第7話
追手が来る気配がない。
私達は逃げ切れたんだ。
「陛下・・・」
「ルル、まだ危機は脱してない。国内にいる時点で俺達は追手に追われる可能性がある」
「わかってるわ。人の心配よりまずは自分達の心配、でしょ?」
「そうだ。それにアハト殿下の行動も気になる。彼の実力は一部しか垣間見ることはできなかったが、別格だということは伝わってきた」
アハト殿下は三人の皇子の中でも一際実力がずば抜けて上だった。
ナイフで受けたときだって・・・時だって?
「私、なんで殿下の剣を受け止められたのかしら?」
「だからおかしいんだ。ルルの身体能力があの空間でアハト殿下に勝っていたとは思えない。なのにどうして君は剣を受け止めることができたんだ?」
「弱体化された身体魔法じゃナイフで受けたときに少なくとも腕が痺れていなければおかしい。いや、そもそも彼の一撃をナイフで受け止めること自体、私にできたかどうかも怪しいわ」
それはつまりアハト様は手心を加えてくれていた?
でもなんで?
冤罪で国外追放を命じたり、偽団長に私を殺させようとしたり、彼の行動はちぐはぐだ。
「わからないし考える暇もない。だが、あの場を逃げ切ったことで影との連絡は取れた。ここから逃げるのが第一だ」
「よかった、連絡取れたのね。さすがに影も実力者揃いね」
「それがそうでもないのですルルシア様」
後ろから不意に現れた黒い装束をまとった人間が現れる。
彼はグレンの護衛の影の一人で棟梁と言われているグンジョ・イガラシ。
グレンとは従兄弟にあたり、歳はかなり離れているが仲の良い兄弟のような関係でもあった。
「グンジョ、貴方無事だったのね」
「えぇ、私は何とか逃げ切りました」
「グン兄、ほかの影達はどうした?」
「全滅だ。せめて魔法がちゃんと使えていたら・・・すまないグレン。お前の専属護衛は壊滅状態に陥った」
「なんだって!?」
影達はグレンが実力者だから護衛としての機能があまり使われないとはいえ、グレンや私よりも実力者集団。
そんな彼らは魔法が使えなくなった場合にも備えて剣術の鍛錬もこなしていた。
それでも敵わなかったということは・・・まさか!?
「敵は、騎士団長フォッカー。俺達はたった一人の騎士に手も足も出ずに負けた」
「フォッカー!?だが、あの時騎士団長はパーティ会場にもいたぞ!?」
「私はパーティ会場の騎士団長が偽物だと思ってるわ」
フォッカー騎士団長なら、魔法が封じられたあの場でいえば最強の騎士といえる。
それはこの国で、剣術は彼に並ぶものがいないからだ。
剣術が発展してるこの国でも騎士団全員と騎士団長の実力が拮抗すると言われてるほど。
実際皇子達と私は幼いころから彼に剣術を習っていたこともあり、実力は知っているつもり。
「そういえばそんなこと言ってたな。でもどうしてそう思う?」
「私は彼に剣術を師事してもらっていたわ。もし彼が本物だとしたら、私達はこの場にいない。それだけ彼は強いの」
「それほどなのか。第二皇子といい、この国にもそれなりの強者はいたんだな。少々侮っていた」
「あれはまさに鬼。いや羅刹とでもいいましょうか?たとえ魔法が万全に使えていたとしても勝てたかどうか・・・」
羅刹ね。
確かに彼が戦う時の形相はまるで鬼のそれだったわ。
でも騎士団長があの場にいなかったのは影と交戦していたからで、あの場にいないと困るからシュナイダーが用意した?
いや、シュナイダーじゃなくてもあの場に首謀者の可能性のある人間はいっぱいいた。
それこそアハト様だって。
「それでどうしてグン兄は逃げ切れたんだ?」
「みんなが俺を逃がしてくれた」
そういうグンジョの顔は、自嘲気味に笑っている。
影には彼の友人だっていたはず。
そのすべてが敗北して殺されたかもしれないとなれば、そうなるのも無理はないわね。
「情けない話だ。奴が追撃をしてくるようなら時間を稼ぐが、正直お前達が安全に逃げ切るまでの時間を稼ぐ自信はない」
それはそうでしょうね。
グンジョの実力はそこまで把握できてるわけじゃないけど、それでも騎士団長に勝てるイメージが持てない。
「その時は私が責任をもってグレンだけは逃がすわ」
「何言ってんだルル!?」
グレンは驚いた顔をする。
シュナイダーみたいな奴ならともかくグレンはいい奴よ。
「俺が女を守れない情けない男に見えるか!?」
「なに?男尊女卑?ふふっ、私のこと女として認識してたのね」
「当たり前だ!だって俺は・・・」
「ねぇグレン。私は私自身の婚約破棄騒動、魔女騒動に巻き込んで貴方が命を散らすとこなんて見たくない。私が耐えられない」
「ルル・・・」
「それにまだ騎士団長が追ってきたとは決まってないわ。幸い追手は迫ってきてないわ。だから・・・」
「ハハハ!ルルシア!こんなところにいたのね!」
だから今は逃げることに集中しましょう。
そう言おうとした私の言葉は、一人の女性によって遮られてしまった。
「タラクサクム嬢・・・」
「あら、昔のようにディラって呼んでくださらないかしら?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます