電子マネーの罠 ※フィクションです

狐付き

交通系電子マネーで残高が足りなかった男がテンパる話

 いやさ、電車に乗るときとか自動改札に残金表示されるじゃん? だから凡そで金額把握してたんだよ。

 1500円はあるはずだった。ラーメン全部入り1260円。食えるじゃんって思うだろ?

 でも何故か足りないんだよ、330円! 後払いだからもう食っちゃったし!

 なにが「俺、現金は持ち歩かない派なんだ」だ! 持ち歩けよ、俺!


 と、とりあえずレジから離れよう。席に戻って少し考え……えっ、もう片付けてる?

 うわ、夕方前だってのに外は結構並んでやがる。早くどかないと邪魔だ。

 え? 質草置いて家へ取りに帰れ? ここまで車で片道2時間かかったんだよ。しかも金取って戻るとき帰宅ラッシュ時だから3時間はかかるかもしれない。おのれ環八。

 だから金取りに戻って更に帰ると7~8時間かかるわけ。それは流石にきつい。


 スマホ決済は? えっ、ぺーぺー使えないの? 使えねえなぺーぺー!

 家族に持ってきてもらえ? いやだから片道2時間かかるの。しかも車は俺が乗って来てるから……電車? ここ最寄りまでどんだけかかると思ってんだ。知り合い? いねえよ!


 別にわざわざラーメン食いに来たわけじゃないんだって。仕事だよ、仕事。まさか取引先に金を借りろとか言わないよね。


 えっと、皿洗いとかじゃ駄目? 素人に任せたくない? そうですか。

 じゃじゃじゃじゃあ芸、芸をやって客寄せするんで……いやいやいや、警察はやめて!

 食い逃げとかじゃないから。現に逃げてないでしょ。


 いやあの、はい。すみません。ちゃんと確認しなかった自分が悪いんです。

 あっ、じゃあスズナSR! スズナSR置いてくんで、後日また来るってことに……えっ、駄目? 紙切れだなんて、これ1万円近い価値あるのに……じゃあ売ってから? これを売るなんてとんでもない!


 ……あっ、そうだ! 質草スマホ置いてくんで、10分待っててください!


 父親はけっこう雑で、小銭をいつもポケットに突っ込んでいる。だから車に乗るたび小銭がシートの下とかに落ちる。それを集めれば……よかった、足りた。車で来てよかった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

電子マネーの罠 ※フィクションです 狐付き @kitsunetsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ