第25話
オリバーに残され、宮殿の作戦会議室にヒスイ、ミハイル、ラフィールに場所を移して、作戦概要と敵である帝国の情報を共有していた。
「支配の剣婦はあのアース・モディウスか。私とラフィールは初めて対峙するな。ヒスイ殿はどうなんですか?」
爵位も立場も上のミハイルは、普段はヒスイに対しても上司としての対応をする。
しかしミハイルの魔法のいろはを教えたのはヒスイであり、師匠といえる存在だった。
その為、こうした公じゃない場所では敬意を忘れない。
「あたしがまだ若い頃に何度かあるね。あの老婆、支配の能力を使えるとは思わなかったわ。でも言われてみると、兵士の士気が落ちてた気がするわね」
ヒスイは貴族令嬢時代に魔法を習得し、16の時点で戦場を駆け巡り戦いを繰り広げていた。
当時はまだ王国と帝国が戦争状態にあり、ヒスイもその戦場で戦果を挙げている。
休暇中にマシバと男女の関係になり、18の時にグレンを懐妊したことで戦場を離れた。
それまでに何度もアースとヒスイは戦場で剣と魔法を交えていた。
「正直、アース自体は大した力はないと思うよ」
「そうなのですか?」
「あいつは帝国貴族じゃないからね。剣術は普通の物しか使えなかったよ」
「帝国貴族はその家に準じて特殊な剣術を持つと聞いておりましたが、やはりそれを平民と共有するということはないのですね」
「あぁ、剣婦が全員貴族だと思っていたが、選ばれる基準は人それぞれのようだな」
剣術と王国の国宝装備の組み合わせが最悪だったディーラは、ここにいる四人も非常に厄介と感じていた。
前情報をルルシアが持っていた上で、グレンの観察力の組み合わせで奇跡的に勝利した。
しかし最終的には拘束も解かれてる上に、首を刎ねても再生していた可能性のある癒しの装備だった。
自爆していなければルルシアとグレンとグンジョーは死んでいた可能性が非常に高かった。
「ん-、この魔装もそういった特性を引き継いだってことかな?」
「そうとも限らないだろう。もしその基準なら私とお前が魔装を起動できるのはおかしいことになる」
「そういえば、王国の国宝は女性しか起動できないんだもんね」
「女性にしか適合者がいないだけじゃないかい?」
「「確かに」」
女性しか適合者がいなかったから剣婦と呼ばれているだけで、男に適合者がいる可能性もゼロではなかった。
「流石はヒスイだ。グレン達が回収した
「なるほどねぇ。それで殿下、その国宝に必要なものは判明しているのですか?」
「いや、それはわかってないよ。必要な物が肉体のどこで生成してるかは判明してるけどね」
そういうと、オリバーは胸に手を当てる。
「魔力は心臓で形成されて、血管を通して全身を駆け巡る。そして体内の魔力を言葉や脳波で反応させることで、魔法を発動できるのは知ってるよね?」
全員オリバーの言葉に頷く。
魔法は詠唱及び無詠唱の魔法の発動方法がある。
心臓が魔力源で血液が循環の役割をしていた。
魔法陣を使う付与魔法、精霊を介する精霊魔法、他者の内部を特殊な魔力操作で発動する呪法と言って様々な魔法の発動方法が開発されていたが、通常の魔法はこの二つの発動方法だった。
「しかし王国国宝装備は、心臓で形成されていなく、血液でも循環されていない」
「ではどこで形成されてるのですか?」
そういうとオリバーは胸に当てた手を頭にもっていく。
「頭で生成されている物だということはわかった。これは僕の仮説だが、脳は電子信号で体を動かしてるから、その電子信号が起動するための物質を生成していると考えてる」
「それはなんとも抗し難い話です」
「そうかい?魔力の仕組みはある程度解明されてるのに、女神の祝福だと宣う輩がいるんだ。そんなあるかないかわかるものよりも、よっぽど信じられると思うけどね」
それはイハママ神国と呼ばれる、全ての恵みは神のおかげという程の信仰心を持つ民で構成された国だった。
その女神をデタラメと言う発言は戦争にも発展しかねない為、オリバーがどれほど覚悟のあることを言ったのかも3人には通じた。
「殿下、公の場でそのようなことは・・・」
「流石に弁えてるよ。さて、これでこの話が荒唐無稽な話ではないと言うことは理解できたと思う」
そして机を勢いよく叩くと、地図に丸をつけ始める。
まず丸をつけたところは、ヒカラム共和国。
「最優先事項は陛下だ。父にはまだ玉座を退いていただく訳には行かない。才ある君主は、出来るだけ長く就任してもらわねばならない。君達3人とグレンと幻惑と稲妻を付けるんだから過剰戦力だが、万が一があっても困る」
次に丸をつけたところはイハママ神国だった。
「イハママは王国に装備を提供した疑いがある。潜入任務を得意とする部隊の暗闇に頼む」
「ルジフェに頼むのですか。神国を刺激してしまうのでは?」
ルジフェは第十師団の師団長であり諜報部隊として運用される。
暗闇の二つ名を持っているが、性格に少々難がある為、自身の戦法とのダブルミーニングとして名付けられた。
ミハイルの言葉にラフィールは大きく頷くが、オリバーは不敵な笑みを崩さない。
「構わん。事実だった時、王国が亡国になりかねないからな」
「まぁ確かに殿下の言うことは最もだね。あたしもルジフェを潜入させるのは悪いでじゃないと考えるよ」
ミハイルは元帥であるがまだ若輩の為、ヒスイが時よりサポートを行い軌道を修正していた。
ヒスイの考えに間違いがないとは言えないが、ある場合ははっきりと答えを言わない為、ミハイルも二人の意見を受け入れる。
「出過ぎたことを言いました」
「いや、戦術面では君達軍人に、政治面では貴族にサポートを頼みたいと言うのが僕の意見だからね。さて話を戻す」
最後にオリバーが丸をした場所は、3人の予想だにしない場所だった。
「殿下、その国はまさか・・・」
「あぁ、この国は大国だが、マザーコアの人間と婚約破棄を成立させた馬鹿な国だ」
マザーコアとは、国に一人いるだけで国を豊かにする不思議な力を持つ人間のことである。
本来国単位で囲うのが普通だが、迷信と決めつけ愚かにも手放す国もある。
「この国からの亡命してきた者を保護した。愚かなことだが、大国の一角を落とせるまたとないチャンスだ。おそらく帝国はまだ把握できていない事柄。国の防衛を担う第四師団を除いて、全魔導部隊を動員する。忙しくなるぞ」
オリバーがそういうと、三人は胸に手を当て頭を下げた。
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