第24話
ルルシアがゴッドサウス王国で初めての同性の友達ができたと喜んでいた頃、ゲカイガ帝国では、ヒカラム共和国へと軍事侵攻の為の準備をしていた。
「ヒカラムかぁ、カイマクとマクホンという小国が然もありなん、でかい顔をするなんてね」
「アース様、入ってもよろしいでしょうか?」
「構わないよ!こんな老体の裸をどうにかしようなんて趣味の悪い奴はもう死んじまったからね!」
アースと呼ばれた女性の名前はアース・モディウス。
帝国に7人いる剣婦の一人で、支配の国宝である
剣婦の中では最年長の齢90歳で、帝国軍においても最年長だった。
「なんだい?トバル」
「アース様、聖女様と聖騎士様が起こしになりました」
アースは聖女と今代の聖騎士であるカインの父と会ったことがなかった。
元々リリノアール、皇帝の護衛を務めていたこともありアースは、軍に所属していると言っても名ばかりでまともに軍に顔を出してはいなかった。
(今代の聖騎士は、マリクほどの力も技量も持たないとリリノアールは言っていたな。実際データ上でも大した力はなさそうだ。それは聖女も同じだ。いくら無能だからって情報は入れてある)
カインの父親である、ユーリはとても礼節を弁えた貴族を絵にかいたような人物で人望もあった。
しかしそれだけだった。
戦闘能力が抜きん出てるわけでもなく、多くの人を引き付けるわけでもない。
ただまともな思考を持っていたから、横暴な貴族寄り人気なだけであり取るに足らないとアースは把握している。
そして聖女であるゴールドマリーは、堕胎を繰り返したことで妊娠ができない体を作った人間。
聖女が純潔でなければ力を震えないと言われていたが、聖女の力をゴールドマリーが振るってるのを見た情報は度々上がっていて、純潔は関係なかったのは知っている。
しかしそれを知ってなお、浅はかな人間と言わざるを得なかった。
あまりにも常識を知らない女性であり、こちらも取るに足らないと把握していた。
「どこにいる?」
「玄関で待っております」
アースは重い腰をあげて動き出した。
リリノアールに襲撃があることはアハトから事前に知らされていた為、護衛をわざと怠った。
そしてリリノアールが襲撃により幽閉されてから二週間が経ち、それまで一度も屋敷の外に出ていない。
ヒカラム共和国への侵攻も屋敷が近いことにより参戦を命じられており、屋敷を駐屯所にするようにと通達がありそれを容認した。
(あれが当代の聖騎士と聖女・・・ほぉ)
アースは玄関に待つ二人を見て息をのんだ。
一人が放つ殺気がとても尋常じゃなかった。
アースが知る限り、戦場でのリリノアールが一番冷や汗の出る殺気を出していたが、リリノアールでもここまでの殺気を人に向けたことはなかった。
(噂は当てにならないねぇ・・・まさかこの歳になって恐怖を感じようとは思わなんだ)
アースは冷や汗をぬぐい、平静を装って挨拶をする。
「あっしが、アースだ。わざわざご苦労なこったね」
「初めまして、ユーリ・フォン・テリーと申します。父がお世話になりました」
「ゴールドマリーと申します。此度は我々を受け入れていただき誠にありがとうございます」
二人は失礼がないように礼をするが、アースは予想以上に冷や汗が止まらずにいた。
(こいつ、まさかこの状況でも殺気を止める気がないのかい!?)
アースは噂とは本当に当てにならないと思った。
もし敵として目の前に立っていたらと考えると、リリノアール側に付かなくてよかったと心底安心する。
「あ、あぁ。あっしも帝国民だからね。これくらいは当然さ」
「それにしても驚きました。リリノアール様の専属であった貴方がまさか、息子たちのクーデターに協力するなんて」
(白々しいね。でもこちら側についていなかったらどうなっていたかを想像したら、何も言えないね)
近距離に近づくことで殺気が肌にピリピリと痛みを募らせている。
それは年季のあるアースを以てしても敵わないと判断してしまった。
「流石に陛下に恩義は金面以外はないからね。勝ちが濃厚な方が慈悲をくれたんだ。感謝してる」
臆してると判断されたら、それだけで消される。
それだけの危うさがあるとアースは感じていた為、なるべく平静を装って対応した。
(あっしより若いのに恐ろしいもんだ。リリノアールに何も感じてないというと殺気は収まったが、どれだけあいつのことが嫌いなんだ)
「アースさんは、どうしてこちら側に付こうと思ったんですか?」
「こら、失礼だろう!」
そうとは言いつつも、ユーリもそれは疑問に思っていたため目を向ける。
別にリリノアール幽閉以降は、ルルシアの様に亡命の選択もあったからだ。
それなのにも関わらず、帝国に留まる理由が二人は気になった。
「あっしの旦那の墓がここにある。共和国に保護してもらったとしても、帝国とは敵対関係になるだろう。あっしは剣婦だ。帝国がこの指輪を奪い返そうとするに決まってる。少なくともアハトはそうするだろう。だからこちらについた。それじゃダメかい?」
これは紛れもない本心だった。
アースは夫であるマーズを愛しており、死んだときも泣いた。
その時でもリリノアールは、容赦なく出動させられ、埋葬に参道することはできなかった。
普段は仲が良くてもそのことだけは、今でも恨んでおり、ざまぁ見やがれとまで思っていた。
皇帝の命令は絶対であるため、そのことはこの二人にも言わなかった。
「そうですか。何か腑に落ちました。仲良くしてくれるとうれしいです」
「そ、そうかい?」
アースは少しだけ困惑しながら、ゴールドマリーの手を取った
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