第6話

 眩しい世界が終わった後、防御魔法を展開していた私と周り以外は何もなくなっている。

 はずだった。


「馬鹿な・・・なんであんたが」


「母上、俺はシリィとの約束を守ろうとしているだけだ」


 超級魔法を防げるのはこの国で三人だけ。

 それは私と、シュナイダー殿下以外の二人の皇子。

 その一人は、第二皇子のアハト様。

 アハト様は陛下の首に剣を向けていた。


「俺にはシリィしかいなかった。そしてシリィが死に際の俺に求めたのは家族をどうか恨まないでくれと。だが俺は彼女の最後の願いを無下にしてしまった。彼女の義母を怒りのままにこの手で殺してしまった」


「だから、私に剣を向けるっていうの!?シュナイダーだけでなくあなたまで・・・」


「俺は自分が許せないだけです」


 そう言って陛下の扇子を剣でへし折ってしまった。


「なっ、まさかあなた!?」


「魔法で強化してましたか?この場にいる人間の魔法は弱体化してますよ。あなたほどの魔法使いを殺すのに、対策を講じないわけがないじゃないですか」


 そういうとそのまま陛下に剣を振り下ろそうとする。

 私はトレスに仕込んであったナイフを取り出し、その剣を受け止めた。

 護身用に持っていてよかった。

 魔法が弱体化してると言っても、身体強化の魔法で多少の筋力は上げれた。


「ルル姉さん。危ないじゃないか。危うく殺すところだった」

 

「アハト様!何故こんな事をするのですか!?」


「さぁ、それは自分で考えて。無知は罪だ。けど俺は母上しか狙わない。君は好きなように生きるといいよ」


「それは・・・がはっ!」


 私は腹に蹴りを入れられ吹き飛ばされる。

 それをグレンが受け止めて壁に叩きつけられるのだけは避けれた。


「ルル姉さんの護衛か。この国は荒れる。早く彼女を連れてこの国から去るといい」


「これは丁寧にどうも!だが俺はお嬢様の護衛です。お嬢様の意向に従うだけだ」


「ふふっ、この状況で中々強気だ。じゃあこう言えばいいか?聖女を魅了魔法を使い陥れようとした魔女よ。兄上との婚約が破棄された事はこの俺が証人となった。よって国外追放の刑とする」


「アハト・・・様?」


 正直言ってアハト様がシュナイダーに付くなんて思っても見なかった。

 いくら兄弟だからって、彼の暴挙は昔から知っていたはずなのに。


「何を勝手なことを!」


「母上、貴女はこれまで父上の代わりによくやってくれました。俺は貴女に愛されてると思っていたのですがね。まさかは母上に裏切られていたとは思いませんでした」


「な!?」


 陛下は驚いた顔をする。

 まさかアハト様までシュナイダーの戯言を信じたって言うの!?


「何をしている騎士団長。早くあの魔女を討て」


「はっ!アハト殿下の名の下に!」


 偽騎士団長とはいえ、彼の剣の腕は私より上。

 今の弱体化された魔法で身体強化したとして、勝てるかどうかわからない。

 逃げに徹すればおそらく逃げ切れるだろうけど、陛下をこんな敵だらけのところに置いていけるわけもなかった。


「グレン!影の人達は!?」


「わからない!連絡を取るための魔法もうまく使えない!」


「ごちゃごちゃ余所見をするな!」


 偽騎士団長が私に剣を振り下ろしてくるが、さすがに愚直すぎる。

 この程度なら避けれる。

 偽物だとわかる剣裁き。

 本物の騎士団長ではないとわかるけど、じゃあ本物はどこにいるの?

 それに陛下が・・・裏へと連れていかれる。

 魔法なしではアハト様に勝つのは難しいから。


「死ね魔女風情が!」


「卑しい魔女め!」


 横から二人が飛び出してきた。

 さすがに偽団長の攻撃を受けながら彼ら二人の対処なんてできない。

 私は目を閉じるが、この場にはグレンもいたことを失念していた。

 グレンは二人を出力が落ちた魔法で処理して、私に手を貸してくれた。


「ルル、お前はこの提案断るだろうが言うぞ」


「陛下を見捨てて逃げるなんて私はしないからね?」


「馬鹿野郎!もうこれはそんな次元の話じゃないってわかってるだろ!」


 わかってる。

 グレンについてる影は、いくらグレンが優秀とは言ってもグレンより強い。

 そしてグレンと私の実力差は、魔力量がなければグレンに勝てる要素がないくらい離れてる。

 そんな彼らが足止めを食らう時点で、この場でなりふり構う余裕なんかない。

 魔法の出力が落ちてしまっているこの場では、私が一番の足手まといだもの。


「それでも陛下を、育ての親をこんなところに置いてくなんて・・・私には!」


「ぐっ・・・わかった!俺はお前を見捨てる気はない!だからお前が陛下を助けに残るというなら、俺はここで共に心中しよう」


 それはずるい。

 要するに、グレンか陛下を天秤にかけろってことじゃない。

 いや、そういわないと私は冷静な判断を下せないと判断してのことだろう。

 汚れ役を買わせてしまった申し訳なさでグレンを見る。


「ごめん。冷静じゃなかったわ。逃げましょう。幸い後ろに窓があるわ」


「あぁ。影達もこの状態には気づいてるはずだ。この様な状態になったときに合流場所は決めてある」


「じゃあそこに行くのね。でも上手く合流できるかしら?」


「ここの様子を見に来る奴と、合流場所に行くやつで別動隊に分かれるはずだ。それよりも俺たちは逃げ切れる確約を得たわけじゃないぞ」


「大丈夫。逃げに徹するなら出力が落ちていても問題ないわ!こうすれば!」


 火と水の魔法をぶつけ合って水蒸気をパーティ会場にまき散らした。

 でもこれだけで止まるほど王国騎士はやわじゃない。

 

「だからファイアバレッドで!」


 ファイアバレッドは火の初級魔法。

 出力低下も相まって当たってもやけど程度の威力の魔法だけど、令嬢にとっては致命的。


「きゃあ!」


「王国兵何してるの!早くわたくしたちを守りなさいな!」


「ちっ!」


 王国騎士たちは貴族を守るのが役目。

 ファイアバレッドを身体で防ぎながら落としていく。

 見えてないのに、予想で撃ち落とすのはさすがというところ。

 だけどこれで余裕が生まれた。

 私達は近くの窓をそっとあけて、グレンが反対側の窓にファイアバレッドを打ち込んだ。


「窓が割れる音がした!早く追え!殿下に魔女の首を献上するのだ!」


 そして追撃の騎士達は次々とグレンが割った窓の方へと向かっていく。

 陽動も相まって私達はなんとか、卒業パーティの会場を抜け出すことに成功した。

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