第9話

 彼女は癒やしの装備、舞踊の衣を付けてる。

 つまり即死の攻撃をさせなければ、彼女に勝つことはできない。


「あら、私とまだ闘う気なのかしら?」


「そうですね。確かにタラクサクムの剣術はとても強力です。でもそれだけでしかない!」


 魔法には詠唱と無詠唱がある。

 私は無詠唱魔法を好む。

 だから魔法の出だしやどんな魔法かわからない。

 私は雷魔法ホーネットを両手から左右に放った。

 雷魔法はほとんどが動物の名前で、魔法の特性に合わせて名付けられていることが多い。

 中でも雷の中級魔法ホーネットは、威力こそ少ない者の小粒の雷の弾がターゲットへと追尾していく魔法。

 これなら、ディーラの剣術でも分散はしにくいはず。


「なるほど、手数で勝負ってことね」


 左右両方から迫り来るホーネットは、後ろに大きく下がり前方に来るように避けた。

 くそっ、上手いわね。

 前方に来たホーネットをすべて撃ち落とした。


「当たり前の様に全部無詠唱かよ!大気に眠る焔を示せ!」


 グレンの唱えた炎の中級魔法ガンマ。

 炎の魔力の塊を前方に放つ。

 特殊な効果こそ持たないけど、この魔法は威力がある。


「分散しようが、飛び散った炎がテメェを焼き尽くす!」


「あら、間男さんの魔法はとても眩しいわ。でも遅い」


 グレンは生粋の魔術師。

 私の様に体術も出来る魔術師では無いわ。

 でも、グレンことはグンジョが守る。


「精霊よ、加護に基づき護りたまえ」


「水の壁?」


 グンジョは王国でも珍しい精霊魔法使い。

 精霊の力を借りて発動する、精霊魔法はすべてがオリジナルで、精霊によって固有の魔法が放たれる。

 ウォーターヴェールはグンジョが使う魔法の中でも、相手の目眩ましに使う魔法。

 ぶつける必要のない魔法は、分散するリスクは少ない。

 案の定変なところに向かって剣を振っていた。


「おっと、これは私の感覚を狂わせる魔法ってところかしら」


「一発で看破するか。だがこれだけの隙を作れれば問題ない」


「その通りよ!」


 この隙に上級魔法のハクビシンを放った。

 彼女の剣術はそこそこレベル。

 背中に来る魔法を撃ち落とすのは難しいでしょ。

 そう思ったけど、剣をそのまま後方に振って分散させた。

 

「デカい魔法は囮ってことね。分散を見てるのに、的の大きな魔法を放ったときは阿呆かと思ったけど、良い連携だわ。それにその魔法は落雷って言う、二重での罠も貼るなんてさすがね」


「すべて後手後手に対応したのに、それをすべて受けきるか」


「貴女が無限の体力を持つってだけで、本当に厄介だわ」


「あら、それが貴女の本当の口調なのね。そっちのが似合ってるわよ」


「うるさい!」


 雷魔法ホーネットを左右に放った後、そのままハクビシンの落雷を放つ。

 魔法は本来同時に放てないけど、ホーネットは唯一時間差で二つの魔法を同時に着弾させることの出来る魔法。


「喰らいな!大地に眠りし焔よ目覚めろ!」


 グレンも同時に地面から炎の上級魔法エルプションを放った。

 動きを見た限りでも、四方からの魔法に対処で斬る身体能力は貴女にはない。

 前後に逃げれば、そのまま魔法の中でも一番早い雷の魔法でも最速を誇る中級魔法チーターで貫いてやるわ。


「甘いわね」


 彼女がくるりと回ると魔法がすべて分散してしまった。

 舞踊の衣のドレスに内蔵されている剣が飛びだしている。

 まさか・・・


「私はこの舞踊の衣でも、分散の剣術を使うことが出来るのよ」


「そんな・・・」


「タラクサクムの剣術はここまで進化していたっていうの・・・」


「ねぇ、ルルシア?私が剣術を使いこなす前に、ここに来たと本当に思ったの?ハハハ!滑稽だわ」


 目論見が外れた。

 さすがに舞踊の衣と剣術を組み合わせていると言うことは、予想できないやり方の攻撃をしてくる可能性がある。

 もう、あの剣術を看破しない限り彼女には勝てない事を示している。

 そして彼女は無限の体力を持っている。

 癒やしの装備を持っていて、更に剣術が強いなんて。


「おいルル」


「なによグレン!今、彼女の攻略方法考えてるんだけど!」


「あいつの装備って癒やしなんだよな?」


「え?そうだけど、それがなに?」


 なんでそんなこと聞くのよ。

 それよりも攻略方法を考えないと全滅するって言うのに!


「傷も癒やすのか?」


「そうよ!」


「そうか。あいつ攻撃を全部撃ち落としてるから、てっきり傷を癒やすことは出来ないのかと思ったわ」


 ん?

 たしかに言われてみればそうだわ。

 癒やしとは、体力だけじゃなく傷も癒やすもの。

 私も彼女が重傷者の傷を癒やしてるところを見たことはある。

 でも彼女自身を癒やしてるトコロはみたことないわ。


「まさか、彼女は自分の傷を癒やせない?」


「可能性はあります。俺が試してみましょう。精霊よ、まき散らす水に振動を!」


 ウォータージェット。

 威力こそ石クズがぶつかる程度だけど、それでも擦り傷を負わすこと位は出来る魔法。

 その魔法がディーラに迫り来る。

 さすがのディーラも横に避けた。

 どんな魔法からわからないから、横に避けるのはわかる。

 ウォータージェットは地面に落ちるも、草が少し削れただけ。


「リピート」


 グンジョは同じ魔法を精霊にもう一度放ってもらった。

 それもさっきよりも分裂させて。

 それでもディーラは避けた。


「これはもう決まりね」


「あぁ、避けたと言うことは癒やしは発動できない」


 なら、勝機はある。


「貴女、二度も攻撃を避けたわね」


「ふふっ、今更攻撃を避けたくらいで何かしら?あの魔法には何か策でも?大した威力がないから、避けるか迷ったわ」


「貴女、その衣で自分を治すことはできないんじゃないかしら?」


 彼女は私の言葉を聞くと、強く私を睨み付ける。


「何が言いたいの?」


「貴女が装備で癒やせないなら、貴女に勝つ方法はあるわ」


「あら、貴女の自信満々の魔法はすべて反応出来るわよ」


「いいえ?貴女は私に負けるわ。いや私達にね!」


 私は新たな雷魔法を放った。

 その魔法は前方にただ雷を放つ魔法。


「なによそれ。今更その程度の魔法、対処出来ないとでも思った!?」


 えぇ、でしょうね。

 でもこの魔法は、貴女には対処が絶対に出来ない。

 私達と言う言葉で意識を割いている貴女は、この魔法の特性に気づけない。

 彼女が剣を振り下ろすが、魔法を斬ることは出来ず空を切った。


「魔法が止まっ・・・きゃあああ」


 この魔法は雷の初級魔法ドラゴンフライ。

 相手の間合い2mで一瞬だけ止まる魔法。

 雷魔法は当たればそれで、動きが鈍る電撃の魔法。

 これで私達の勝ちね。

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