第8話
ディーラ・フォン・タラクサクム侯爵令嬢。
カインの婚約者だった女性。
聖騎士の家系の婚約者になれると風潮しまくったあげく、ゴールドマリーに手を挙げたことでカインから婚約破棄された可哀想な子。
私より歳は一つ下だから卒業パーティーには参加していなかったはず。
なのに何故私を追ってきたような発言を?
「なんで、貴女を私が追いかけているかって聞きたいのね?」
「へぇ、話してくれるのですか?」
「えぇもちろんよ。婚約破棄された惨めな貴女を慰めてやろうと思ったのよ!」
そういう割に、彼女は武装している。
この国では女騎士も珍しくはない。
しかし貴族令嬢では珍しい。
ましてや彼女は、動きにくいドレスの腰に帯剣している。
でもそれは、彼女が馬鹿だからということでは決してなかった。
「誰だこいつ?」
「さっき見た聖騎士のカインいたでしょ?あれの元婚約者よ」
「元婚約者。ドレスに剣と歪な格好だが?」
「油断しないで。彼女は偽騎士団長くらいの実力は兼ね備えてるわよ」
「なに!?強敵か。ということは彼女が追手ってことか?」
「正解よ、間男君」
やはり追手なのね。
でも誰がその指示を出したのかしら?
「間男だと?まさか俺のことじゃないよな?」
「間男でしょ?馬鹿で無能な皇子でカイン様があれのどこに期待してるのか知らないけど、それでもそんな皇子の代わりに婚約者をエスコートされるなんて、浮気と捉えられてもおかしくなくてよ」
「古いな考えが。それにあのバカ皇子がルルをエスコートしてれば、そんなことすることもなかったんだがな」
「それもそうね。まぁそんなことどうでもいいの。私はルルシア、貴女を捉えてカイン様のところに連れていくわ」
「そう、誰の命令なのでしょうか」
「そうねー、フォッカーかしら?」
騎士団長がそんな命令を?
いや、少し考えこんだ。
「嘘ですね。ちょっと間がありました」
「あら、気づいちゃった?ふふっ、もしかしたらカイン様かもー」
「そう。あくまで話さないというのなら・・・」
彼女の周りから頭に響くような雷鳴音があたりに鳴り響いた。
「さすが凄まじいな。それにこの威力、魔法の出力弱体化はなくなったのか?」
「そうみたい。私も驚いたわ」
今放った魔法は、相手を殺す火力だけに特化した上級魔法ハクビシン。
上級魔法を選んだのは、火力がセーブされてるからディーラには効かないと思ったから。
それなら彼女を殺すことはできたはず・・・
「さすが、魔法の威力には脱帽ね」
「くっ・・・生きてるのね」
「上級魔法を食らってぴんぴんしてる!?」
「彼女も、魔法が使えるというのですかルルシア様?」
「違うわ。彼女は今、魔法を斬って分散させたのよ」
この国の剣術は貴族が家系ごとに独立した剣術になっている。
タラクサクム家の剣術は分裂。
それもほとんどどんなものでも切り裂き分散させると言う。
「受け継いでない可能性に賭けたのだけど、やはり受け継いでいたのねその剣術」
「えぇ、とても気分がいいわ。これを実践するためにも私は貴女が会場から逃げた時の追撃要員になったんだもの」
「聞いてないぞルル。この国の剣術はそれほどまでに脅威的だなんて」
「確かに当たれば脅威だわ。でも見なさい」
ディーラは息が上がってる。
剣術は魔法と違って体力を使う。
魔力で不思議な力を放ってるわけじゃない。
「原理はわからないが、それだけ消耗も激しいということか」
「えぇ。だけど彼女は剣婦。そう簡単に行くかわからないわ」
「剣婦?剣士とは違うのか?」
剣婦はこの国での女性の剣士の呼び名。
だけど、剣婦は誰でも呼ばれるわけではない。
「剣婦はこの国にある国宝装備の適合者を指すわ。彼女の装備は”
「ふふっ!」
「くっ!」
ディーラの分散の剣が私に襲い掛かる。
受けちゃダメ。
彼女の剣撃は分散してなかった。
つまり触れることで分散する剣術のはず。
私はナイフで一度だけ受けた後後ろに下がった。
ナイフは柄の部分までは分散しなかったが、刃は分散した。
「どうなってるんだ?消耗が激しい奴の動きじゃないぞ」
「舞踊の衣の特性は癒しよ。この国の剣術の弱点の一つの消耗の激しさがまったく負担にならないわ」
「なっ!?そんなのどうやって勝てばいいんだ?」
正直キツすぎるわ。
まさか追手のレベルが剣婦を差し向けてくるなんて。
この国に剣婦は7人いるって聞いたけど、中でもディーラは剣術を引き継げば最強筆頭になると言われていた。
「ディーラは・・・ここで殺さないとダメね」
「殺す?ここは逃げに徹した方がいいんじゃないのか?そのことが本当なら彼女は無限に走り続けるって事だろ?」
グレンの言うことももっともね。
私達は今追われてる身。
彼女を相手にして余裕は無い。
ここで追っ手としては最悪と言っていい彼女と出会ったのは逃げる側としては不運。
だけど…
「グレン、ルルシア様はさっき剣術は受け継いでいないでほしかったと言っていた。つまりルルシア様が彼女に最後にあった時は剣術を使っていなかったってことだ」
「何が言いたいんだよグン兄」
「ルルシア様、彼女と最後に会ったのは?」
流石はグンジョー。
私の意図を察したのね。
「一昨日よ。学園で剣術の訓練で魔物を討伐してたわ」
「つまり、彼女はその時点であの剣術は手に入れてない。ならば我が国の為にも使いこなしていない今しか殺す機会はないと言うことだ」
「ごちゃごちゃ喋って余裕じゃないの!」
私達はその場から飛び上がる。
流石に相談を長々とさせてくれるほど甘くは無いか。
彼女の身体能力はそれほど高くは無いわ。
彼女の特質する能力がそれを可能にしているだけね。
それだけと言っても、剣術が無限に打てるのだとしたら彼女は最強だわ。
彼女を殺した後、舞踊の衣は持ち帰りましょうか。
陛下を助け出す交渉手段になり得るかもしれない。
「おいでもそんな帝国の切り札みたいなやつ殺したらお前や、それに捕まってる陛下は…」
「わかってるわグレン」
彼女を殺せば、シュナイダーの言ったような魅了魔法の魔女という冤罪ではない、貴族殺しって立派な殺人犯になる。
正当防衛とはいえ命を紡ぐのだもの。
彼女殺して舞踊の衣を奪取してこの国を脱出したとして、陛下は今日にでも処刑される可能性もある。
それに王国側に逃げてもこんな装備遊ばせとくはずがない。
困難の方が多いに決まってるわ。
「それでもやるしか無いわ」
その未来にどんな困難があろうと、もう私の困難な人生は幕を開けてしまってるのだから。
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