第2話 チート

全裸の男を仲間に引き入れた俺は、飲食店でそいつと話していた。


「オレの名前はササキ・ブレイブ、勇者って意味だ!すげーだろ。」


とんでもなくそのままな名前だな。親のネーミングセンスなさすぎるだろ。

ていうか、名字が日本過ぎる


「へえ、俺の名前は山岡宗一郎だ。宗一郎ってのは長いから、適当に略してくれ。」

「うーんじゃあ…。」


多分俺の名前を略すならそこまで悩むことはないはずなのだが…。

ササキはううんと頭を悩ませていた。



「ソウロウで。」



「絶対やめろ。」

「え?だって何でも良いって」

「そんなことは言ってない!」


あやうくとんでもない名前で呼ばれるところだった。

もう少しちゃんと考えてくれ…


「じゃあチロウで」

「絶対やめろ!!!!場合によってはさっきより酷いからな、それ!」

「じゃなんて呼べばいんだよッ」

「ソーイチ、そうよべ!」


ササキはなんだか不満そうだが、無視した。

俺はソウロウもチロウもお断りだ。



「ササキ、冒険者ランクはどれくらいだ?俺は残念だがGランクだ。」


冒険者ランクは上からS、A、B、C、D、E、F、Gまである。

俺は最低ランクなのだ。





「Sランクだ。」




「今なんて?」


「だから、Sランクだよ。」


俺は首をかしげた。

なんだこいつ?嘘をついているのか?そうだよな、Sランクなんてそうそういない。

何かハッタリでもかけようとしているのか。きっとそうだ。


「じゃあ、冒険者カード見せてくれよ。」


冒険者カードとは、冒険者のステータスや冒険者ランクが書かれたカードだ。

それを見せれば、他の国に入るための入国料がある程度免除されたり、結構便利なのだ。

そのカードを偽って書くことは非常にむずかしい。それこそ偽造スキルを使わないといけない。

きっと本当のランクが書かれているはずだ。


「ほらよ。」


そうやって渡された冒険者カードにはしっかりと『Sランク』と書かれていた。



「偽造スキル持ってたのか?」

「してねーよ!」



「ほんとに?」

「本当だよ!!」


ま、まさかこんな、こんなアホ面が?

誰かのカードを強奪したとかでは無く?


「おい、ソーイチお前とんでもなく失礼なこと考えてないか?」


ステータスを見ると、どうやらこいつは、筋力や耐久力などに全振りされているようだ。

…戦士タイプか。

どうやら俺は、とんでもないやつを仲間に引き入れてしまったらしかった。



まあ、ササキは身ぐるみを剥がされていたので金など持っているはずもなく。

また金稼ぎに舞い戻ることになってしまった。

だがこいつはどうやら結構魔物を倒したりすることが出来るらしく、2人で依頼をこなすことになった。


「この、レッドドラゴン討伐はどうだ!報酬は100000金だぞ!」

「無理!!俺死ぬ!」

「知ってるか、冒険は死んでからが始まりなんだぜ?」

「始まりどころか終わってるじゃねーか!」


ランクの差による倫理観は結構差が出るらしい。

冒険者は仲間や自分の死になれていて倫理観が少しおかしいと聞いたことがあるが、こんなにナチュラルに言うなんて、とんでもないな。

前の世界では死んだら終わりだし、重い話になるというのに。


「しょうがないなー…、じゃあ盗賊団の討伐は…。」

「人を殺すのはNGだろ!」


俺なんてスライムを倒すことにさえ抵抗してしまうのに…


「じゃあオーク討伐…。」

「俺スライムも倒せない…」


ササキはじとっとした目で俺を見ている。だってしょうがないだろ…、出来ないんだから。


「じゃあ、ソーイチは見てるだけで良いよ今日は。」

「…俺の存在意義がなくなっちゃう。」

「めんどくせえっ!後で鍛えてやるから、な?」


なんか、俺がめんどくさい女みたいじゃないか。

なんでだよっ!!



結局ササキは1人でレッドドラゴンの依頼を引き受けた。

1人で受けるなんて、とんでもなく自信があるのか、それとも死ぬことを前提で倒しに行くのか分からないが、俺はササキの戦闘を見ることにした。

レッドドラゴンは、ダンジョンに繋がる洞窟の前の、森の中の木の生えていないくぼみのようなところで寝ていた。

いやちがう、レッドドラゴンが木を焼き尽くしたかなにかをして寝どころを作ったのだろう。

つまり、ササキはそんなやつを討伐しようとしているのだ。


「おーい、起きろ~おねんねタイム終わりだぞお。」


ササキはそう言って、レッドドラゴンを剣でつついた。ちなみにこの剣は俺が少ない財産から買ってやったやつだ。

レッドドラゴンは目を覚ました。


「グギャアアアオオオオオオオオオオ!!!」


レッドドラゴンの咆哮で、木々が飛ばされるほどに揺れた。

耳を塞いでも耳鳴りがキーンとなった。

一番近くで立っていたササキは、まあ言わずもがな耳がとんでもないことになったらしいがそれでもにやりと笑った。

俺がするような気持ち悪い笑みではなく、なんだか格好いい笑みだ。

顔の良いやつは何しても格好いいなんて、羨ましい限りだ。


レッドドラゴンはその足でササキを切りつけた__ように見えたが、ササキはそれをいとも容易く避けた。


動く度に土埃が舞い、目や鼻や口に入ってくる。俺はその度に咳き込むはめになっている。見に来たのは間違いだっただろか。


ドラゴンは避けるほどに口を大きく開け、そこから灼熱の炎をはき出した。

その炎はササキのいる所に吹かれたが、俺が見たのは、ササキが丸焦げになる姿では無く、それを華麗に避けるササキの姿だった。

灼熱の炎は緑と木をぼおぼおと焼き上げ、ササキがさっきまでいた所は、丸焦げになっていてみるかげもない。

ちなみにこちらにも炎の熱さが来ていて、俺もじっくりと燻製にでもされてしまいそうだ。

レッドドラゴンは炎を巧みに操り、上に下にとササキを焼こうとするが、それが叶うことはない。


「なんだよ、その程度か?」


そうやって笑いササキは、大地を踏み込み、大きく空を飛んだ。

実際飛んだのではなく飛び上がったのだが、本当に空を飛んだようにしか見えなかった。

次の瞬間、ササキの持っている鋭利な刃がレッドドラゴンを襲った。



俺はそんなササキとレッドドラゴンの戦いをただ見つめることしかできない。

ただ、わかったのはササキの冒険者ランクは、偽造したわけでも、カードを強奪したわけでもないということだった。それだけ、俺には手が届かないほど強いということだ。



目の前には、首を切断されたレッドドラゴンの残骸と、その前に立ったササキがいた。



ササキはにっと笑ってこちらを向く。

「100000金、ゲットだぜ!」

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