第12話
目が覚めると、白い天井が視界に広がっている。
「あれ?ここは?」
重い身体を引き起こす。
倦怠感が少しあるけど、でもココは何処かしら?
それにいつの間に寝たの?
「頭がズキズキする・・・」
立ちくらみもしてきた。
身体が重たい
「確か私は・・・」
ふらふらしながらドアを開いた。
この豪華な廊下、見覚えがある。
「ここは、イガラシ家の屋敷。グレンの家ね」
造りは貴族の屋敷のそれだ。
この国の商人の屋敷はそれだけ豪華な造りになっている。
「まぁ私王宮くらいしかちゃんとした造りを見たことないんだけど・・・」
状況を整理してみよう。
私は確か、卒業パーティにグレンと参加していた。
そしてそこには陛下も参加していて、陛下の右腕と言っても良い騎士団長の偽物に刺された。
そこから色々あって・・・
「シュナイダーとの婚約は無くなった」
彼との婚約破棄は想定内だったけど、その他全てが想定外だわ。
カインの事や、騎士団長の事。
それにアハト様の不可解な行動。
「考えさせられる事がいっぱいよ。それに陛下、無事かしら?」
あの場に居ても私に何か出来たとは思えない。
それに、アハト様に勝てるイメージも持てない。
あの場は逃げるしかなかった。
「そうだ、追手は振り切ったの!?うっ・・・」
何かあったんだと思う。
でも上手く思い出せない。
確か追手が居たはず・・・
「タラクサクム令嬢・・・そうだ彼女が追手として私達の前に立ちはだかった・・・それで・・・」
その瞬間目の前で皿が割れる音がした。
見ればメイドが立っていた。
彼女は知っている。
「る・・・ルルシア様!?起きられたのですか!?」
「モモさん・・・久しぶりね」
モモ・イガラシ。
彼女はグンジョの妹で、私とグレンのクラスメイトだった。
「大丈夫ですか!?貴女は一週間も寝ていたのですよ?」
「一週間も!?そうだ、グレンは!?」
グレンが一緒に居た。
グレンなら詳細を知っているはず。
「グレン兄様なら、今は書斎で叔父さ・・・会長と話をしております」
グレンは今お父様と話をしているのね。
だったら邪魔は出来ないわ。
「そう。なら二人の話が終わったら、グレンと話をさせてもらえるかしら?」
「いや、その必要はないぜ」
後ろを振り返るとそこにはグレンが立っていた。
慌てて走ってきたのか、少し汗を搔いてる。
「グレ・・・」
次の瞬間私はグレンに抱きしめられた。
突然の事で困惑する。
モモも手を押さえてこちらを見ていた。
「ちょっ・・・グレン!?」
「バカ野郎!心配かけさせんな」
心配?
そっか、実感がないけど一週間も寝てたんだよね。
心配もするよね。
「ありがとうグレン。私はこの通り大丈夫よ」
「あぁ、よかった」
グレンは抱きしめていた私の手を離したあと、そのまま目を背ける。
いきなり抱きしめたのは少し恥ずかしかったのかしら?
「あのな、ルル。怒らないから聞いてくれよ」
「改まってどうしたの?」
グレンは私の方を指さした。
少しだけ下の方を刺したので、私はその指先に視線を落とした。
それは少しだけ開けた、私のパジャマ姿だ・・・った!?
「ッ!?」
「モモ、ルルの着替えを頼む」
「は、はい!」
もっと早く言って欲しかったわ。
「あ、ルル。親父も話があるらしいから、着替えが済んだら書斎に来てくれ」
「わ、わかったわ!」
私は胸元を隠しながら部屋に戻る。
ほとんど下着姿じゃない。
あれじゃ痴女だわ。
「恥ずかしい。顔から火が出そうだわ」
「ふふっ、ルルシア様可愛らしかったですよ」
「からかわないで頂戴」
モモさんは私に対して色々してくれる。
一週間寝ていたから風呂にも入っていない為、湯浴みをしてもらった。
身体は拭いてくれていたみたいで、そこまで臭いはしてこない。
「湯加減どうですか?」
「気持ちが良いわ」
頭のマッサージまでしてくれる。
モモさんは個人でヘアサロンを開く為にこの屋敷で資金を集めさせてもらっているらしい。
通りで上手いわけだわ。
「ルルシア様は、帝国を追われたと聞きました。これからどうするのですか?」
「詳しく事情は聞いてるのかしら?」
「はい兄とグレン兄様から」
何処まで話していいかわからない。
モモさんを信用してないと言うわけでは無く、彼女を巻き込んでしまっても良いのかと悩んでいる。
「元々追放されるのは予定に合ったから問題ないわ。でもこの国なら伝手はあるもの。なんとかするわよ」
取りあえず今後の方針だけはモモさんに伝えた。
帝国の今の状況や、陛下の安否次第ではまた違う行動に移るかも知れない。
その時にモモさんやグレンを巻き込むのは気が引ける。
「帝国の稲妻ですものね。あ、帝国から移り住むのに失礼でしたか?」
「別にいいわ。それに私はもう貴族じゃないと思うし、敬語じゃ無くていいわよ」
「あ、これは素なんですよ。兄に対してもこんな感じなので気にしないでください」
そうなんだ。
これは貴族じゃなくならないと一生知らなかった事よね。
「私はルルシア様はグレン兄様と結婚すると思ってました。グレン兄様も会長になるための学習を放り出してまで着いていったのですもの」
「あはは・・・でも私なんてグレンには勿体なさすぎるわよ」
グレンは王国の中でもトップクラスの財閥の御曹司。
あいつは商業の手腕も本物で、魔法での戦闘能力も高い。
護衛を付ければ殺害される畏れはほとんどないにも等しいのに、貴族令嬢ですら無くなったタダの平民の私なんて妻に入れる余地がない。
「そんなことないと思いますよ。ルルシア様は頭脳明晰で成績優秀で中等部を卒業されたじゃないですか」
「私は帝国の留学生だったもの」
「ほぼ人質扱いで、入学仕立てはグレン兄様や私も含めて酷い扱いをしたのに、卒業する頃にはほとんどの人が貴女を認めていたじゃないですか。誰にも出来ることじゃないですよ」
「ふふっ、懐かしいわね」
そうね。
グレンもグンジョもモモも、初対面は酷かったわね。
よく仲良くなれたと思うわ。
それからも私はモモさんと雑談を交えながら、湯浴みと着替えを済ませた。
「ありがとうモモさん」
「いえ、これも仕事ですから。お綺麗ですよ」
「服に着せられてるみたいだけどね」
上等なドレスを用意された。
今の私はこれを着れるほどの価値はないわね。
「じゃあグレンとおじ様の元へ行こうかしら」
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