第19話

 グレンに連れられてきた会場は宮殿の裏の魔物が棲息する魔の森だった。

 パーティに居た貴族も私達同様こちらに集まっている。

 みんな、オリバー様から何か言われたのかソワソワしていた。


「さて皆の者!今回の舞踏会では、目玉の催しがあると告知していたが、それが気になっている者も多いのではないかぁ!」


 オリバー様ノリノリね。

 まるでコロッセオの実況者みたい。

 貴族達も彼のノリに合わせて歓声をあげている。


「うんうん!皆もそれなりに期待してるだろ?それではここまで焦らしたのだ、大いに期待のできる物だと自負してるよ!」


 そう言ってオリバーは指を鳴らす。

 すると森から巨大な熊の魔獣、ソードグリズリーが飛び出してきた。


『ウォオオオオオオ!』


「そ、ソードグリズリーよ!?」


 ソードグリズリーはかなり凶悪な魔物で、全長大体5mほどの巨大に剣に変形した骨が飛び出している。


「全員戦闘陣形を取れ!公爵に連なる者は前に出よ!残りの者は後方支援だ!」


 すごい。

 さすが魔道大国、公爵を中心に陣形を取り、味方に魔法が被弾しない完璧な陣形を組んでいた。

 でもオリバー様は催しと言って今も慌ててないんだから大丈夫だと思う。

 大丈夫だよね!?


「グレン、頼んだよ?」


「かしこまりましたオリバー様」


 そういうとグレンは私の横から大きく飛び上がり、ソードグリズリーに向かっていく。


「我が身に眠る大火よ。その火を捧げ、我が身を守れ」


 この詠唱は聞いたことがなかった。

 私は基本的な汎用魔法はほぼ全て暗記している。

 火の魔法はコスパがいいが、コントロール調整が出来ない魔法だからそんなに使わないけど、それでも全く聞き覚えがない。


「纏え!舞闘の鎧アトラスアーモ


 グレンの黒色の紳士服が、赤く変容し所々から焔を放っていた。

 まるで舞踊の衣みたい。


「グレン殿の内包する魔力が小さくなっている!?」


 誰かが言ったが違うと思う。

 恐らく魔力を凝縮してる。

 でも魔力を凝縮させても、出力を凝縮しなければ意味はないはず。

 なんの意図があるの?


「オリバー殿下。これは殿下のご意向でございましょうか?」


「そうだ!催しがあると言ったであろう?」


「ではご説明をお願い致します」


「論より証拠という言葉が東方の国では使われるそうだ。まぁ自分達の目で確かめるといいよ」


 そういってオリバー様はグレンに目配せする。

 グレンも頷き、そのままソードグリズリーの頭にかかと落としを浴びせた。


「えぇ・・・」


 思わず声が出たのは仕方ないわよね。

 まさか魔獣に魔法使いが物理技を浴びせたんだもの。

 でもその直後、ソードグリズリーから出るはずのない炎の息吹が口から出てきた。

 まさかあれってーーー


「燃えろ!そしてぇ!」


 グレンはかかと落としをした後自由落下したあと、ソードグリズリーの胸に廻し蹴りをかました。

 次の瞬間、ソードグリズリーの胸は燃え上がり大きな空洞をあけた。

 

「ソードグリズリーが、こうもあっさり・・・」


 先ほど説明を願い出た貴族が思わずこぼしたその言葉は本音だったのだろう。

 実際ソードグリズリーは珍しい魔物ではないが、その気性の粗さと動きの活発なところが脅威ではある。

 何せ5mの巨体だわ。

 対抗手段を持たない民のところに逃げられて被害が続出するケースも後を絶たない。

 ソードグリズリーはどれだけ早く狩れるかが問われる魔物だった。

 まだ早く狩れるのに集中すれば返り討ちになるくらいには強い魔物でもあるため、こうしてあっさり倒される魔物でもなかった。


「どうだろうか皆の者!私が用意した催しは楽しんで頂けたかな?」


 一人の貴族が拍手すると、それに倣って次々に拍手をする貴族の皆様方。

 私も皆様に倣い手を叩く。

 確かにこれはそれくらいすごいことだ。

 ソードグリズリーは、グレンが一撃でここまで出来るような相手じゃない。

 そもそも一人でソードグリズリーを一撃で倒そうとするなら、超級魔法を使える必要があった。


「さて、グレンは本来であればソードグリズリーを赤子の手をひねる様に倒すことはできない。まぁ一人で時間をかければ倒せないこともないだろうがな」


「ということは、何か種があるのでしょうか?」


 オリバー様はその言葉にニヤリと微笑む。

 まるでその笑顔は何かを企む悪魔のような笑みだ。


「そうだ!そのためにこの催しを私は考えた!グレン、魔装を解除してくれ」


 オリバー様にそう言われて、グレンは何をする様子もなく自身の紳士服が元の黒色に戻った。

 火も出てない。


「こちらをオリバー様」


「うむ。見よ!この指輪がグレンを劇的に強力な力を発揮した正体だ」


 オリバー様が指輪を掲げてそう宣言する。

 何の変哲もないただの指輪に見える。


「これは帝国にある剣婦と呼ばれる強力な女騎士達の一人の武装を解析して作成した武装で、私はこれを魔装と名付けた」


 それって、舞踊の衣ダンサーレディーメードのことだ。

 そういえばグレンがあれはオリバー様のところで管理してるって言ってたけど。

 

「殿下、剣婦とは一体?」


「やはり君たちの情報網でも、この情報は手に入れられてはないようだ。詳細の書いた資料は後日書面にて各家に共有するが、帝国も一枚岩ではないということだと理解してくれ」


 オリバー様は私のことを気を使ったんだ。

 動機で倒れたことは多分グレンから連絡を受けてるだろうし、私自身その配慮には助かる。


「この魔装は、体内の魔力を圧縮し強化を施す代物だ。しかしこれは使用者によって異なる効力を発揮する」


「異なる力・・・」


「グレンの場合その強化は物理炎上と名付けた。物理攻撃に炎を乗せ、相手を内側から焼き尽くすものだ」


 だからソードグリズリーから炎の息吹が出たのね。

 もしかしたら、かかと落としの時点で脳まで焼けていて決着はついてたのかもしれない。

 演出のために腹を打ち破ったのかしら?


「この魔装はここにいる伯爵家以上の貴族家には後日資料と共に一つ提供する」


 今日一番の大歓声が響き渡った。

 それはそうだ。

 あれほど強力なものを魅せられれば、喜ばない貴族の家はない。

 この国は有力貴族はどこも魔族が出る地域と領地が隣接してる。

 それだけに魔物の脅威も受けていることもあって、そこに強力な兵器を提供すると言われれば喜ばないはずがなかった。


「この魔装には適性がいる。もし適性のあるものが家にいなかった場合は言ってくれ。王国軍の魔導師団は適性者がかなりいたので、そこから派遣しよう。皆のこれからの国への忠力を期待する」


 そう言ってオリバー様はこの場を締め、催しを最後に舞踏会は終わった。

 そういえばオリバー様は紹介したい人がいるって言ってたけど、誰なのかしら?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る