第20話

 催しも終わりぞろぞろと帰路に入る貴族の皆様達。

 そんな中から、一人の女性が飛び出してくる。


「やっほー久しぶりだね、ルルシアちゃん」


「ヒスイさん。お久しぶりです」


 相変わらず破天荒な人だ。

 名前の通り彼女は翡翠色の髪と瞳を持ってる女性で、後ろのくせ毛がかなり跳ね返ってる。

 しかし貴族をかき分けてこんなことしていいのだろうか?

 しかも何人かの襟首を引っ張ってるし。

 その中で一人だけ見覚えがあった。


「聞いてないよヒスイ。母上はどうしてんの?」


「あぁ、軟禁してますよ。レミィとチャーミューが監視としてみてますよ」


「ならいいか。あのバカの信者じゃレミィとチャーミューには適わないし」


 軟禁はいいの!?

 とてもトップの重鎮の護衛と、その息子の会話には思えなかった。

 それだけ彼女が目の上のたんこぶだと言うことなんだろう。

 リリノアール陛下は国のトップである責任感を感じて動いてたのに、立場は同じでもこうも違うのね。

 でもゴッドサウス王国は、国王が健在だからまた話は違うか。

 それにしてもーーー


「ガウリお前、お袋に捕まって情けねぇな」


「あ゛!?てめぇ、俺は侯爵だぞ!口に気を付けやがれクソグレン!」


 グレンにそう言われて返事をしたのはガウリ・フォン・リューヌ。

 私とグレンの元クラスメイトで、幻惑の二つ名を持っている青年でリューヌ侯爵家の嫡男だ。


「あーそーですねー」


「てめぇ・・・」


「てか敬われたいなら、その頭の悪いセリフを言うのやめてからにしろ?」


「よし、てめぇはここで殺す」


「殺せる魔法使えない癖に」


 グレンは耳に小指を突っ込んで、耳垢を取り出し息を吹きガウリ様の方へと飛ばす。

 やだ、汚い。


「グレン汚い。早く拭いて」


「あ、えっと・・・」


「くくっ、普通耳をほじくるか?しかも自分の恋びーーーなにすんだてめぇ!」


 グレンはガウリ様の言葉を遮り、グレンはこぶしをふるう。

 さすがにグレンの拳は当たらなかったけど、侯爵家の嫡男相手にすごいわねグレン。

 まぁイガラシ財閥は公爵家も無視できない商会だからこそなんでしょうけど。


「いやぁ、手が滑った」


「てめぇ彼女にフラれるくらい顔面ぼこぼこにしてやろうか?」


「え、グレン彼女って何?」


 グレンに彼女がいたなんて知らなかった。

 というか彼女がいるなら言いなさいよ。

 彼女がいるってことは、その人は後々に婚約者になるってことよね。

 モモさんが言ったようなことにはなりようがなかったわね。


「ガウリがなんか言ってたが、そんなこと言ってたか?」


「隠さなくていいのに。あ、でもここにはヒスイさんもいるし言いにくいか」


「酷い誤解をされてるみたいだけど、本当に彼女なんていないからな?」


「えぇ、そういうことにしとくわ」


 グレンの彼女さんにはグレンを三年間も借りたの悪いことしたわね。

 今度会わせてもらって謝ろうかしら。


「グレン、お前まさか・・・ぷぷっ!」


「ガウリ、てめぇの所為でややこしくなった。ぶっ飛ばす」


「いいぜ、受けてたーーー」


 グレンとガウリ様にヒスイさんの拳骨が下った。

 うわー、二人ともすごい痛そう。


「喧嘩するな!今回はルルシアちゃんにあんたら三人を紹介するために来たんだからね!」


「いってぇなお袋!」


「グレン、あんたは三年もあったのに、情けない男として帰ってきたんだねぇ。先が思いやられるわ」


 ヒスイさんは額に手を当て首を振る。

 確かに喧嘩早かったけど、グレンは帝国では結構我慢してましたよー。

 あとでフォロー入れとこう。


「あぁそうだった。ルルシア、久しぶりだな」


「お久しぶりですガウリ様」


「ここ三年俺も頑張ったんだ。王国軍魔導師団第三師団の団長に就任したんだ。すげぇだろ?」


 あ、魔法師団の団長!?

 ガウリ様はまだ18歳なのに、そんな責任のある立場になれるなんてすごい。


「すごいですね。同じ学びの場を共にした身として、誇りに思います」


「これだよこれ。さすがルルシアは礼儀正しいよな。グレン、お前も見習えよ?」


「お前を敬いたくないから断る」


「てめぇ・・・」


「二人とも仲良しですね」


「「どこが!?」」


 ガウリ様に彼女のこと打ち明けるくらいだ。

 喧嘩するほど仲がいいってことよね。


「あんたら、喧嘩はよそでやんな!ミハイル様とラフィール様の紹介ができないだろ」


「ごめんね稲妻。彼らがさっき言ってた紹介したいって言った人だよ」


 襟を持たれてる残りの二人は見覚えがなかった。

 見た感じ二人とも年上には見えるけど、オリバー様が紹介したいって言った人だから貴族ってことよね?

 すると次の瞬間二人の身体が霧散した。


「マジかガウリ、あんたの幻覚か。ガウリの幻覚に騙されるなんて、あたしも焼きが回ったねぇ」


「ミハイル元帥とラフィール様に頼まれたもので」


 確かにガウリ様は元帥と言った。

 そしてラフィール様とガウリ様が様付けをしたということは、ラフィール様とは公爵家の人間?


「こうなることを予想してたから、私はガウリに頼んでいたのだよ」


「ヒスイの馬鹿はこうすると読めていたから、ボクが警戒しといたんだよぉ」


 上空から二人の声が響いてきた。

 一人はかなり低い声で、もう一人はまるで少女のような声だ。

 宮殿の屋根の方を見ると、人影が二つある。

 するとこちらへと飛び降りてきた。

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