第21話

 眼鏡をかけた強面の男性と、少年とも少女とも取れる見た目の子供だった。


「お初にお目にかかる。ミハイル・フォン・ドミニカだ。王国軍最高責任者を務めさせてもらっている。君の噂は妻から聞いている。これから王国軍をよろしく頼む」


 ドミニカ家っていえば、王国でも屈指の軍事力を持つ貴族と言われるドミニカ辺境伯だったわね。

 そんなすごい家の人が、王国軍の最高責任者なのね。

 王国はさすがに層が厚いわ。


「え、ミハイルまだ結婚してないでしょ?婚姻届け出してないのに」


「もう私もジャンヌ来年で30です。婚約期間が16年の人間がどこにいますか」


 29歳ってことは、結構ギリギリじゃないかしら?

 貴族の結婚って大体18歳が一般的だし。

 婚約届が出せない理由があるとか?

 というか待って、私ジャンヌって聞き覚えがあるわ。


「後輩にオルレア・フォン・ダルクーヌっていたわよねグレン」


「あぁ居たな」


「彼のお母さんってジャンヌって名前じゃなかったかしら?」


「そうだな。ジャンヌ・フォン・ダルクーヌだな」


 グレンは遠い目をしてる。

 この反応間違いないわ。

 オルレア様はミハイル様の息子ね。


「確かに君達もう子供もいるしねー。でも君たちの子供僕と二つしか変わらないんだけど、なんか言うことある?」


 オルレア様って三年の時一緒だったから二つ下なのはわかるけど。

 オルレア様が16歳でミハイル様が29歳で年齢差は13・・・まさかーーー


「婚前交渉はご法度なんて知ってますよ!でも私達愛しあってしまった!仕方ないじゃないないですが!ヤリチンの殿下に言われたくありません!」


 この人って見た目頭よさそうなのに、ギャップがすごいわ。

 それも悪い意味で。


「流石に避妊してるからね?それにいくらなんでも13歳で父母になるなんて、君達の婚姻届けを受理できないよう君の御父上が握りつぶしてるみたいだよ。あと君の息子のオルレアに爵位を譲るって」


「くそがあの親父!超級魔法をぶっ放してきてやる!」


 この人なんで元帥になれたんだろう?

 超級魔法って言ってたから、超級魔法が強力とかなのかしら?


「まったく、指揮能力が高くなきゃ元帥に据えないほどのことだよ?それにジャンヌのお腹また大きくなってたし」


「5人目と6人目は双子ですよ殿下!」


 どこの世界に30の時点で6人の子供を持ってる家がいるんだろうか。

 大体3年に一人産まれてる計算じゃないの。

 

「私、この国のトップが性欲魔人なの、本当に危ういと思ってるわ」


「奇遇だな。俺もだ。うちは兄弟いないくらい冷え切ってるのにな」


「ルルシア、あの二人が異常なだけだから勘違いするな。この国の貴族令嬢達も大概お前と同じ考えだ」


 ガウリ様の言葉に少しだけ安心した。

 そういえばグレンって財閥の息子なのに、兄弟がいないなんて珍しいわね。

 でも商人って実力主義だから、子供が優秀じゃなければ継がせなければいいだけだからいいのかしら?

 貴族は基本的に血筋を重視するから、養子の選択はかなり重いものだけど。


「ボクもそう思うー」


「うわっ!?びっくりした」


 私の目の前にちょこんと現れたこの子。

 さっきまでミハイル様の横にいたのに、いつの間に移動したんだろ?


「初めましてルルシアお姉ちゃん。ボクはラフィール。メルクール家の一人息子だよ!」


 かわいい・・・

 まるで子供のように振舞う姿は、母性心を刺激する。

 撫でまわしたい・・・


「よろしくね、ラフィールくん」


「ルル、勘違いするな。このおっさんは飛び級とか無しのミハイル様と同期だぞ」


「え?」


「グレン貴様!ラフィール様に失礼だぞ!」


 待って、ということはこの人29歳!?

 どう見ても10歳の少年にしか見えないのに、結構年上の方だったのね。


「し、失礼しました!ラフィール様」


「いやーいいよー。ボクはエルフ人とのハーフなんだ。エルフ人は60になると急激に老化するけど、子供の間のどこかで年齢が止まっちゃうんだってー」


「ラフィール様は12の時に成長が止まられたんだ。精神年齢もその時から成長してないらしく、苦しい思いをしたそうだ」


「若作りしてるだけだろ。ミハイル様と普通の口調で談笑してるの見たことあるぞ?」


「え゛!?」


 ガウリ様がグレンの言葉で珍しく硬直してる。

 それだけ衝撃だったんだ。

 でも確かに私も幼く見えたし仕方ないのかしら?


「因みにボクは第二師団団長でーす」


「お、オホン!ラフィール様にも婚約者がおられる」


「サラ様って言って、現当主トビト様の養女だったんだが、俺が留学に出る前正式に婚約者になったんだってな」


「貴様、俺が説明しようとしたことを!」


 やっぱ二人は仲がいいわね。

 でも待って、それってことは。

 二人は禁断の愛!?


「お姉さまをあのクソ親父は捨てようとしたんだ

 だからボクの婚約者にしたあのクソ親父から爵位もぶんどった

 あのクソ親父とクソババァは死んで当然だ

 だからあの手のこの手を使って鉱山送りにしてやった」


 早口でとんでもないことを口走ったよラフィール様。

 グレンとガウリ様もこれにはドン引きしてるよ。

 相当サラ様のことが好きなんだろう。

 でもなんか少しだけ親近感を感じた。

 

「だから今はー、ボクがメルクール家当主だよ!」


「ラフィール様、私達仲良くなれると思いました!」


「だよねー!帝国での君の家族の所業聞いたよ!ボク、君が報復するってなったら協力するからね!」


 歳は離れてるけど、ラフィール様とは良い友達関係が築けそう!


「おい、なんかヤバい同盟ができた気がしたぞガウリ」


「珍しく意見が合うな。ラフィール様って師団長の中では温厚で有名なんだが、いや温厚だからこそ怒らせると怖い・・・」


 グレンとガウリ様も頷きながら私達の友情を祝福してくれた。

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