第18話

 緊張する。

 私は久々にこの気持ちを味わっていた。


「さて、臣下の諸君!今日は無礼講だ!各々楽しみたまえ!」


 オリバー様がそう発言する。

 今日はオリバー様の計らいで有力貴族を招いた舞踏会を催し、私とグレンも参加していた。

 

「そして数日前、諸事情により我が国の一員となった女性を紹介する!」


 オリバー様に呼ばれ、私はドレスの裾を掴みカーテシーをした。


「ご紹介に預かりました、ルルシア・フォン・ランダールでございます。見知った顔の方も多くございますが、この度ゴッドサウス王国の臣下の末端に加えさせていただきたく存じます」


 会場からわーっと歓声が聞こえる。

 概ね私への評価は悪くない、と思いたい。


「彼女は皆の者も知っている通り、雷魔法の使い手だ!雷魔法は魔力のコスパが悪いが、それを考慮すれば強力な魔法の数々と知ってのことだろう。そんな彼女はこの国でも魔力は随一で、君達も知っての通り聡明だ。そんな彼女は我が国にとって大いなる富や名声をもたらすことであろう」


 さすがに大げさに言いすぎよオリバー様。

 確かに雷魔法はコスパが悪い。

 魔力が高いだけで出力が変化するわけじゃないから、そこらの雷魔法使いと実力は大差ないのに。

 超級防御魔法のライトニングアイテルだけは、誇れる魔法だとは思うけど。


「彼女は現在、王国軍魔導師団に所属する。現状、第一師団で総大将でもあるヒスイ預かりとなるが、知っての通り私は甘くはない。彼女自身が一年以内に功績を出せない場合はこの国から追放も辞さない」


 オリバー様はそう宣言するが、大分甘いと思うけど。

 私だけじゃ、一年以内に残せる功績を達成できるかもわからない。

 オリバー様の提案がなければ、この国を出ていくことになったかもしれないわ。

 一つ甘くないと言えば、私があずかり知らぬ場所で王国軍に入隊させられたことだけど。

 まぁこの先を考えてたらそう悪くない選択なのかもしれないわね。


「それでは堅苦しいのはこの辺にして、今夜は楽しんでくれぇ!」


 オリバー様のその一言で、皆さんは舞踏会を楽しみ始める。

 私も皆さんに手を振ったあと、グレンの横に戻ってきた。


「オリバー様はこういう時はちゃんとやりますね」


「そういうグレンこそ、紳士ぽくて素敵よ」


 こういう場ではちゃんと公私混同せず、言葉遣いもきちんとする。

 この切り替えの良さは、やはり商人の才能なのでしょうね。


「それでは僭越ながら、ルルシア嬢。私と一曲どうでしょうか?」


「ふふっ、喜んで」


 グレンは意外にもダンスはそこまで上手くなかった。

 私の足を何度も踏みそうになっている。

 まぁ私はそれなりに運動神経もいいから、これくらいどうってことないわよ。


「すまんルル」


「いいわよ。私に身を預けなさい。これでも貴族令嬢として最低限のダンスはできるつもりよ」


 グレンとのダンスはぎこちないながらも、楽しい時間だ。

 これがシュナイダーだったら、私はヒールで思い切り靴をつぶしていたかもしれない。

 ダンスをしてる中、グレンの中指が少しだけ膨らんでいることに気づいた。

 多分指輪だ。

 誰からもらったのか、それとも自分で買って付けたのか無性に気になってしまい、踊りながら彼に耳打ちする。


「グレン、その指輪何?」


「あ、これか。オリバーからもらったんだが、あとでちょっとした余興、いや催しがあるから秘密な」


「催し?」


 指輪をもらったのがオリバー様と聞いて少しだけホッとする。

 そして催しとは一体何のことだろう?

 まさか私も駆り出されないわよね?


「ルル、今回はお前は特にすることはないなぁ」


「一体どんなことなの?」


「それは秘密だ。楽しみにしておけよ?」


「う、うん。わかったわ」


 一体どんな内容かはわからない。

 

「グレン、長いぞ。次は私と踊ってくださるかい?」


 今度はオリバー様がダンスを申し込んでくる。

 私は喜んでと、彼の手の上に手を置いた。


「オリバー様は踊りが上手いですね」


「そうかい?だったら僕の妻になってくれる気になったかい?」


「いいえ、これっぽちもないですね」


「すごい屈託のない笑顔だね!」


 だって本当に思わないもの。

 異性としてはとんでもなく汚らわしいわ。

 友人としてはいい人だと思うけど。


「舞踏会が終わった後の催しがあるけど、その時に君に紹介したい人が何人か居てね」


「紹介?私はまだ婚約とか結婚とかは考えていませんよ?それに他国とはいえ、婚約破棄された令嬢を娶りたい人なんて物好きいますかね?」


「ここにいるよ?」


「遠慮しときます」


 冗談冗談と、オリバー様は笑いながら茶化してくる。

 

「紹介するのは貴族令息だけど、みんな婚約者がちゃんといるから安心して」


「略奪愛とかもごめんですよ?」


「も~心配性だなぁ。ヒスイの部隊は母上を軟禁・・・家でインドアの活動をする予定らしいからその時紹介するけど、彼らとは先に会わせて置いた方がいいと思ってね」


 軟禁って不穏な言葉が聞こえてきたけど、そこはあえて触れないことにした。

 どれだけ母親のことが嫌いなのかしら?


「じゃあこの辺でダンスは終わらせよう。他の貴族達も君と踊りたがってるし、僕は恨まれてしまうからね」


「まぁ皆さんには留学中お世話になりましたから」


「どっちがお世話になったかは、その人のみぞ知るところだけどね」


 そういってオリバー様は手を放し、私はカーテシーをする。

 その後、留学中に知り合った貴族の息子や、領地問題を解決した貴族など、様々な方からダンスを受けた。


「懐かしい顔ばかりだったわね」


「俺も三年ぶりに会った奴らばかりだったな。恨み言を言われまくったぜ」


「え?なんかしたの?」


 グレンは私のことを見つめてくる。

 え、なんか付いてる?

 さっき舞踏会の料理を少しつまんだ時になんか付いたのかしら?


「まぁちょっとな。それより口元、ケーキのクリーム付いてるぞ」


「もうやっぱり!私のこと見つめてきたからそんなことだろうとは思ったけど、気づいてたでしょ」


 私は急いでハンカチで拭った。

 他の人にも見られてた!?

 恥ずかしい。


「そ、そうだ!これから例の催しがあるんだ」


 グレンはネクタイをきっちりと結び直して、私に手を差し出した。


「会場にエスコートしますよ、お嬢様」


「グレンのその口調、懐かしいわね」


 私はグレンの手を取って、催しのある広場へと向かった。

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