10.エピローグ

 家に警察が来て、今、僕は手錠をかけられてパトカーに乗っています。

 暮らしていたアパートから離れ、パトカーの密室の中、ただ、車窓に映る景色を眺めていました。外の景色は、既に枯れつつも紅葉が広がっていました。秋も終わりかけているようです。とても静かでした。

 僕は、作家になることが出来ませんでした。

 それどころか、人間をやめてしまいました。

 今まで培ってきたものがすべて水泡に帰したのに、不思議と何の感情と湧きません。喜びも悲しみも怒りも、何もないのです。

 あえて言えば、自分は気がついてしまいました。

 自分には何もなかったことを。

 依田先輩の言ったことは、今の自分には正論だと思います。枝野くんの「何者かになりたい」気持ちが、痛いほどにわかるのです。

 そして、僕は気がつきました。

 自分が『物語』になったことを。

 僕は作家になれなかったけれど、『物語』になってしまったのです。僕が依田先輩を殺した。大学生が殺人鬼になってしまったことを、マスコミや群衆は騒ぎ立てるでしょう。

 物語そのものになったこと、歪な形で夢が叶ったことに、自分は途方もない気持ちでいます。

 その代償を、これから払い続けることになるのでしょう。

 この身を投じて、人生を全て、贖罪に費すことになるのでしょう。

 これは、僕が殺人鬼に至るまでの、地獄のような物語。

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