第16話

 私達は宮殿に入ってすぐに驚いた。

 腕を組んで仁王立ちをしてる髪の長い男性が居たからだ。

 彼はこの国の王太子であるオリバー殿下だ。


「やぁ、久しぶりだね稲妻」


「稲妻はやめてください。オリバー殿下」


「グレンも久しぶり」


「俺への挨拶は適当かよ」


 グレンとオリバー様は乳兄弟だから気の抜けない仲だけど、よく考えたら乳兄弟ってこういったメイド達が居る場だと礼節を弁える物じゃ無いのかしら?

 でもグレンは帝国では、かなり礼節を弁えてたから王国の文化がそういったものなのかしらね。

 それにしてもオリバー様って、金髪のブロンドでまさに王子様って感じ。

 でも彼の性格を知ってると、ちょっとシュナイダーとは別の意味で王子らしくない。


「そんなことないさ兄弟。君が居ない間、商売が滞ってお小遣いが稼げなかったじゃないか」


「お前・・・ていうかテメェ、ここに居るって事はあの門番のこと知ってたろ?」


「あぁ、稲妻がどういった対処をするか気になってたんだ。でも君が早々に対処した所為で、彼女の手腕をみれなかったじゃないか。これは責任を持って不敬罪だ。刑罰は僕の護衛だね」


「お断りだ。不当な罪状でテメェを告訴してやる」


 そんなこと言いながら、次には二人は拳を互いに向ける。

 二人の拳は互いの顔を横切り、そのまま肩を組んだ。


「相変わらず、僕に対してその対応。流石グレンだよ」


「てめぇも相変わらずの性格の悪さで安心したぜ。門番の件といい、マジで自分がしたいと思ったらする行動に忠実だわお前!」


 おかしい、笑い会いながら談笑してるのに言葉が噛み合ってない。

 近くに居たメイド達は慣れているのか苦笑いしてる。

 

「殿下は良い性格してますね。あの門番の人は、殿下が許可しなければ配属されなかったのでは?」


「君も大概不敬だな稲妻。どうだい?僕の妻になるのは」


 そう言いながら私の髪の毛をにキスをするオリバー様。

 まぁこの所作だけ見れば、王子なのよね・・・


「貴方の節操のなさ治れば考えます」


「あぁ、僕の仔猫ちゃん達を悲しませるのは良くないな。それにちゃんと避妊してるから問題ないよ」


 そう、この人は三大欲求を際限無しに振るう。

 彼のメイドは全て愛人も兼任してる元貴族令嬢だ。

 流石に元貴族令嬢だから先に手を出すのは、殿下が手を出さなくても娼館送りになるような令嬢だけだけど、それでも手を出した数は計り知れない。

 まぁ王族は血筋を残す義務もあるから仕方はないのだけど。


「テメェの汚い手でルルに触んな!」


「嫉妬は醜いよグレン。というかここで立ち話もなんだ。中に入りたまえよ」


 そういうとオリバー様は宮殿の中に私達を招いてくれた。

 オリバー様はその時、近くのメイドに耳打ちしている。


「あのゴミの始末は任せる。#情__・__#をかけてやるのも忘れるな」


 それはなんの情なのかしら?

 非情だったら、あの門番は可哀想な結末を辿りそう。


「相変わらず怖ぇな」


「怖いかい?僕は彼にチャンスを与えたんだよ?イガラシ財閥にあんな態度をとる貴族は今時いないよ」


「まぁ、あいつが何処で野垂れ死のうが俺もどうでもいいから気にしねぇけどな」


 まぁあの門番の彼は敬意はどうあれ確かに一度は雇われてる。

 その後職務を全うしなかった責任は自分で取る必要はあるわね。


「さぁ、着いたよ。今日は稲妻のために、この部屋を改装しておいたんだ。あ、グレンは出ていって良いよ」


 オリバー様の部屋に入ると、辺り一面ピンク色だった。

 私は開いた口が止まらなかった。

 

「私は殿下専属の娼婦になれってことでしょうか?」


「アハハ、それでもいいよ。僕は処女が大好きなんだ」


「殿下の申し受けは非常に魅力的ですね。丁重にお断りさせていただきます」


 生憎娼婦で生計を立てるつもりはこれっぽちもない。

 私もこれでも女の子よ。

 貴族令嬢である以上理想の恋は叶わないと思ってたけど、もう元貴族令嬢だもの。

 理想の恋を求めてもいいでしょう?


「フラれちゃったよグレン」


「ルルにセクハラすんなこの馬鹿王子」


「でも本当の話、君は留学してた頃と違って帝国の人質というこの国で後ろ盾はもうないんだ。僕の妻になるのは破格の申し立てだと思うんだけど」


 確かに、私はこの国で後ろ盾はないわね。

 それに本来であれば王太子のこの申し出を断れば、王国が受け入れてくれない事だって普通にありえる。


「王太子殿が望むなら身体を差し出しましょう」


「おいルル!?」


「ですが、それで後悔するのは貴方ですよ?」


 私は不敵に微笑みを浮かべる。

 オリバー様も微笑み返した。


「負けだよ、やめておこう」


「英断ですね」


「帝国の稲妻の名も誇らぬ、キレを上げたようだね」


 帝国はほんとに敵だらけだったもの。

 それにバカが多くてもバカだけじゃない。

 

「ルル、こいつの性欲は際限がない。利益度返しに手を出す可能性もあったぞ」


「え?」


 私は腕をさする。

 少しどころかかなり寒気がした。

 本当にギリギリのことを私はしてたのね。


「いやー、彼女の魔力量からしてもそれはないよ。富をもたらすのは間違いない。僕は女の子も好きだけど金も好きなんだ」


「強欲の王子だな」


「褒めるなよ。照れる」


 褒めてはいないでしょうに。

 今日ほど魔力が多くて良かったと思った事はないわね。

 ほっと息をつくと、オリバー様の部屋を勢いよく開いてくる少女がいた。


「お兄様!私の侍女が一人もいないんだけど!?」


 その少女はオリバー様の妹君である、アーデル様だった。

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