異世界転移物語

pcラマ

第0話 女神(仮)

「ああー、貴方は死んでしまったのです」


わざとらしい声で目が覚めた。そんな適当な言い方で死を告げられてしまったので、俺は口をあんぐりと開けることしか出来なかった。

死んだ?死んだのか?俺は


「し、死んだって、俺、まだ、まだやりたいことが…、沢山」


ようやく、心の許せる友達が出来て、昔よく話していた女の子の幼馴染みと、また仲良く話せるようになって…、後はなるようになるだけだったのだ。

勉強も少しづつ努力して、成績も良くなって…、今、始まるところだったってのに。

死んだ瞬間も、何故死んだかも、分からない。覚えていない。


「冗談だよな。そうだよな…。」


周りを見渡すと、そこは真っ白な世界だった。端的になるが、そうとしか言えなかった。正面には豪華な椅子に座った美女がいた。

肩まで程の長さの、隅々まで手入れされたつややかな白髪、琥珀色の瞳に、神秘的な衣装としか言えない紫色の衣服の上に纏われた羽衣。

多分、こいつは、女神だ。

直感でそう思った。


「冗談ではありません。ですが哀れな貴方に更正の機会を与えましょう。」

「更正って、俺は犯罪でも犯したのかよ!?言うなら『更正』じゃなくて、『更生』だろ!」


女神は俺の言葉を完全に無視し、白いボードを取り出した。白い世界に白いボード、これほど見にくいことがあるだろうか。

そこに書いてあるのは、日本語ではなかったが、何故か読むことが出来た。何故だろう。昔見た異世界チートでは気づけば異世界語が話せるようになっていたが、これも同じような感じなのだろうか。


書かれていたのはこのようなことである。


・言語理解コース(済)

・勇者の剣 無償提供

・魔力増量コース +100000000000000000000金

・美少女ハーレムコース +200000000金

・勇者の剣グレードアップコース +8000000金

…などなど


「一、十、百、千…、いや読めるか!というか、払えるか!」

「ああ、この世界は魔王に脅かされているのです…、どうか、この中から一つのコースを選び、この世界を導くのです。」


こいつ、どうやら俺を完全に無視しているらしい。話を勝手に進めやがる。


「というか、済ってなんだ、済って!まさかこれも払えなんて言うんじゃないだろうな!?」

「言いませんよ。これは無償サービスですから。」


女神はニコニコと笑ってそう答えた。というか、女神と言うよりセールスマンじゃねえか。死んだとかはもう後回しだ。まずはこの女神(仮)をなんとかする方が先だ。


「それで、俺はこの中のどれかのコースを選んで払えと?でも俺は見ての通り死んだ身。払えやしませんよ。」

「ですから、魔王を退治していただく過程で、分割払いで構いませんので。」

「転生早々借金させる気か!!」


そこまで言った後、女神(仮)はなんだか渋い顔をした。そんな顔をされたって困る。俺だって死んで早々、転生やら借金やらと言われてはいはいそうですかと言えるほどあほではない。


「ですがこっちも貴方を召喚するのに凄く手間取ったんですよ?」


そうか、確かに人間1人を異世界に召喚というなら、想像もできないほどに手間がかかるだろう。確かにこのボードに書かれた金額も割には合っているのかもしれない。

…ん?召喚?


「俺、死んだんじゃねえの?」

「あっ」


あっ、ってなんだ。あっ、て。

女神は遠目でも分かるほどに汗をだらだらと流している。怪しい、こいつ、何か隠してやがる。


「おい、俺は死んだんじゃ無くて『召喚』されたのか?」

「えっ、えっと…、それはですね…。」

「おい。言え。」


目を泳がせる女神(仮)を俺はじーっと見つめる。こりゃ、黒だな。

だから俺は死んだことに自覚が無かったのか。死んだら何か覚えているはずだし、俺が最後に覚えていることと言えば、路地裏に落ちていたいかがわしい雑誌をみてにやにやと…いや、これは思い出さなくて良かったな。


「こ、この話は無かったことに!」

「は?ちょ、待てって」


俺が止めようとするまもなく、女神(仮)は、豪華な椅子と共に俺の前から消えた。

そりゃあもう、ポンッと。


俺がしばらく呆然としていると、四方八方白い世界は倒れた。

四方に真っ白な壁があったようで、つまり、ハリボテだったのだ。


俺は真っ白な世界の残骸と、草原の真ん中で、ただ1人突っ立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る