだ」
「も、申し訳ございません!ですがクビだけはどうか」
プリンちゃんは勢いよく頭を下げるが、また口を挟んだことに気づいていないだろう。
咄嗟のことで思わず放ってしまったんだろうが、クビを宣告されても書類を提出するときに弁明の機会があるのに。
「不敬で本当に首を斬っても良いんだよ?」
「・・・何故です!」
また一人が立ち上がった。
ガムを噛んでいた青年だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます