第1話 全裸の男

異世界に来て三ヶ月。俺は早くも壁にぶち当たっていた。


パーティメンバーである。


俺だって異世界に飛ばされたのだから、冒険だってしたい。だが、冒険をするためにはどうやっても金が必要だ。

俺は前世の料理の知識で、金を貯めるために、前世は、家族が料理店などの営業をしていて、仕事を手伝ったりしていたので飲食店の厨房やら、魔物の解体作業などの仕事をした。そして二ヶ月半が経ち、ようやく冒険の費用が貯まったときだった。


その日、俺は己の愚かさに気づいた。


冒険したいという気持ちはあっても体や経験が追いつくというわけではない。

俺は元々運動音痴だ。元々というか、今もそうだ。

冒険者ギルドでは自分のレベルとステータスの低さで馬鹿にされ、初めての依頼で、スライムを倒そうとしたら、あやうく窒息死しかけた。

この世界じゃ蘇生なんてのは僧侶が居れば容易いらしいが、それでも苦しいものは苦しいし、はっきりいって本当に死んでしまうなんてのは御免だ。

そして自分の実力じゃすぐに僧侶のお世話になるだけなので、パーティ、つまり仲間を集めようと考えたのだが。


「全く集まらん。」


そりゃそうだ。スライムですら死にかけるような俺は、大抵のパーティでお荷物役にすらなれない落ちこぼれだ。追放ものどころの話ではない。

こんなことになるぐらいならあのぼったくり詐欺女神(仮)のオプションを借金してでも受け取っておくべきだったのだろうか…。無償提供と書かれていた勇者の剣すら俺は受け取らなかったが、受け取ったら何か変わったのだろうか。

いや、駄目だ。そんなもの受け取って何になる。あんなぼったくり女神のことを考えるのはやめよう。うんざりするだけだ。


ああ、どうしよう…。そう俺は、路地裏でつぶやいたその時だった。


「ぎゃっ」

近くにあった店の裏戸から、全裸の男が投げ出された。

俺は、そう言いうずくまる男を哀れみの目で見つめた。おおかたギャンブルで大負けしたか、万引きかなにかでもして、身ぐるみを剥がされこうやって路地裏に投げ出されたのだろう。

異世界に来てからしばらくたったがこういう光景は意外とあるものだ。

少し可哀想だが、したたかに生きて欲しい。

あのひとだれー?こらっ見てはいけません というように俺はその場を去ろうとしたのだが、俺の足はそこから動きやしなかった。

足がすくんだわけではない。男が俺の足を掴んでいるだけだ。

だがこいつ、案外力が強い。マジで動けない。


「いっででででで、なにすんだよ!」

「おねがいだ、助けてくれよっ、何でもするからさ。」


男は俺を縋るような目で見ている。そこで俺はいいことを思いついた。


「ふうん、なんでもね?」




流石に全裸のままでウロチョロされてもかなわないので、まず男に服を買ってやった。安い焦げ茶の服だ。

俺のサイズで買ってしまったものだから、こいつには小さかったらしい。

俺の身長はどうやら一部では人権がないらしいが、こいつはちゃんと人権がありそうだ。非常にうらやましい。

女神(仮)の出したオプションに身長を伸ばすものがあれば考えたかもしれない。




「飯までいいのかー!?いやーほんと助かるよ!」


定食屋に入った。どうやら異世界にも美味しい飯はあるらしい。

一部の異世界の話では美味しい食事はない、だとか昔は香辛料が貴重だっただとかいう話を聞き、飯にはあまり期待していなかったのだが、魔法や魔物の巣喰うこの世界では料理が発達するのもおかしくはないのかもしれない。


「じゃあ、俺はあ、このえびふりゃー定食で!」


えびふりゃー…、エビフライか。

男はヨダレを垂らし、目を輝かせていた。


「好きなのか?エビ」

「まあなー、ぷりぷりしてていいんだよ。女の尻もこんな感じなのかなー。」


ちょっとわか…、いや、ぜんぜんわからん。



男はえびふりゃー定食、俺はチーズインハンバーグを食べた。

男はとても満足そうな顔でにまにまとにやついていた。よく見るとこの男は結構端整な顔立ちをしている。なんだこいつ、俺の持ってない物持ちすぎだろ。


「それで、なんでも話聞いてくれるって話だったよな?」

「おう、ってなんでそんなにやついた顔してんだ…。」


あれ?にやついてたか?まあ、だってそりゃ…

「おい!もしかしてお前…、俺のこと…。」

「?」

「性のはけ口にするつもりじゃ…、」


俺は、多分初めて女神(仮)にあった時と同じぐらい口をあんぐりと開けていた。

周りの目が自分の方に集まってくるのが分かった。

額に冷や汗が流れた。



「いや、俺に男色の趣味はない!!!!」


俺は叫んだ。女神(仮)の気持ちが、少し、少しだけ分かったような気がした。嬉しくは無かった。





「で、俺に何して欲しいって?」


そう、少しジトッとした目で男は俺を見つめてくる。

…まだ疑っているようだ。

すう、と大きく息を吸った。



「俺の仲間になってほしい。」

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