第13話

 書斎に入ると、グレンとグレンのお父様でありイガラシ財閥の代表のマシバ会長が居た。

 さすが王国有数の腕利きの会長、貫禄が違うわ。


「ルルシア嬢、久しぶりだな」


「ごきげんようマシバ様」


「うむ。変わり無いようで何よりだ。貴女には商いで世話にもなったしな」


 中等部に通ってるとき、時々遊びに来ては色々な商品のアイデアを出したっけ。

 懐かしいわね。


「ルル、具合が悪くなったらいつでも言ってくれ」


「大丈夫よ。十分に睡眠を取らせてもらったもの」


「それならいいんだ」


 グレンはそう言うと一歩手前に下がった。

 この話ではグレンは口を挟まないって事?

 そう言えば勝手にこれまでの出来事に着いての話と思ってたけど、違うのかしら?


「ルルシア嬢、君の今の立場は王国では少し複雑な状態となっている」


「えぇ、自分でも理解しております」


「我が商会で君を保護しては居るが、意識を取り戻した以上自立してもらわねばならない」


「親父!」


 グレンが大声を荒げるが、それは当然のこと。

 私だって、お世話になり続けるつもりはない。

 それはマシバ様にも申し訳がないもの。


「もちろんでございます。それに私自身それほど図々しい真似は出来ません」


「流石だな。まだまだ若いというのに、帝国の稲妻の名が貴族達の社交にまで轟いてるだけはあるな」


「恥ずかしい限りでございます」


 え、この国の貴族にまでその名前伝わってるの?

 確かに中等部には貴族様達や王太子も通ってたよ。

 でも、まさか3年しか通ってないのにそんなに広まるなんて聞いてないわよ。

 言われてもいないけど!


「顔に出さないのは流石と言ったところだが、少しだけ顔を俯かせたな。幼い一面を見れて満足だ」


 声に出ない悲鳴を叫びそうになる。

 でも流石マシバ様だわ。

 所作の一つ一つを見逃さない。


「親父、ルルがこれからどうするかの話はルルが決める事だ。それよりも本題に入れよ」


「全く、未来の娘になるかもしれない子との交流を楽しんでいるんだ。邪魔をするな」


 マシバ様、それはちょっと気が早いんじゃないかしら?

 確かにグレンは気の抜けない仲だし、そう望んでくれるならと思ったことはあるわ。

 でも私一度、グレンに私のこと好きか聞いたとき否定されたのよね。

 だってわざわざ護衛という名目で帝国に留学してきてくれたんだもの。

 しかも帝国では結局勉学を学ぶことはなかったし。

 家族愛に近い物を感じると言っていたから、婚約破棄されるのがほぼ確実な私を心配して来てくれたんだと思ってるけど、実際はどうなのかしら?


「ん、これはこれは。グレン、お前も大変そうだな」


「親父・・・はぁ。ルル、ひとまず親父が話をするって言うから任せたが、どうも話が進まないから俺から話すな」


「私と結婚するって話?」


「は、え?は!?」


 慌てちゃって可愛いわ。

 流石にこの話の流れで冗談だってのは通じるでしょうけど。


「ち、ちげぇよ!」


「グレン、お前にも一因があると父さんは感じたぞ」


「うるせぇな。ルル、本題は俺達の処遇についてだが、結論から先に言うけどルルや俺達について帝国からは何もお咎めがなかった」


 お咎めがない!?

 そんなことありえるの?


「グレンは留学生だし、私はお尋ね者に近い立場なのよ!?留学生が勝手に帰国して、婚約破棄された令嬢と共に逃げたのにそんなことあるわけ!?」


「あぁ。俺も驚いたが、オリバー様が帝国に連絡を取ったところ俺は無事に交換留学を終え、ルルは皇太子に婚約を破棄されたから、王国に行く可能性があるからと皇帝陛下から書面で連絡があったそうだ」


 オリバー様とはこの国の王太子様のことだ。

 グレンとオリバー様は乳兄弟で幼い頃一緒に育ったらしい。

 仲も良好らしいけど、私がグレンを巻き込んだ所為でそんなことしてもらって申し訳ない。


「でもその書面って・・・陛下ではないわよね?」


「あぁ。これは恐らく予想だが、今は帝国のクーデターについて知られたくないと判断したんじゃないか?」


 確かにそれが一番有力な理由よね。

 陛下を拘束している事を知ってる私達を逃がしてしまった以上、下手に刺激をすれば私達の口から出たことが真実になると判断されかねないし。

 でも腑に落ちないわ。


「ディーラを、剣婦を殺害した・・・事については・・・?それに舞踊の衣は何処に?」


 あれ?

 ディーラについて話をしようとしたら、少し胸が痛んだ。

 

「舞踊の衣は回収済みだ。オリバー様の管理下で解析を行っている」


「そう・・・」


「ディーラについても、特に言及も無かったそうだ」


「・・・そっか」


 他にもここまでどうやって帰ったかとか聞きたいのに、何故か声が出てこない。

 グレンは頭を搔きながら、ため息を吐く。


「はぁ、あんときもそうだが、ディーラが死ぬ直前の言葉を聞いてから様子がおかしいなルル」


「え、そんなこと・・・」


「ないって言えるか?親父みたいな観察眼が無くても、お前が何かを聞きたいのに声が発せない、苦しいって事は伝わってきたぞ」


「その、ごめんなさい・・・」


「謝るなよ。まぁそのことについては落ち着いたら話してくれや。ルルが聞きたいことはどうやってここまで帰国できたのか、それに追手の心配は無いかって話だろ?」


 グレンが色々私に気を遣ってくれて助かった。

 私はグレンの言葉に黙って頷く。


「まず帰国に着いては、あれから追手は来なかった。俺がルルを抱えて、グン兄が舞踊の衣を抱えて帰国したときは拍子抜けしたよ」


「そうなんだ。てっきり私が意識を手放してから、二人で対処してくれたのか心配してたんだけど・・・」


「正直帰国するまでは生きた心地がしなかったよ。でも向こうさんも剣婦に絶対の信頼を寄せてたんだろ」


「えぇ、帝国には剣婦はディーラを入れずに・・・確か・・・七人居るって・・・聞いたことがあるけど」


 まただ。

 ディーラの事を話す度に、何故か胸が痛む。

 彼女とそこまで接点がないはずなのに。


「げぇ、あんなのがまだ七人も居るのかよ。あんときも思ったが、帝国も侮れ・・・ってどうしたルル!?」


「え?」


 グレンは執務室の机を飛び越えて、私の顔に手を触れる。

 どうやら無意識に涙を流していたみたい。


「ディーラが死んだ時もそうだが、お前は涙を流してる。ディーラはお前の事を幼馴染みって言ってた」


「わからないわ。私、ディーラについて全然関わりあいがない・・・はずだもの・・・」


「あぁ。不思議だよな。大丈夫だ。きっと身近で人間の死を見て動揺してるだけだ。今日はもう休もう」


 グレンは私の頭を胸に当てて抱きしめてくれる。

 その温もりとグレンの鼓動はとても心地が良い物だった。

 私はその後一礼をして書斎から出て睡魔に襲われて、死んだように眠りについた。

 まだ寝たり無かったのね私。

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