第15話

 私は今、ゴッドサウス王国の宮殿に向かっている。

 なんでもこれからについてオリバー様と話し合うそうだ。

 横にはグレンもいるけど、今日は寝坊しちゃって迷惑をかけた。

 

「グレン、ごめんなさいね」


「あ?寝坊のことか。役得だったぜ」


 サムズアップするグレン。

 私が悪いのはわかってるけど、乙女の寝顔を見たんだからもう少し気を使ってほしい。

 いや、気持ちの沈んでる私に気を使ってくれてるのか。

 グレンは私の護衛役を帝国で徹することできてた。

 時折崩れた口調になるけど、それは私に孤独感を抱かせない為だと思う。

 それくらいしてくれてたとは、思い上がっていいだろう。


「グン兄によると、陛下はヒラカム共和国に外交中のため不在だそうだ」


「共和国ね。帝国と隣接してる小国だったけど、国王陛下はそこに何をしに?」


「さぁ?貿易関係だと親父を通して外交するから、それ以外のことだろうな」


「確かにそうね。それにしてもオリバー様かー。元気にしてたかしら?」


「オリバーは高等部に通わず、陛下の国内の仕事を手伝ってたらしいぞ。あの王妃がいなければなぁ・・・」


「あぁ、王妃様ね・・・」


 ゴッドサウス王国は貴族を含めてほとんどが優秀な人材だ。

 欲が絡むと、理性よりも欲が勝る人もいたから、何を強く願っているかを留学で調べ上げて爵位ごとに何かしら他家より得してる状態になるように案を出した。

 それが巡り巡って、政治に口を出すことになり、なんとか内戦に発展するのを回避できた。

 しかしそれを留学期間丸々使ってしまったのは、主に王妃様の所為だった。


「あの王妃、また国庫の財を勝手に使って散財だ」


「相変わらずみたいね」


「あの阿婆擦れ王女も好き勝手ドレスをかっているそうだ。俺達が帰国したことを貴族達が聞いてしばらくしたら、書面で通達があったんだぜ」


「阿婆擦れってあなた・・・でも国民の税をなんだと思ってるのかしらねあの二人」


 汗水たらして納税してる国民に申し訳ないのかしら?

 国のために使って失敗するならわかるけど、自分のためって。

 まぁあの二人が金を使うことで経済も回るから、全くダメというわけではないけど。

 ただ金額が異常なのだ。


「お小遣いの範疇なら何も言わないさ。仮にも王妃や王女だ。それなりの格好をしないと経済も回らないし他国から舐められる。だがあいつらは金を使う癖に外交は全部陛下任せだ!」


「まぁ陛下も二人には甘いからね。二人が散在するたびに、国王陛下の趣味の剣のコレクションが無くなるって聞いたわ」


「デザイン重視で飾りだしな。それにゴッドサウスは魔道大国だし、剣は別に重要じゃないしな。だが不憫だ」


 確かに不憫なことこの上ないわ。

 私には趣味がないから、趣味のものを切り崩すってどんな気持ちになるかわからないけど、大切な物を手放す気持ちは悲しいってわかる。


「おっとそんなこんな話してる間に宮殿に着いたな」


 グレンが窓の方を指さすと、白い作りをしたかなり大きな宮殿が見えてきた。

 帝国の宮殿より倍くらいでかいわ。


「オリバー様は元気かしら?」


「俺も直接会うのは3年ぶりだからな。あいつ願掛けで国王になるまでは髪を伸ばしてるらしいぜ」


「成長期に髪を伸ばし続けるって、それかなり伸びてるんじゃないの?」


「あぁ、整えてはいるだろうけどな」


 記憶のオリバー様はかなりの美形だったのを記憶してる。

 イケメンにロングはかなり似合うんじゃないかしら?


「やっと着いたが、御者の奴なんか門番と揉めてるな」


 外を覗いてみると門番が首を振りながら御者を指さしてる。

 声は聞こえないけど、何かいちゃもんされてる?


「グレン、降りてみましょ?」


「あぁ、そうだな」


 グレンと私は馬車を降りて2人に近づく。


「オリバー様と先約があるイガラシ財閥です。どうかオリバー様に確認されていただけませんか?」


「はん!?平民が殿下と?ありえん!さっさと戻れ成り上がりの商人風情が!」


 あー、マジか。

 私留学中にこう言う輩は全部矯正したと思ったんだけどなぁ。

 おそらくあの門番は貴族の家の人間だろう。

 貴族はみんな商会を平民と見下す傾向がある。

 だとしてもかなりの数が廃嫡されたりしたと思ってたんだけど、どうやら私の見立てが甘かったらしい。

 宮殿の門番なんて特に心配してなかった事案だ。


「はぁー、アイツかよ」


「グレン、知ってるの?」


「アイツは馬鹿王妃の実家の公爵令息だ。いや元令息だな」


 確か王妃の実家の公爵家は一人だけ廃嫡されたのを覚えてる。

 次男だったのもあって、あっさりと見捨てられてたけど、顔が思い出せない。


「ルル、覚えてないのも無理ないな」


「この国の令息はそれなりに把握してたつもりだったけど」


「アイツはお前と会ったことない。廃嫡された理由も、公爵家の国庫の横領だ。あの馬鹿王妃が拾ったんだろうな」


 そんな問題ある人間をいくらなんでもと思ったけど、王妃の酷さは留学の時に知っているので否定はできなかった。


「おい、お前!グレンだな!お前みたいな平民はここにふさわしくーーー」


 次の瞬間グレンの足が彼の顔面に向かっていった。


「よし行くぞルル」


「うわー、てかこんな1発で召されるのに門番ってそれはそれで心配なんだけど」


「ここはあいつ以外にも警備がいるしな。門番としての能力は会話だけで戦闘力はいらないんだよ」


 会話成立してなかったけど?

 上を見たら警備らしい人が手を振ってくれた。

 あ、彼は留学中に隅っこに居た伯爵家の三男の人。

 あんまり喋らなかったけど、警備任務につけるくらい優秀だったんだ。


「オリバーが待ってる。さっさと行こうぜ」


「うん」


 トラブルもなく?私達は宮殿の中へと足を踏み入れた。

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